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ゆめのはなし。

作者: あおいの


「人はどうして夢なんか見るんだろうな……」


 放課後の教室。

 さて帰ろうか、と荷物をまとめていたら、隣に座っていたクラスメイトがそう呟いた。付近には誰も居ない。私以外は。ということは、この呟きは私に向けられて発せられたものと考えるのが妥当なんだろう。

 いきなり面倒なことを呟きやがったなぁ、なんて思いつつ、とりあえず言葉を返してやることにする。


「…………いいからさっさと帰れ」


 適当な言葉が思い浮かばないので、突き放してみた。


「いや、見たんだよ。夢を」


 聞いてねえよ?

 もしかして語りだす一秒前ってやつですか? 私帰ろうと思うんだけど、明日じゃダメですかね、その話。


「たぶん、明日になると忘れてるし」


 それならそれでいいじゃないか。その程度の話だった、ってことだろ。

 てか夢の話なんて、聞いてる方にしてみたら大概は面白くないもんだ。語りたくなる気持ちも分からなくはないが、内容をちゃんと考えろよ?


「ああ、大丈夫だ。超展開とかそういうのはないから」


 いや、そういうのを心配してるわけじゃないんだが……まぁいい。ここでこうやって押し問答してる方が時間の無駄な気がしてきた。

 聞いてやるからさっさと話せ。


「どこから話そうかな……」


 長い前フリはいらん。結論だけでいいぞ。


「嘘だと思う」


 …………。

 えっと、何が?


「いや、結論だけでいいって言うから、結論だけ言ってみた」


 …………。

 そうだね。私もきっと嘘だと思う。だからもう帰ろうか?


「そんな哀れんだような目で俺を見ないで! ちょ、待ってほんとに帰ろうとしないで!」


 クラスメイトは椅子から立ち上がった私の腕をつかんで止める。振り払っても良かったんだが、それでまたうだうだ言われるのも面倒くさい。私はため息をつくと、再び自分の席に座った。

 ……で、何が嘘だと思うんだよ?


「前に、夢ってのは本人の欲望とか願いとか、そういうのを見るものだって聞いたことがあるんだよ。ぜんぜん普段は思ってないようなことが夢で起きたりしても、それは無意識のうちに願ってることなんだって」


 はぁ。


「俺さ、さっきの授業中に寝てたんだけど」


 寝んなよ。授業中に。


「そのとき夢を見たんだ」


 見んなよ。授業中に。


「その夢で、俺はお前に告白してた。榎本」


 すんなよ……って、私に?!

 ちょっと待て、これってアレか? 遠まわしに見えて全然そうじゃない告白か?

 いくら断る準備は常に万端だって言っても、急に言われるとさすがに驚くんだが……。


「いや、安心しろ榎本。俺がお前に告白なんて、全然、まったく、そんなことはありえない。可能性で言えば100パーセントない」


 ……それはそれで何か腹立つんだが?


「まぁ聞けって。俺はお前のことは別に嫌いじゃないが、だからって恋愛感情を持ってるわけじゃない。だから告白なんてするわけがないし、する予定もないし、しようとも思わない」


 なぁ、お前私のことバカにしてるのか? バカにしてるだろ?


「だから違うって。これはあくまで好みの問題だろ? とにかく俺はお前に告白するつもりなんて、まったく、これっぽっちもなかったわけだけど、夢では告白してたわけだ。で、これを『無意識のうちに願っていること』だなんて認めなくないわけだよ。わかるか?」


 あー……うん。

 とりあえず、私はお前を殴っていい、ってことは理解した。一発殴っていいよな? グーで顔面。


「な、なんだよ榎本……お前まさか、俺のこと好きだったのか? だからそんなに怒ってるのか? いやー参ったグホァッ!」


 私の突き出した右手が、そいつの顔面にクリーンヒットした。しかしまだ殴り足りない。というか蹴りたい。蹴っていいだろうか。


「まっ、待てって! 落ち着いて話し合おう!」


 売られた喧嘩は買わないといけないから。


「喧嘩なんて売ってないぞ?!」


 無意識にうちに売ってるんだよお前はっ!!


