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第十二話 小鬼希少種との決闘

 二日振りのダンジョン。

 背後から同業者の襲撃を受けるか可能性がある状況だが、その事を頭の隅に追いやる。

 過去が変わる訳でもなく、気にしすぎても仕方無い。

 忘れてしまうのも問題だが。

 とりあえずは新装備に慣れ、少しでも使いこなせる様にならないと。

 周囲を警戒しつつ、モンスターを探しながらダンジョンを進んでいく。

 

 

 暫く歩くと、目の前に一人の人影らしきものを見付けた。

 バスタードソードの柄に手を掛け、一応は警戒しながら近づいて行く。

 モンスターなら、武具の性能を試すために正面から戦ってみるか。

 そう考えつつ、進むうちに人影らしきものの正体が判明。

 長い耳、頭に角を持つモンスター。

 ゴブリンの様だが、俺が知っているゴブリンとは肌の色が異なる。

 目の前にいるゴブリンらしきモンスターの肌の色は、緑色ではなく赤っぽい褐色。

 おそらく稀少種なのだろう。

 探索者から奪い取ったであろう長剣と方形の盾、鎧で武装している。

 何故か兜は被っていない。

 それについては謎だが、俺がする事に変わりはない。

 目の前のコイツを倒すだけだ。

 初見の稀少種が相手だというのに、あまり焦燥感が無い。

 三日前のオークに較べれば、遥かにマシだからだろう。

 修羅場を潜れば、大概の事に慣れる。

 多分、そういうことなのだろう。

 このまま、真っ向から戦ってみるか?

 最初から無茶をする気はない。

 防御を固めつつ、牽制出来れば。

 ふと、それが簡単に出来る物を思い出す。

 一昨日、道具屋で魔女に半ば押し売りされた巻物だ。

 使えれば良し、駄目でも問題無い。

 その時は、真っ向から戦うだけだ。

 収納の指輪からシールドとエナジーボルトの巻物を一本づつ取り出し、左右の手に持つ。

 シールドの魔法は、一定時間敵の攻撃を自動防御する無属性の透明な盾を一つ作り出す。

 エナジーボルトの魔法は、対象に無属性の光の矢を飛ばす攻撃魔法だ。

 巻物でも同じ効果を発揮するのか?

 使ってみれば判るだろう。

 

 そう判断し、右手に持つシールドの巻物の封を切る。

 封を切ったシールドの巻物は、光り輝いた後右手から消えていた。

 効果が発揮されているかは、実際に攻撃を受けてみれば判るだろう。

 続けて、左手に持つエナジーボルトの巻物の封を切る。

 封を切ったエナジーボルトの巻物も光り輝き、その中から光の矢が赤褐色のゴブリンに向かって飛び直撃する。

 エナジーボルトの巻物は、シールドの巻物と同様に消えていた。

 エナジーボルトの直撃を受けた赤褐色のゴブリンは立ち止まり、怯んだ様子で盾を構えている。

 攻撃魔法を警戒している様だ。

 もう一度エナジーボルトの巻物を使っても、盾に防がれて効果は無いだろう。

 バスタードソードを抜き、赤褐色のゴブリンに向かって駆けた。

 赤褐色のゴブリンが構えている盾に、駆けた勢いを乗せたバスタードソードを横薙ぎに叩きつける。

 同時に、盾の先端を赤褐色のゴブリンの胸部に向け、パイルバンカーを起動。

 長槍の先端が、赤褐色のゴブリンの胸部を穿つ。

 が、浅かったらしく深手を負わせられていない。

 深手を負わせるには、間合いが遠すぎた様だ。

 次は相手の懐に入り込む。

 二撃目を放つ為に懐に飛び込もうとしたが、バスタードソードが赤褐色のゴブリンの盾に押し返され、体勢を崩してよろめく。

 そこへ、赤褐色のゴブリンの長剣が振り下ろされた。

 回避出来ない。

 そう判断し、左腕の盾で防御する。

 だが、左腕に長剣を防いだ衝撃が無い。

 半透明の輝く盾が、長剣の一撃を止めている。

 見て直ぐに理解した。

 これが、シールドの巻物の効果だと。

 だが、のんびり確認している訳には行かなかった。

 バスタードソードを押し返され、右半身ががら空きになっている。

 そこに、ゴブリンが盾の縁を叩き込んできた。

 回避はもちろん、防御も出来ない。

 叩き飛ばされ、床を転がる。

 右脇腹に受けた痛みに、顔が歪む。

 

