表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/91

第二十話 気闘法と呪文書

 道具屋で魔女に拘束され、無駄な時間を過ごした。

 二時間程で解放されたが、閉店時間を大幅に過ぎていたため大将の所に寄れず、宿にそのまま戻る事にする。

 

 

 宿に戻り、受付の前を通りかかった所で、受付の方から声を掛けられる。

 

「夕食の時間は、もう終わったわよ」

 

 振り返って受付を見ると、栗色の髪の少女が受付から身を乗り出している。

 

「判っている。間に合わなかったか……」

 

 晩飯抜きはきついが、仕方がない。

 肩を落とし、借りている部屋へ行きかける。

 ……が、宿代の事を思い出して受付に行く。

 

「忘れないうちに、宿代を払っておく」

 

「確か……今日までの分は貰ってたはずだけど?」

 

 カウンターに台帳をひろげ、少女が確認している。

 

「明日からの分だ。金がある時に払っておく。金が払えなくて、寝床がないのは困るからな」

 

「そう。それで、何時までの分を払うの?」

 

 少女が確認してくる。

 

「……そうだな。取り敢えず一ヶ月分を」

 

 財布の中身を確認し、消耗品にかかる金額を大雑把に計算して答える。

 

「一ヶ月分ね。サービスは前と同じ朝晩の食事と昼の弁当でいいよね? ……一ヶ月分で二万二千五百ジールになります」

 

「……」

 

 俺の返事を聞かずに、少女は代金を計算して請求してきた。

 サービス内容を変える訳ではないので問題はないのだが、人の返事位は聞いてもらいたい。

 ため息を吐きつつ、受け皿に代金をおく。

 

「前払いありがとうございます。またお願いしますね」

 

 代金を確認すると、少女は受け皿を持ってさっさと奥に戻っていく。

 呆れつつその背中を見送った後、部屋へ戻った。

 

 

 ベッドに腰掛け、シールドとエナジーボルトの呪文書を取り出し、サイドテーブルの上に置く。

 呪文書を取り出してから、収納の指輪が無くなった事を思い出す。

 収納の指輪の効果を甲冑に吸収したと聞いているが、実際どうなったのだろうか?

 そう疑問を抱いたら、脳裡に直接答えが返ってきた。

 

『――告。収納の指輪と甲冑の武具収納の効果を統合した結果、魔法倉庫に変化しました』

 

 ……甲冑に宿る意思の声。

 これまでの様子から見て、甲冑絡みの疑問にはすぐ答えてくれるらしい。

 ついでなので、どれぐらいの量を収納出来るのか聞いてみる。

 

『――告。魔法倉庫の収納容量は、大体城一つ分になります。因みに、収納の指輪の収納容量は家一軒分です』

 

 収納の指輪の収納容量が、家一軒分とは知らなかった。

 どの位の大きさの家を基準にしているのかは分からないが。

 取り敢えず、大量に収納出来ると理解しておく。

 それすら使い切れそうな気がしないのに、更に増えましたと言われてもあまり意味がない。

 城一つ分に増えようが、使い切れない事に変わりは無いからだ。

 大体城一つ分とか家一軒分といっても、その基準も分からない。

 時間の無駄なので、考えるのを止めた。

 それよりもやるべき事はある。

 

 

「さて、先ず何をするかな?」

 

 呪文書を使って魔法を覚えるか?

 それとも、練気と循環の訓練をするか?

 どちらを先にしてもいい。

 どっちにするか?