「ちーさん、どうかしましたか?」


 どの部位を蹴り飛ばしてやろうか吟味していると、私の横から聞きなれた声がした。クラスメイトで友達のユリだ。

 にこーっと天使のような微笑を浮かべながら立っていたユリだけど、手には何故か分厚い英和辞典が握られている。今日の授業だと一度も使ってないし、これから使う予定もないよな? それ。


「さ、西園寺さんタスケテ! 榎本に襲われてるんだよ!」

「ちーさんが何の理由も無くそんなことをするはずがありません。つまり佐倉さん、あなたが何かをやったんですね?」

「え?」

「内容次第によっては、叩き潰しますよ?」


 にっこり。英和辞典の存在感が際立つ。

 味方されているだろう私ですら、背筋が凍る笑みだった。


「ちがっ……俺はただ夢の話を!」

「夢の中で、ちーさんにひどいことをしたんですか?」

「何もしてないって! ただ、榎本に付き合ってくれって告白しただ……け……」

「………………へえ?」


 ユリはずっと微笑んでいた。

 でも、最後の「へえ?」という声は、少しも笑っていなかった。

 その言葉の対象になっているのが私じゃないことを、心の底から良かったと思った。


「え、榎本、助けて」


 それで私に助けを求めるのか。根本的に何か間違ってると思わないか?


「命には代えられんッ!」


 殺される気かよ!

 まぁ、ほら、ユリもその英和辞典置いていいよ。別にひどいことはされてないから。ひどいことを言われた気はするけど。


「ちーさんにひどいことを言った……佐倉さん、私、あなたのことを見損ないました。もっとまじめで誠実な人だと思っていたのに」

「ち、違……な、なぁ榎本、俺そんなにひどいことを言ったのか?」


 私などアウトオブ眼中、異性としての魅力を感じない的なことを言った。


「そんなこと言ってねぇ?!」


 同じようなことを言ったんだよ!!


「佐倉さん…………」

「うっわー西園寺さんの目が怖いよ? 俺もしかして本当にヤられちゃう?」

「ちーさんの魅力に気づかないなんて嘆かわしいです。頭大丈夫ですか? 本当に男ですか? まさか同性にしか興味を示さないっていう人種ですか?」

「ちゃんと女好きですよ?!」

「嘘です! だったらちーさんを好きにならないとおかしいです!」

「なにその論理展開!? でもさっき俺が榎本に告白したって言ったら西園寺さん」

「…………許しませんよ?」

「どうしろって言うんだよ!」


 あー、いやその、私もそんなモテるわけじゃないから、佐倉が私のことを好きにならないとおかしいなんて自惚れてはいないけど。


「いえ! おかしいんですよ!」


 ちょ、ちょっとユリ落ち着こうか。今日なんかおかしくない?


「これが普通です!」


 なんでこんなに興奮してるんだ? 何が彼女をこれほどまでに熱くさせたんだろう?

 とにかく、ほら、もういいからこの話は終了ってことで。佐倉には佐倉の恋愛事情ってものがあるだろう。さっき言ってたみたいに好みの問題でもあるしな。もしすべての人間の好みが一緒だったら、その好みに合致した人を取り合って恐ろしいことが起きる気がする。で、好みから外れた人たちがとてつもなく残念なことになる気がする。


「でも、その中でも好かれる人はいると思うんです!」


 ……あのさ、それをあなたが言いますか、って感じなんだけど。

 ユリは私の知りうる限り、男女共に人気が高くパーフェクトに近い女の子だ。去年の麗明祭……ああ、文化祭のことだけど、そのときの学年別ミスコンテストで、堂々の第一位という結果をたたき出すぐらいである。学年で一番の美少女は誰? って聞かれたら、迷うことなく私もユリの名前を出すだろう。そんなユリだから、今までに何度も告白されてきたみたいだ。年上、同学年、そして今年になってからは後輩からもアタックされ、本人は苦笑いをしていた。嬉しいけれど、自分としては誰かと付き合うとかそんな気持ちは全然ないから、申し訳なくなってくるということだ。前に、よさげな人なら付き合ってみればいいのに、と言ったら全力で拒否されたっけ。どうしてそこまで彼氏を作りたがらないのかな。


「欲しいと思わないからですよ?」


 うーん。さっぱりしてるなぁ。


「ちなみに、一番困ったのは女の子から告白されたときですね。あれは衝撃でした……」


 同性告白?!

