最終話 ~空色ミスティーブルー~
その日。
菖蒲が転校する、この日。
普通に学校の日。
6時間授業を受けたあと、例の町に行くらしい。
時間は聞いてないけど、帰りにすぐ行くらしい。
荷物とかは、既に親が先に持って行っているらしい。
らしいだらけで、もやもやする。今日俺はどうすればいい?
ぐわぁぁ・・・、考えれば考えるほどわからなくなってくる。
天体観測をした夜に、伝えきれなかったこと。
・・・言うべきだよなぁ・・いや、言わないと気がすまないというか。
何より、かっこわるい。ここまで、きておいて。
ずーっと、悩んでいた。気づけば、すでに帰りのHRを迎えていた。
高校だからか、さほど長いあいさつもなく、すらーっと菖蒲のことが伝えられていた。
さぁ、どうするか。今日の部活はとりあえず、なしだ。
HRが終わって、菖蒲のところに行く。
「一緒に帰るか。」
「あれ、部活は?」
「部員が一人で活動していて、何が楽しんだよ。それより。お前を見送らないわけ無いだろ。」
「だよねー!」
えらく上機嫌に、肩を叩いてくる。
とりあえず、一緒に帰路につく。さぁ、どうする。
帰り道。ほぼ無言。たまに、菖蒲がしゃべりかけてくるが、適当な返事しかできない。
いつもの距離なのに、ものすごく近く感じる。あぁ、もうだめだ!最高の臆病もんだ!
自分の情けなさに、呆れてくる。
そんな、思考回路が脱線しまくっている俺に
「ダッシュ!」
っと叫んで、急に理解不能な行動に出た菖蒲。
「・・・ん?いや、ちょっと待て!何走ってんだよっ!」
ある程度、走っていってしまってから気づく俺。
菖蒲の足は意外と速く、追いついた時には、もうあの分かれ道についていた。
東と西。俺と菖蒲の家への分かれ道。
だけど、今日は違う。東と西。俺と菖蒲の‘別れ’道。
「急に・・・急に、走ってどうしたんだよっ・・!」
まだ、息が安定していない。
「だ、だって・・誠がずーっと・・だ、黙っちゃうし・・気分的に?ははっ・・」
あちらもどうやら、息が安定してないようで。笑えてないし。
「なんだよそれっ・・・はっ・・はははっ・・!」
俺も笑えてきたけど、やっぱり笑えてないし。
「あのさ・・・あ、ちょっと待って。・・い、一回落ち着く。」
「あぁ・・そうしたほうがいいな。俺も・・落ち着いてからいうことがある。」
もう吹っ切れろ俺。あの時も、そうやって行けたじゃないか。うまくまとまらなかったけど!
とりあえず、両者落ち着くのを待つ。
「「じゃぁ・・どうぞ」」
菖蒲の言葉と重なる。一言一句同じだった。
「えーっと・・じゃぁ、私からね。」
そう言って、一回深呼吸をする菖蒲。下を向き、目を瞑る。
「―――私、未来から来たんだ。」
聞いたことがある言葉が出てきた。
「・・・え?」
菖蒲は、目を開け、視線を合わせる。
直視しずらいっ・・!
「だから、未来のこと。全部知ってるの。」
一切、迷いがない言葉だった。顔も至って冷静だ。
「へ・・へぇ・・。」
「また会える。次こそはずっと一緒だから。安心して。」
言われた言葉はすごく嬉しかったけど、同時に悔しさも訪れた。
先を越されたような気がして。情けない。菖蒲のほうから先陣を切らせてしまうとは。
でも・・・
「そっか。」
俺も、また会えるって思ってた。安心してという言葉は、自分の心の隙をついてきたようで。
すごく安心できた。
「約束。」
「約束って・・・未来がわかってるんだったら約束する必要ないだろ。」
「あ・・そだね。」
「・・でも、ほら。ゆびきり。」
そこで、菖蒲は大きくため息をつく。
「あーあ、冗談言ってるのも空気読んでよね。」
「お前の場合、もう冗談なのかわからなくなってきたよ。」
「たしかに。」
「・・・じゃぁ、未来の俺はどうなってる?」
「んー・・・今よりずっと頼りがいがあって・・優しくなってるかな。」
頼りがいか・・ほんと、俺は自信をつけないとな。もっと自分に自信を持たないと。
「約束する。」
今度こそ、小指を出す。ゆびきり。
「うん。」
菖蒲の小指と交差する。
「ゆーびきーりげーんまーんうーそついたら、星になれっ、ゆーび・・」
「えらく壮大なものになったなっ!?」
天文学部らしいが。
「そういえば、誠も何か言うことがあるんじゃなかったっけ」
げ、忘れていればよかったものを。
まぁ、約束したんだし。自信をつけていくなら、今からやっていかないと。
俺はいつまでも、曇天の空のままだ。
青に染まった。何もない快晴の空のように。
空色になれない。清楚の恋 ―Misty Blue― のまま。
だから。
「俺は・・・菖蒲のことが好きだ。」
タイミングは自分から作って、空色に変えるんだ。
快晴の空の中。太陽より、光る星に変わるんだ。
「私も誠のこと好きだよっ!」
お気楽で、いつも元気で明るい。あの菖蒲の笑顔だった。
「最後に聞けてよかった。もうさ・・言うの遅いんだからね?」
「ごめん。」
「じゃぁ・・私行くね。・・・ばいばい。」
「また、お見舞いに行くよ。」
「やだ。くるな。」
「え・・なんで?」
「元気じゃない私なんて、見て欲しくないもん。」
「・・・そっか。俄然、行く気が強くなった。」
「えぇ!?なんで?ちょ、本当にこないでね?」
「わかったわかった。じゃぁな。」
「むー!なんで、ニヤニヤしてんのさ!じゃぁ・・じゃぁねっ!!」
手を大きく振りながら、菖蒲は走っていく。
俺は、その背中を見ながら、ずっと手を振る。
「あいつが死ぬなんて・・・ぜってぇないな・・」
割と本気で思う。笑いをこらえてるのは、内緒だけど。
こうして、夏の恋は。終わった。