「Gyaaaaaaaa!?」

 

 戦闘が始まってから一度も声を発しなかった赤褐色のゴブリンが、左腕を押さえて叫んでいる。

 左腕を見ると、肘から先を失い、その傷口から血が噴き出している。

 失った肘から先は盾ごと地面に転がっていて、腕から噴き出した血で濡れていた。

 右脇腹の痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がる。

 何故、ゴブリンが左腕を失ったのか?

 剣で切断は無い。

 力で押し負けて体勢を崩され、右半身を無防備に晒した状態で、敵の腕を切り落とすという芸当は俺の技量では不可能だ。

 魔法でもないだろう。

 俺は、咄嗟に魔法を使う事も出来ない魔法初心者だ。

 だが、その状態でも攻撃出来る武器を持っている。

 起動ボタンを押すだけで長槍を打ち出す魔法武具、パイルバンカーだ。

 盾を叩きつけられた瞬間、反射的に起動ボタンを押していたのかもしれない。

 パイルバンカーの長槍が、運良くゴブリンの左腕を貫いたと推測。

 左腕に装備している、パイルバンカーの長槍を見る。

 推測通り、長槍の先端部は血に濡れていた。

 

「殺れる」

 

 パイルバンカーの威力を目の当たりにし、口元が歪むのが分かる。

 本来、俺より強いだろう赤褐色のゴブリンは左腕の怪我による大出血で確実に弱っている。

 倒すなら、今しかないだろう。

 バスタードソードの柄を握り直し、ゴブリンに接近。

 未だ左腕を押さえ苦しんでいる赤褐色のゴブリンの首に、両手に持ち直したバスタードソードで全力の一撃を叩きつける。

 が、金属のぶつかり合う音が響く。

 その醜悪な顔を激痛で歪めている赤褐色のゴブリンが、長剣で防いでいた。

 

「くっ」

 

 両手持ち全力の一撃が、腕一本で止められている。

 それどころか、逆に力の差で押し込まれつつある。

 不味い。

 このままでは押し潰されてしまう。

 どうする?

 何か、手はないのか?

 押し潰されるのを必死に堪えながら、この状況をどうにかする方法を考える。

 取り敢えずは、赤褐色のゴブリンから離れるしかないだろう。

 だが、それは許してくれそうにない。

 押し込まれる事で、間近な赤褐色のゴブリンの顔――激痛に歪めながらも俺を嘲笑う目――を見て離れることを諦めた。

 無理に離れても、引き離されない様に動くだろう。

 力比べをしても、力負けして押し潰される。

 距離を取って、仕切り直しもさせてもらえそうにない。

 俺に出来る事で、何か忘れている事は無いか?