 どこか遠い話のように思ってたけど、案外身近にもそういうのってあるんだ。

 ユリの話を聞いた佐倉が、うーん、と腕を組んで、


「どうしてこう、女が女に、っていうとそれほど嫌悪感を感じないのに、男が男に、って考えると吐き気すらしてくるんだろう?」


 それはお前が男だからじゃないか?


「お前はどうだよ榎本。そうだな……もし俺が男と付き合ってる、って言ったらどうする?」


 別にどうとも。勝手にやればいい。

 ただ私にこれ以上近づかないでくれ。未来永劫。


「仮の話だっての! ほんとに距離を取らないでくれますか?!」

「佐倉さん、やっぱり……」

「だから仮の話!! 本気にしないでくださいマジで!!」


 ぜいぜいと息を荒げる佐倉。まあ、別にお前が男好きだろうが女好きだろうが、私としてはどっちだっていい。私のことを好きになってもらわなくても全然おっけー。

 そういうわけで、以上でこの話は終了ってことでいいよな?


「まだ話の本題について全く話してないように思うんだが?」


 はて、話の本題ってなんのことやら?


「俺の夢の話だよ! 俺がお前に告白した夢! 俺はその夢の内容を否定しなきゃいけないんだ!」


 別に否定すればいいじゃん。そんなわけない、って自分で納得して自己解決できる話じゃないのかそれは。


「榎本……俺が、お前にいかに興味を示していないのかを証明したい。何かいい考えはないか」


 こいつおかしいことを言い出したぞ。本人目の前にしてよくそんなことが言えるな?


「佐倉さん、そこまでちーさんのことが嫌いなんですか……?」 

「違うよ。榎本のことが嫌いだからじゃない。俺の心の問題なんだ。俺の気持ちは、変わっちゃいけないんだよ」

「は、はぁ……」

「西園寺さんも考えてくれ。俺が榎本を好きじゃないってことの証明方法」


 うーん、なんか変な話になってきた。

 てか、何が悲しくて、自分のことを好きじゃないという男子の気持ちを証明する手伝いをしないといけないんだ。そもそも人の気持ちってのは目じゃ見えないものだ。証明しろと言われてもなかなか難しいんじゃないか?


「つまり、佐倉さんがちーさんとどんなことをしても、どきどきしなかったら証明になるんじゃないですか?」


 ええ?

 でもさ、その『どきどきしたかどうか』は誰が判断するの?


「そこは佐倉さんが自己判断するしかないのでは……」

「女子に何かされたらドキドキする自信があるぜッ!」

「ダメですね何か違う手段を考えましょう」


 キッパリばっさり切り替えるユリ。まあ、佐倉がドキドキするかを試す「なにか」をするというのは嫌な予感しかしないわけで、私にとっては切り替えてもらったほうがありがたい。


「……いや、榎本。俺を誘惑してみてくれないか」


 何言ってんだお前。死ぬのか?


「死なねえよ?! てかそんな心底嫌そうな顔するなよ!」


 心底嫌なんだからしょうがないだろう。私は自分に素直に生きてるんだ。


「こう、床に押し倒して、俺の上に馬乗りになって、体を密着させながら、「好き」って囁いてみてく」


 ゴッ!

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお??!」

「ごめんなさい佐倉さん。私の英和辞典が勝手に」

「ちょ! まっ! 角だったよね角使ったよねうおおおすげえいてええええええ!!」

「痛いで済んで良かったですね。英和辞典は凶暴ですから」

「なにそれこわい!」


 私が佐倉を殴る暇すらない、ユリの早業だった。

 良い子は英和辞典で人を殴っちゃいけないぞ。ホントに陥没しそう。頭蓋骨あたり。


「冗談だって! 俺だってそこまでぶっ飛んだ要求を出したりしねえよ!」

「いや、佐倉さんなら言ってもおかしくないと思いまして」

「俺の評価ああぁぁ! 戻ってきてえええぇぇーッ!」


 残念だけどしばらく戻ってきそうにないな。自業自得だから同情も何もないけど。

 頭を両手で押さえながらうーうー唸っている佐倉を目の前にして、私はどうしたもんかとため息をついた。

 さっさと帰りたい。けど、こいつはそう簡単に帰してくれそうにもない。今からダッシュで逃げ出せば、まあ今日のところは無事に帰れることだろう。が、そうなると次の日が果てしなく面倒くさいことになりそうで嫌だった。


