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第一話 探索者

 ダンジョンに入って一時間。


 初めてダンジョンに入った時から疑問に思っているが、何故か外と同じ位明るい。……とはいえ、雨の日の昼間位の明るさだが。

 昔ダンジョンを調査した学者の話では、原理は不明だが天井と壁が発光しているかららしい。

 おかげで松明やランタンを持たなくて済んでいる。金がかからないのは良いことだ。


 そんな事を考えなからダンジョンを進んでいた俺の前に、人らしき者が三つ近づいている。

 同業の探索者なら無視。モンスターだったら倒すしかない。

 そう判断してそのまま数歩進むうちに、相手が探索者でない事が確認出来た。

 犬頭に、汚れや破れでボロボロの服。人型のモンスター、コボルドが三匹。武器は、ショートソードを持っているのが一匹。残りはダガーの様だ。

 下級モンスターに分類されるコボルドであっても、探索者になって一週間、しかもソロの俺では三匹まとめて相手することは不可能だ。確実になぶり殺されて死ぬ自信がある。

 此所までの探索で戦利品を抱えているので、まず逃げ切れないだろう。戦うしかない。

 戦利品を入れているバックパックを地面に落とし、戦闘準備を整える。

 右手でバスタードソードを抜き、左手に投擲用に調整されているダガーをホルダーから二本引き抜く。

 バックパックを落とした時の音で、こちらに気付いたのだろう。コボルド三匹が、吠えながら手にしている武器を振りかざし駆けてくる。

 二匹を牽制するため、左手のダガー二本をダガーを得物にしているコボルド二匹に一本づつ投擲。


「行くぞ!!」


 声をあげて気合いを入れてバスタードソードを両手で構え、ショートソードを得物にしているコボルドに全力で駆ける。

 自分の間合いに入った所で、コボルドのショートソードに突撃の勢いが乗ったバスタードソードを叩きつける。

 バスタードソードを叩きつけられたコボルドは、体勢を崩し尻餅をついている。

 がら空きになった首に、バスタードソードを右側から横凪ぎに全力で叩きつけて止めを差す。

 切り落とされたコボルドの頭が、切断面から血を流しながら転がっていく。


「一匹目……」


 そう呟き、コボルドの体から噴き出す血を避けながら後ろにさがりつつ、右手でダガーを腰のダガーホルダーから引き抜く。

 最初に使った二本と異なり、剣身が淡く輝いている――魔法付与がされている――貴重な一本を右側のコボルドに投擲する。

 それと同時に左側のコボルド目掛けて、再度バスタードソードを両手で構えて駆け出す。

 間合いに入ると同時に、バスタードソードを突きだしそのまま突撃する。

 バスタードソードの剣先は回避される事なくコボルドの胸を捉え、突撃の勢いもありその胸に剣身の半ばまで刺さっていた。


「二匹目……」


 死んでいる事を確認して、生き残っているコボルドを見ながら、刺殺したコボルドの腹部を左足で蹴りつけてバスタードソードを強引に引き抜く。

 生き残っているコボルドは右肩と腹部にダガーが刺さっている。右肩と腹部の出血、傷の痛みで動きが緩慢だ。

 駆け足で最後の一匹に近づき、両手に持ったバスタードソードを全力で叩きつけて止めを差す。

 血を振り払ったバスタードソードを鞘に戻しながら辺りを見渡す。


「終わった……」


 倒したコボルドは光につつまれ消え去る。

 その後にはコボルド達が使っていた武器と小さな青い石が三つ、そして俺が牽制に使ったダガー三本が転がっていた。


 ダンジョンでは外と違い、モンスターを倒しても死体は残らない。代わりに青い石が残される。これはマナ結晶石――通称は魔晶石――魔法を使うのに必要なマナが結晶化したもので、魔法の使えない俺が持っていても意味は無い。

 だが、魔道具の燃料になるし、また魔法発動に必要なマナを肩替わりしてくれる。

 その為需要は高く、売れば金になる。もっとも、大きさによって買い取り額は変わるが。

 因みに、モンスターを倒すと魔晶石が出てくる理由は解らない。ダンジョンの調査は続けられているものの、謎だらけの代物の為、世間ではそういうものであると認識されている。


 何故、人は生きているのか?

 何故、鳥は空を飛ぶのか?