 暫く悩んでいると腹が鳴り、空腹を激しく訴えてきた。

 やはり、晩飯抜きは耐えられない様だ。

 何か食べないと。

 外に食べに行きたい所だが、“無能”の俺が食いに出ても酔っぱらいに絡まれるだけで、碌な事はない。

 仕方がないので、魔法倉庫を漁り食べられそうな物を探す。

 見つかったのは、携行食と干し肉が二切れだけ。

 携行食は、ダンジョンから出られなくなった時の保険なので、安易に食べる訳にはいかない。

 今日の晩飯は、二切れの干し肉だけか……。

 何も食べないよりはましだろう。

 サイドテーブルに置かれている水差しを取り、コップに水を注ぐ。

 

 干し肉を食いちぎり、噛む。

 ひたすら噛む。

 合間に水を飲み、延々と噛み続ける。

 

 そうして、二切れとも食い尽くした。

 量的には全然物足りないが、これで満足するしかない。

 多少は空腹が紛れて、何かやる気が出てきた。

 考えて迷うのも時間の無駄だ。

 考えるのも面倒になってきたので、金貨を一枚取り出しコイントスで決める事にする。

 

 表だったら、呪文書で魔法を覚える。

 裏だったら、練気と循環の訓練。

 

 そう決めてコインをトスする。

 落ちてきたコインを左手の甲で受け止め、右手でおさえる。

 右手をよけ、コインの裏表を確認。

 コインは裏が出ていた。

 練気と循環の訓練から始める事にした。

 

 呼吸を強制的に身体に刻み込まれた練気の為のものに、意識して切り替える。

 元から存在する、微弱な気を練気で密度を高めていく。

 ある程度気の質が高まった所で、気を全身に循環させる。

 気が全身に流れているイメージで意識して行わないと、上手く気が循環しない。

 気の流れが安定するまで、意識して気を循環させる。

 だが、最初と比べると、格段の差があるのは確かだ。

 全く感じる事すら出来なかった気が、拙いながらも扱える様になっているのだから。

 練気と気の循環を暫く続けてから、アドバイスしてもらう為にレイを念話で呼び出す。

 

『ようやくお呼びが掛かったか。待っておったぞ。しかし、そなたもお楽しみだったようじゃがの』

 

 ……魔女とのアレを、確り見ていた様だ。

 助けてくれてもいいだろうと言い掛けたが、レイが外部に干渉出来ない事に気付いたので止める。

 それに、暇潰しと言っていたので、観察を止めろと言っても無駄だろう。

 

『そんなことはどうでもいい。それよりも、気の循環について教えてくれ』

 

『ふむ……先程も言ったが、上手く気を循環させておる。我に教えられる事はないの』

 

 気の流れを確認したのか、特に問題はない事を伝えてきた。

 

『そうか……循環させ始めが上手くいかないんだが、何かいい方法があったら教えてくれ』

 

 自分ではお手上げな問題点の解決法を、親切丁寧に教えてくれる事を期待して聞く。

 

『そんな便利な方法なぞないわ!!』

 

 想定外の、頭に激痛が走る程の怒りが感じられる返答が返ってきた。

 どうやら念話は、感情の起伏も頭に物理的な影響を与える様だ。

 頭を抱えて歯を食いしばり、痛みに耐える。

 痛みが治まった所で、レイに苦情を訴える。

 

『……そこまで怒る必要があるのか?』

 

『怒らせることを言っておいて、よくそんなことを言えるの』

 

『あんたを怒らせる様な事をいった覚えは無いんだが?』

 

『全く……分かってないようじゃの。聞けば何でも教えてもらえると思っておるのが気に食わんだけじゃ』

 

 言われてみれば、確かにその通りだ。

 気軽に聞いたが、相手からすれば虫がいい話だろう。

 言われてから気付く俺にも問題があるか。

 これは、俺が悪いのは明白なので、今後の長い付き合いの事も考えて素直に謝っておく。

 

『済まない。今まで頼れる相手がいなかったので、あんたに甘えていたようだ』

 

『ほう……素直じゃな。そなた位の歳じゃと、反発すると思ったが?』

 

『明らかに自分に非があるなら、謝りもするさ』

 

『ふむ……まあ、よかろう。そなたの素直さに免じて、教えてやろうかの』

 

『それは、ありがたいな』

 

 レイの機嫌が直った様で何よりだ。

 

『簡単な事じゃからの。心して聞くがよい』

 

『ああ』

 

『それはな、日々休む事無く練習することじゃ』

 

『……』

 

