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第十九話 暴走する魔女

 日は西に傾き、赤い夕日が街を照らし始めている。

 ダンジョンの方から、探索者達が戻って来るのが見えた。

 稼げて笑顔だったり、稼げなくて落ち込んでいたりと。

 その表情は様々だ。

 それを横目に、俺は道具屋に向かうため大通りを進む。

 暫く歩き、目的の道具屋にたどり着く。

 

 

 扉を開け、中に入る。

 店内は客も居らず、ひっそりと静まり返っている。

 雑多に品物が並べられている陳列棚を横目に、カウンターに向かう。

 一昨日同様、魔女がカウンターに居座っている。

 今日は、書物を紐解いている様だ。

 俺という客が来たことに、まだ気付いていない。

 まさかとは思うが、声を掛けない限り接客する気が無いのではないか?

 これまでの事を振り返ると、そう思えてしまう。

 よくよく考えると、最初の一回しか店主に会ったことが無い。

 何故か何時も、魔女がカウンターに居座っている。

 店主は、何処で何をやっているのだろう。

 興味はあるが、調べてみる気は無い。

 そんなことをするほど、暇ではないのだから。

 訓練をしていた方がよっぽど有意義だ。

 

「客だ。仕事しろ、魔女」

 

 書物を読み耽っている魔女に声を掛け、接客するよう促す。

 その声に反応した魔女は、顔を上げ俺を見て一言。

 

「……生きてる。“無能”なのに、結構しぶとい」

 

 何時もの事ながら、表情を変えずに言ってくれる。

 

「相変わらずひどいな」

 

「一応褒めてる。本当に奇跡」

 

 あれで褒めてるつもりらしい。

 言い合っても仕方ない。

 必要な物を買ってサッさと帰ろう。

 

「ヒールポーションとマナポーションを各三十本、シールドの巻物スクロールをあるだけくれ」

 

 必要と分かっているものだけ求める。

 まだ何かあったはずだが、思い出せない。

 思い出してからで問題ないだろう。

 

「……分かった。少し待つ」

 

 何か言いたそうな表情をしていたが、魔女は立ち上がって店の奥に入っていく。

 しばらくは、戻って来ないだろう。

 戻って来るまで暇なので、練気と循環の練習を始めた。

 

 目を閉じて意識を集中し、気の流れを探る。

 始めて直ぐに、気の流れを感じた。

 その感覚を忘れない様に、全身を流れている気の質と量を意識して上げる。

 全身を巡ってきた気を、更に練気して高め再び全身を巡らせることをイメージして。

 続けているうちに、身体が熱くなっていく。

 同時に、左腕の鈍痛が次第に収まってくる。

 おそらく、気の循環で治癒力が上がったからだろう。

 ダンジョン内で気を循環していた時は分からなかったが、その効果は実際に体感して理解した。

 この分だと、身体能力も段違いに上がっているはず。

 上がった力に慣れるのには、しばらく時間が掛かるだろう。

 このまま動いて見たいが、陳列棚に激突して壊したものを弁償させられる未来しか想像出来ない。

 金回りがよくなってきているとは言え、無用な出費は出来るだけ避けるべきだ。

 止めて置いた方がいいだろう。

 魔女が戻って来るまで、練気と循環の練習を続ける。

 

「……待たせた、“無能”。シールドのスクロールは、三十巻しかない」

 

 何かが置かれた音と共に、魔女の声で呼び掛けられた。

 練気と循環を止めて声のする方を見ると、カウンターには注文したものが置かれている。

 その横には、呪文書らしきものが何冊も積まれていた。

 

「ポーションの横の書物は何だ?」

 

 頼んでもいない書物について確認する。

 

「“無能”のキミでも使える、この店に今有る無属性の呪文書。リフレッシュとシールドとエナジーボルトの三種類」

 

 言われるまで、全く思い出せなかった。

 だが、ようやく呪文書を出してきた。

 もっと早く出してくれればよかったものを。

 

「出して貰って悪いが、リフレッシュの呪文書は必要無い」

 

「……何か変なものでも食べた? それとも、ダンジョンで頭を強くぶつけた? あれだけ何でもいいからと呪文書を欲しがっていたのに」

 

 不要な呪文書があると言ったのが、意外だったのだろう。

 魔女が珍しく目を見開き、俺を可哀想なものを見る目で見つめる。

 

「おい……失礼だな。野良犬の様に拾い食いしたり、転んで頭をぶつけていない。戦闘に必要な物を優先しただけだ」

 