「……ん? ちょっと榎本さん? なにその「こいつめんどくせえ」みたいな目」


 おお、大正解だよ佐倉くん。お前めんどくせえ。


「少しはオブラートを使ってあげて! 俺のハートがブレイクダウンしちゃう!」

「佐倉さんのそういうところが面倒くさいって言われてるんじゃないでしょうか?」

「トドメが入ったよちくしょー!」


 たったこれだけの時間で、ユリの佐倉に対する評価はこれ以上ないぐらい下がってるっぽかった。

 ……んで、結局どうするんだよ? どうなれば満足なんだ?


「んじゃあ、好きです、って言ってみてくれないか?」


 ん、好きです。


「感情がこもってないじゃないか!」


 いや、そんなこと言われても、お前に対してこの台詞でこめる感情なんざ無いんだが。


「そこをなんとか! 別に本気で言えって言ってるわけじゃないんだから! 演技だよ演技!」


 えー……?

 す、好きです?


「なんで疑問系だよ! でもちょっとドキッとした!」


 これでドキッとしたのかよ。お前ちょっと病気かもしれんよ?


「何をバカな。俺ぐらいの年頃の男子は、常に発情してると言っても過言じゃないんだからな。女の子に何かされたら常にドキッとしてると思えよ!」


 お前こそ何をバカなこと言ってんだ!

 クラスメイト、いや学校全体の男子生徒がみんな発情してるなんて恐ろしすぎるだろ。登校拒否したくなる。

 つーかそうだとしたら、私らがやってることは心底無意味じゃないか。何をしてもドキッとくるんだろ?


「男子をその気にさせるのなんて歩くのよりも簡単だぜ? ただ、ちょくちょくそいつのことを見るようにすればいいだけだ。そして視線が合ったら恥ずかしそうに目を逸らす。それだけの簡単なお仕事」


 マジですか。それでいいのか男子の皆さん。


「ま、初期値が0以上限定だけどな」


 初期値ってなんだよ。


「決まってんだろ。好感度だよ」


 決まってねーよ。現実に好感度なんて数値は存在しないんだよ!

 ……んで、さっきから黙ってるユリは、なんでじっと私の方を見てるんだ?


「……っ」


 って何を恥ずかしそうに目を逸らしているのかなっ?!


「しかし困った。確かに俺は、何をやられてもドキドキしてしまう。これじゃあお前のことをなんとも思ってないことを証明できない」


 それを口に出されるとなんかイラっとくるんだが。

 もうそれならそれでいいんじゃないか? お前はその男子生徒の宿命として、女子を目の前にドキドキしてしまった。でも別にそいつ……まぁ私のことだが、別に好きというわけではない。

 これで何か問題がある?


「ドキっとした理由としては説明がつく。けど、夢の中でお前に告白したことの説明にはならん!」


 そもそもにして、夢で見たことが願望だっていうことが間違ってるんじゃないの?

 私よく色んなものに追いかけられる夢を見るけど、別に追いかけられたい願望なんてないはずだが。


「ちーさんを追いかける何か……具体的にはどういったものです?」


 ん? いや色々。知らない人だったり、よく分からない動物だったり、うちのバカ委員長だったり。


「私というパターンはないんですか?」


 ユリに追いかけられたことは……少なくても、覚えてる中にはないなあ。


「そうですか」


 ちょっと残念そうにするユリ。


「私に追いかけられるパターンがあったら、どうか捕まってあげてくださいね」


 何か変なことを頼まれた気がするよ?

 覚えておくけどあんまり期待しないでね。夢は思い通りにいくことの方が少ないから。


「なるほどそうか! 夢では思い通りに事が進むことの方が稀……つまり、思い通りにいかなかった結果、俺はお前に告白したと!」


 おい蹴り上げるぞ。


「ところで佐倉さん。夢ではどのようなシチュエーションで、ちーさんに告白したんですか?」

「あーそれな? あれはそう、俺が朝自分の部屋のベットで目を覚ますと、隣に榎本が寝ててだな」


 いきなりクライマックスじゃないか!