 それは……その通りだが、時間が掛かりすぎる。

 すぐに解決する方法は無いのだろうか。

 

『どうしたんじゃ? 急に黙り込んで』

 

 俺の沈黙の訳に気付いたのか、レイが声を掛けてくる。

 

『まさか、そなたは自分がどうやって気を扱える様になったか、忘れた訳ではあるまい』

 

『忘れていないが、もっと早く解決する方法は無いのか?』

 

『あるわけなかろう。そもそも“気功・気闘法大全 完全版”を使って、強制的に気を扱える様になったそなたに、そんな都合のいい方法なぞないわ』

 

 やはりと言うべきか、そんな都合のいい方法は無いらしい。

 

『普通なら、呼吸法を身につけてから、気を感じられる様になるまで早くて数ヶ月。遅いと、年単位で時間が掛かるというのに。それをすっ飛ばして、強制的とはいえたった数日で循環にまで到っているそなたが贅沢を言うでない。我でも、達人と呼ばれる域に到るまでに十年以上掛かっておるというのに』

 

 レイの言う通りなのだろう。

 それでも、俺には力を欲する理由がある。

 

『贅沢なのは分かっている。だがな、あんたも見ていたはずだ。属性魔法を使えないだけで“無能”と呼ばれ、甲冑を奪う為に殺されそうになった俺を。生き延びる為には、そういった連中を返り討ちに出来る力が必要なんだ』

 

『じゃがな、こればっかりはどうにもならん。練習を重ねて、使いこなせる様になるしかないのじゃ』

 

 気闘法の元使い手であり、自称達人のレイの、おそらくは経験からの説明に諦めるしかない事を理解する。

 

『そうか……やはり、地道に練習するしかないのか。感謝する』

 

 そのまま礼を言い、念話を終わらせる。

 気の循環については、ひたすら練習を重ねるしかないようなので、このまま毎日続ける事にした。

 今日の分はもう十分だろう。

 呼吸を普段のものに戻し、練気と気の循環の練習を終える。

 

「さて、と……」

 

 サイドテーブルに置いてある呪文書を一冊手に取った。

 呪文書の表紙は、“誰でも覚えられる無属性魔法シリーズ シールド編”と題が記されている。

 この呪文書“誰でも覚えられる無属性魔法シリーズ シールド編”を開こうとするが、何故か開くことが出来ない。

 どういう事だ?

 その後、色々試してみたが、どうやっても呪文書が開かない。

 まさか、不良品を掴まされたのか?

 そんな疑問が浮かぶ。

 魔女は性格等がアレでも、不良品を渡したことは一度もない。

 この呪文書が、たまたま運悪く不良品だったのだろう。

 そう判断し、シールドの呪文書をサイドテーブルに戻し、もう一冊の方を手に取る。

 その表紙には、“誰でも覚えられる無属性魔法シリーズ エナジーボルト編”と記されていた。

 無属性魔法の呪文書は、この“誰でも覚えられる無属性魔法”というシリーズ物しかないのだろうか。

 そんな疑問を覚えるが、魔法を覚えられるならどうでもいい。

 “誰でも覚えられる無属性魔法シリーズ エナジーボルト編”を開こうとする。

 だが、先程の“誰でも覚えられる無属性魔法シリーズ シールド編”同様、開くことが出来ない。

 “シールド編”の時と同様に開こうと色々試したが、一向に開く気配がない。

 まさか、これも不良品なのか?

 運の悪さに、怒りが込み上げてくる。

 

「何故開かない!? 開かないと魔法が覚えられないだろうが!!」

 

 怒りに委せて手にしている“誰でも覚えられる無属性魔法シリーズ エナジーボルト編”を床に叩きつけようとしたが、手を離す直前に思いとどまった。

 何度も深呼吸して、心を落ち着かせる。

 傷を付けたら、返品出来ない。

 文句とともに二冊とも返品してやる。

 そう心に決め、二冊の呪文書を魔法倉庫にしまう。

 結局、シールドとエナジーボルトの魔法を覚える事は出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