 剣での闘いは、現在進行形で押し潰されつつある。

 パイルバンカーは、バスタードソードを両手持ちで使っていて起動ボタンを押せないので無理。

 ダガーもパイルバンカー同様、ホルダーから引き抜けない。

 格闘は、押し潰されない様にするのがやっとでそんな余裕は全く無い。

 仕掛けても、俺の力ではビクともしないだろう。

 魔法だが……。

 シールドとエナジーボルトの巻物は、収納の指輪から取り出せないので使うのは無理。

 最初に使ったシールドの巻物の効果は、まだ続いているか判らない。

 カオス・シールドは、シールドの巻物とほぼ同じ効果だから、現状を打開することはできない。

 エンチャント・カオスは、武器の威力は上げるが俺自身の力を上げる訳ではないので、これもまた現状打開は無理。

 カオス・ボルトはエナジーボルトと同様の攻撃魔法で無音詠唱で使えるが、現状で使ったらどうなるか解らんので止めておく。

 気闘法は、未だ気を感じる事が出来ていない状況なので当然ながら使えない。

 残るは指輪と甲冑に付与されている身体強化の効果だが、出来れば使いたくないのが本音だ。

 強化の指輪の効果を使った時の記憶が、脳裡をよぎる。

 効果は絶大だったが、一分足らずでマナを消費し尽くした。

 その記憶から俺には手負いとはいえ、一分以内に赤褐色のゴブリンを倒し切る自信がない。

 だが、甲冑の方の効果なら。

 大差無いかも知れないが、使う価値はあるだろう。

 いきなり実戦で試すのも無茶だが、このまま押し潰されて死ぬよりはましだ。

 出来る事をやらないで後悔はしたくない。

 覚悟を決め、甲冑の身体強化の効果を発動、各部の水晶体が発光する。

 発動と同時にマナが失われていく。

 だが、指輪の時よりは多少緩やかな分まだマシか。

 それでも急がないと不味い。

 身体強化の効果で上がった全力の力で、赤褐色のゴブリンの長剣を押し返していく。

 ゆっくりと押し返し始めた俺を見る赤褐色のゴブリンが、驚愕のためか目を見張っている。

 隙が出来た赤褐色のゴブリンの腹を蹴り、一旦後に下がる。

 甲冑の身体強化の効果を止め、体勢を立て直す。

 視界に入った赤褐色のゴブリンは、口から血を吐きながら腹を押さえ蹲っている。

 乱れた呼吸を治めようとした瞬間、何か熱いものが全身を駆け巡るのを感じた。

 その熱い何かが駆けた部分から、全身の疲労が少しずつ消えていく。

 熱い何かについて疑問を持った途端、脳裡に浮かび上がる。

 

 おめでとう。

 そなたは今、気を感じている。

 先程感じた熱いもの、それこそが気だ。

 おそらく、今は気が暴走していて制御出来ない状態だろう。

 気を消耗し尽くすまで、この状態は続く。

 因みに、意図的に気を暴走させるのが気の解放だ。

 気の解放・暴走時は、身体能力が普段の数倍に向上する。

 これは強敵と戦っている時には便利だが、気を消耗し尽くしたら疲労で暫く身動きすら出来なくなるだろう。

 消耗し尽くす前に決着を着けろ。

 これで、我が武神流気闘法の第一段階は達成した。

 第二段階は、練気と循環だ。

 これからも日々精進を怠らず、己を高めよ。

 

 ……気を使える準備が出来たという事か。

 ここからが気闘法の修行の本番らしい。

 だが、今はそれどころではない。

 運良く、マナを使わない時間制限付きの身体強化がされている状態だ。

 気を消耗し尽くす前に決着を着けないと死ぬ。

 どの道、時間は掛けられない。

 一撃で終わらせるだけだ。

 エンチャント・カオスの魔法を、無音詠唱でパイルバンカーにかける。

 盾の部分が黒っぽく変色し、長槍が虹色に光り輝く。

 それを確認しつつ、蹲っている赤褐色のゴブリンに向かって駆けた。

 気の暴走によって甲冑の身体強化以上に強化された身体能力を制御しきれず、立ち上がった赤褐色のゴブリンに激突してしまう。

 激突に構わずに左腕のパイルバンカーを起動し、赤褐色のゴブリンの胸に長槍を打ち込む。

 赤褐色のゴブリンの身体は、パイルバンカーの一撃を受けると同時に発光し消滅。

 後には、赤みがかった魔晶石とゴブリンが使っていた長剣と盾が残されていた。

 魔晶石とゴブリンが残した武具を、収納の指輪に仕舞う。

 戦利品を仕舞い終わり、異常に疲労した身体を休ませる為に壁面に移動した所で力尽きる。

 そのままその場に崩れ落ちる様に座り込むと、目の前が暗くなると同時に意識が遠のいた。


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