「……そう。スクロール(巻物)は役に立った?」

 

 真剣な表情になり、おそらく一番聞きたかっただろう事を聞いてくる魔女。

 

「ああ、役に立った。お陰で生きて帰ってこれた」

 

 実際、その通りだ。

 シールドの巻物がなければ、確実に三度は死んでいただろう。

 最も、エナジーボルトの巻物はほとんど使わなかった。

 使う必要があまりなかったからだが。

 複数の遠くにいるモンスターに対して、数減らし程度にしか使えない。

 俺としては、接近して倒す方が性に合っている。

 今後も使う事はあまり無いだろう。

 どういう状態で使ったか、憶えている事を魔女に説明した。

 

「……それは良かった。作った甲斐がある」

 

 話を聞く内に、嬉しそうな表情になっていく魔女。

 何時も無表情な彼女も、こんな表情をすることに驚く。

 感情の無い、無表情な人形みたいだと思っていたが違ったようだ。

 

「長話になったな。そろそろ勘定をたのむ」

 

 消耗品の補充だけして大将の所に行くつもりだったが、予想外に長居してしまった。

 店を閉めない内に、盾として酷使したパイルバンカーを点検に出さないと。

 

「合計で二万七千五百ジール」

 

 どことなく機嫌のいい魔女が、代金を請求してくる。

 何時もと違い、言葉に毒が含まれていない。

 ネチネチ言われるよりはマシだが、調子が狂う。

 ポーチから二万七千五百ジール分の貨幣を出し、魔女に渡す。

 

「確かに代金は渡したぞ」

 

 代金の確認が終わった魔女に声をかける。

 

「……役に立つものを用意する。だから、また来る」

 

 背後から掛けられる声に手をあげて応え、店を後にした……はずだった。

 店を出て直ぐに、買ったものを持っていないことに気付く。

 魔女に調子を狂わされて、収納するのを忘れていた様だ。

 何を言われるか分からないが、直ぐ様忘れ物を取りに店内に戻る。

 カウンターまで行くと、魔女が呆れた顔をしているのが見えた。

 

「……アルテス、バカなの」

 

 掛けられた言葉に、悔しいが返す言葉は無い。

 だが、俺を“無能”では無く、名前で呼んだ。

 人に変なものを食べておかしくなったと言っておいて。

 自分が変なものを食べておかしくなっているじゃないか。

 そうとしか思えない位、これまでとは態度が変わっている。

 持って帰るのを忘れたのは、お前のせいだろう。

 そう言ってしまいたいが、ここで無駄な時間を過ごす訳にはいかないので黙っておく。

 収納の指輪を使い、カウンター上におかれたままになっている買ったものを仕舞う。

 すべて仕舞い終わった所で、左手中指にあるはずの収納の指輪が無くなっている事に気付く。

 絶体外れないはずの指輪が、影も形も無い。

 買った物を収納出来た事に疑問に思っていると、脳裡に声が響く。

 

 『――機能拡張。収納の指輪は、数刻前に吸収したため消滅しました』

 

 レイではない声。

 おそらく甲冑の声だろう。

 能力を吸収……どういう事だ?

 

『――説明。所有者が使用している魔道具を取り込み、甲冑の機能を拡張します』

 

 つまり、収納の指輪の効果は甲冑に追加されたということか。

 

『――是』

 

 なら何故、強化の指輪は取り込まれないのか?

 

『――対象外。既にあるものなので、対象になりません』

 

 同じものを幾つ吸収しても無意味ということか。

 まあ、収納の指輪の効果が使えるのなら問題ない。

 指輪の効果が甲冑に移っただけなのだから。

 これ以上、甲冑について考察するのを止める。

 

 忘れ物の回収を終え、今度こそ道具屋を出る。

 扉に向かう所で、カウンターから出てきた魔女に呼び止められる。

 何故か、その表情は真剣そのものだ。

 

「……アルテス、待つ」

 

「何か用か、魔女?」

 

 今日は、もうここに用はない。

 巻物について、話せることはすべて話した。

 何の用だろう。

 

「……名前……魔女じゃない」

 

 何だ、呼び方のことか。

 

「悪いが、俺はあんたの名前を知らない。だから、見た目から魔女としか呼びようがない」

 

 いつも黒の魔女装束(魔女の正装らしい。黒以外は邪道と言っていた。因みに魔法の杖は飾りなので無くても問題無いそうだ)に身を包んでいるので、そう呼ぶしかなかった。

 自業自得。

 それしか言い様がないだろう。

 