 そうした問い掛けと同じで、簡単に答えが出て来ないからだ。


 コボルドが使っていた武器と魔晶石を拾い集め、戦闘前に地面に降ろしたバックパックに放り込む。

 ダガー二本は自分の戦力強化に繋がるので、すぐ使える様に戦闘に使用したもの同様、腰のダガーホルダーに収納しておく。


「一息吐くか……」


 ダンジョンに入ってから一時間程。時間はたっぷりある。少し位休憩しても問題無いだろう。

 休憩すると決め、壁に背中を預ける。

 ポーチから取り出した水筒に口をつけ、一口だけ水を飲む。

 生温くなっているからか爽快感は無いが、喉の渇きだけは癒やせた。


「ふう……ソロはきついな」


 ダンジョン第一層地下一階。

 ダンジョンの最初の階層であり、新米の探索者が、先に進める者と進めない者にふるい分けられる最初の場所でもある。

 入り口付近のモンスターは単体でうろついているが、奥に進むと複数で群れる様になる。

 それを乗り越え、先に進む方法は二つある。

 一つ目は簡単だ。仲間を集めてパーティーを組むか、欠員の出たパーティーに入れてもらえばいい。

 その日の内に、地下二階以降に進めるだろう。

 二つ目は難しく、時間も掛かる。

 戦闘経験を積み、装備を整え、自力を上げる事だ。

 こっちの方法を採るのは、腕に自信があるか、仲間を集められない、またはパーティーを追い出されてソロで探索している者だけだ。

 俺の様にパーティーに入れず、最初からソロだと其れしか先に進む方法が無い。

 実力をつけ、金を貯めて装備を整える。

 その為に、俺は地下一階に留まっている。


 辺りを警戒しつつ、現在の装備と戦い方の改善点を考える。


 バスタードソード。

 切り、突きと二種類の攻撃が出来る。柄が長いので、片手持ちで盾を使った防御を重視した闘い方と両手持ちで防御を無視して威力重視の闘い方を選べる、俺のメイン武器。

 金の無い俺には有り難い武器だが、未だ完全に使いこなせていない。使いこなせる様に訓練しなければ。


 ダガー。

 左右のホルダーに合計六本。格闘、または投擲して離れた相手に攻撃できる、今の俺にとって唯一の飛び道具でもある。左手に持ち、盾代わりに防御に使う事も多々あるので破損することも多い。

 破損分はコボルドが使っていた物で補充しているから、今のところ問題無い。とりあえず十本以上を目標として数を確保しておきたい。

 さっきの戦闘では運良く全部命中したが、命中率をもっと上げないと使い物にならない。狙った所に必中する様になるのが理想だ。

 これも練習するしかない。

 俺に攻撃魔法が使えれば問題無いのだが、魔法自体使えないのでこればかりは仕方ない。


 防具。

 レザーアーマー、腕部のアームガード、脚部のレッグガード。革製で探索者として最低限の物。

 金属製の防具が高かったので、妥協して買った物だ。

 防御を優先に考えていたので盾も欲しかったが、バスタードソードを先に買ったため、資金不足で断念した。

 これは、今すぐにでも忘れてしまいたいぐらい忌まわしい思い出だ。


 武器は当面このままでいくとして、問題は防具か。


 鎧を買い換えるか、ブレストプレート等で補強するか?


 バスタードソードが使いやすい小型の盾を買うか?


 アームガードとレッグガードをより防御力の高い金属製のものに買い換えるか?


 三つの選択肢があるが、今の貯金額ではどれか一つしか選べない。


 悩んでいるうちに疲れも取れ、体が軽くなった。

 

「そろそろ、先に進もうか」


 バックパックを背負い、周囲を警戒しながらダンジョンの奥へと進む。


 モンスターとの遭遇も無く、岩肌を晒す代わり映えしない風景にウンザリしていたら、前方からこちらに近づいてくる様子の複数の足音が聞こえてきた。

 何なのか気になったので立ち止まって前方を見ると、四人の探索者が必死の表情でこちらに向かって駆けて来る。

 その後を豚頭の人型のモンスターが一体、大剣を振り回しながら追い駆けている。


 オーク。コボルドと同等の下級モンスター。

 まあ、一体なら俺でも何とかなる。だが、地下一階に大剣を振り回すオークなんていただろうか?

 遭遇した事は勿論、話に聞いた事も無い。


 そう考えているうちに、オークから逃げている探索者達が、俺の横を通りすぎて行った。


 まさか、擦り付けか?


 擦り付け――モンスターに追いかけられている最中、近くにいた探索者にそのモンスターを押し付けて逃げる、探索者として最低の行為の一つだ。

 押し付けられた探索者よりモンスターの方が強い場合が多く、これが原因で死亡する探索者が後を立たない。


 まさか、自分が擦り付けられるとは思わなかったが。


「最悪だ……」


 想定外の事態に、頭を抱えたくなった。

 おそらく、今から逃げても間に合わない。見かけた瞬間に逃げるべきだった。


 後悔しながらバックパックを地面に落とし、戦う覚悟をして戦闘準備を始める。

 ダガーをホルダーから片手に二本づつ、両手で合計四本取り出し、何時でも投擲出来る様に準備。

 逸る心を押さえつつ、やって来るオークを出来るだけ落ち着いて観察する。


 此所からでも風切り音が聞こえて来る位、大剣を両手で軽々と振り回している。

 足を止めての打ち合いは、どう考えてみても無謀過ぎる。

 あんな攻撃が当たったら、間違いなく一撃で真っ二つにされてあの世に逝けるだろう。

 全身は金属製の甲冑で覆われている。

 俺の力では切りつけても無駄だろう。隙間なり急所を上手く狙わない限り、まともにダメージを与えられそうにない。

 頭のサイズが合わなかったらしく、兜を被っていないのが救いだ。

 頭を狙えば、何とかなるかもしれない。


 どう見ても俺の実力では明らかに手に余る重装備のオークが、地下一階に現れる筈がない。おそらく、もっと下の階にいるやつ、または上位種だろう。

 こんな厄介なオークを此所まで引き連れてきたバカどもは、生きて帰ることが出来たらぶん殴ってやりたい。

 いや、生きて帰って絶対にぶん殴る。

 そう決めると、絶体絶命の状況を覆して生きるための戦闘を開始した。


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