「魔女と呼ばれるのにウンザリだから、名前教える」

 

 人の事を散々“無能”と呼んでおいて、それを言うのか。

 まあ、だからこそ俺の呼び方を“無能”から名前に変えたのだろうが。

 

「……私の名前――」

 

 魔女の後ろにある時計。

 そこに示されている時間が目に入る。

 

 十八時三十分。

 

 不味い。

 大将の店は、夜七時に閉店する。

 今から急いでも、ギリギリ間に合うかどうか。

 

「済まない。急ぎの用があるんだ。また今度にしてくれ」

 

 魔女の言葉を遮り、話を終わらせる。

 急げば、まだ間に合う。

 魔女に背を向け道具屋を出ようとした所で、左腕を掴まれる。

 左腕を掴む魔女の右手を振り払おうとした。

 だが、あり得ないほどの力で掴まれていて、振り払う事が出来ない。

 魔法を使う余裕もないはず。

 黒いローブから伸びる細腕に、そんな力があるとは信じられない。

 だが、実際に起こっているので、信じるしかないのだが。 

 驚いているうちに、右腕も掴まれる。

 

「アルテス、話を聞く」

 

「用事があるんだ。腕を離してくれ」

 

 魔女は、俺の話を一切聞こうとしない。

 やむを得ず、無理矢理振り払おうとしているうちに姿勢が崩れた。

 背中を引っ張られるような感覚とともに、魔女に両腕を掴まれたまま倒れてしまう。

 後頭部と背中を床に強打し、その痛みに目を反射的に閉じ、声も無くしばらく悶える。

 痛みがおさまってきた所で、柔らかい感触が手のひらにある事に気付く。

 目を開き、状況を確認する。

 俺が仰向けに転がり、魔女が俺の上に馬乗りになっていた。

 両腕は未だ魔女に掴まれたまま。

 俺の両手は、彼女の胸に押し当てられている。

 手のひらの感触は、魔女の胸の感触だった様だ。

 深い関係でもない女の胸に触れている、この状態はよろしくない。

 もう一方の当事者に声をかけ、この状態から逃れる事にした。

 

「おい。いい加減に腕を離して、退いてくれな……」

 

 そう言いかけたが、魔女の顔を見て止まってしまう。

 気持ち良さそうに目が溶け、うっとりとした表情をしている。

 目があった瞬間、

 

「……んっ、きもちいい」

 

 おそらくわざとだろう。

 そう声をあげつつ、気持ち良くなろうとして、更に俺の手を自分の胸に押しつける。

 

「と、取りあえず腕を離せ」

 

 その後暫く、俺の呼び掛けを無視し続け、俺の手を自分の胸に押しつけるのを止めなかった。

 

「……キミへのお仕置きと私へのご褒美。胸を揉んで私を気持ち良くする」

 

 胸の刺激が物足りなくなったのか、更なる刺激を求めてくる。

 完全に発情している様だ。

 何故、彼女の胸を揉まないといけないのか?

 何故、お仕置きされないといけないのか?

 お仕置きされる理由が全く分からない。

 それよりも、最初より強く押し付けられているせいか、彼女の胸が見た目より大きいことが伝わってくる感触からわかる。

 だが、そんなことが分かっても、ダンジョン探索に全く役に立たない。

 

「……私は着やせする。脱いだら凄い」

 

 俺の心を読んだかの様に、魔女が言ってきた。

 だからどうしろと。

 言う通りに、彼女の胸を揉まないといけないのか。

 

「……揉まないとずっとこのまま」

 

 また俺の心を読んだかの様な言葉。

 もしかしたら、本当に心を読んでいるのかもしれない。

 

「……魔女だから読める」

 

 訂正。本当に心を読んでいた。

 彼女の胸を揉んで満足させないと、この状態から逃れる事は出来ないらしい。

 

「……諦めて早く私の胸を揉む。揉めば、私もキミも絶対幸せ」

 

 魔女の表情、声が艶掛かったものに変わっていた。

 呼吸も荒くなっている。

 彼女の、俺の手を自分の胸に押しつける動きが激しさを増していく。

 何とか彼女の胸を揉まずに済ませたかったが、無理の様だ。

 色々諦めて、彼女の胸を揉み始める。

 

「……んっ、気持ちいい。もっと強く!!」

 

 言われるまま、彼女の胸を揉んでいく。

 彼女が満足するまで。

 

 

 彼女が満足し俺が解放されたのは、揉み始めてから二時間後のことだった。


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