 もはや告白って領域を突破してるぞそれ!


「大丈夫大丈夫、本番シーンはなかったから」


 そういう問題じゃねえし!


「で、俺がこう言うわけだ。『これから毎朝、お前のために味噌汁作ってやるよ』」


 作ってくれるんかい! 普通は逆だろ!


「あ、ごめん間違えた。『これから毎朝、貴女のために味噌汁を作らせてください』」


 どうして敬語になった?! てかそれ訂正する必要もないわ!


「いや俺、自慢じゃないが料理作るの得意だぜ? 味噌汁なんて本当に毎日作ってるし」

「へえ、そうなんですか。毎日ペットのご飯を作ってあげてるんですね偉いです」

「素でひでえ!? 西園寺さんが怖い!」


 佐倉の評価はいまだに戻ってきていなかった。


「まあとにかく、そんな内容だった。どう思うよこれ」


 どう思うも何も、お前なんぞと同衾とか、夢の中の私がかわいそうだ。

 助けたくてもお前の夢の中じゃあ干渉できん、くそっ、って思う。


「うわー率直な感想ありがとう泣けてきたぜ!」


 おう、泣け泣け。慰めないけど。


「なんでちーさんが、というのが問題ですよね。たまたまちーさんだったのか、それとも狙ってちーさんだったのか」


 たまたまというのもなんか嫌だし、狙ってというのも嫌だ。

 要するに全てが嫌だ。おい佐倉どう責任取ってくれるんだよ?


「え? 結婚は無理だぞ? 付き合うのも無理だが」


 別にそういう責任を求めてるわけじゃねえよ!


「い、慰謝料だって言うのか……!」


 言わないっての!

 とにかくさ。夢の内容イコール願望じゃないってことを証明した方が早いでしょ。そうしたらどんな夢を見ようが、それが無意識のうちの願望ってことじゃなくなるんだから。


「って言っても、それはどうやって証明するんだ?」


 佐倉さ。自分が殺される夢、見たことある?


「あるある! こう銃で撃たれたり、刃物を突き刺されたりするんだよな!」


 それって、自分が殺されたい、って願望を持ってるからだって思うか?


「死にたいなんて思ったことはないし、死ぬつもりも毛頭ない! まだまだ生きたいぞ俺は!」


 んじゃ、そういうことだよ。

 お前が見た夢は願望でもなんでもない。ただ脳が情報整理するときに零れ落ちた記憶やら知識が、ごちゃ混ぜになって見る事になった映像だよ。


「ん……そうなのかな西園寺さん?」

「それは佐倉さんご自身が一番ご存知なのでは?」

「へ? 俺自身が? ……うーん?」


「おいサクラかえろーぜー!」


 佐倉が唸っていると、すごく可愛い声が飛んできた。


「何アホみたいなツラして考え事してんだよ。お前バカなんだから、考えるだけ無駄だろー? 直感でいこうぜー直感で!」


 乱暴な言葉遣いなんだけど、声そのものはものすごく可愛い。

 その声の主は、私たちと同じクラスメイトである女子生徒、トリちゃんだ。


「ごめんなーチカにユリ。うちのバカが迷惑かけてたみたいで」

「いえいえ、大丈夫ですよ鴻さん」

「俺以上にバカなやつに、バカと言われたくはないんだが、アヤよ」

「黙れよ大バカヤロウ。見てみろチカのあの顔。お前のこと、うわこいつめんどくせえ、って顔してんじゃねーか」


 さすが佐倉の幼馴染のトリちゃん。まさにその通りだよ。


「んじゃこいつ回収してくから、また明日会おうぜーい」

「おい制服を引っ張るな伸びるだろーが! んじゃお二人さん、変な事につき合わせて悪かったな」


 分かってるなら反省して、明日からはこんなことがないようにしろよ?


「善処するわー。じゃ!」


 そう言って、佐倉とトリちゃんは教室から出て行った。

 はぁ、疲れた。なんか今日の出来事の中で一番疲れた。もう何も考えずに、家に帰って寝たい気分。


「ちーさん、私たちも行きましょう? ショウコさんとアキナさんも、そろそろ委員会の仕事が終わる頃だと思いますし」


 あー、そうだねえ。あのバカだけなら放置して帰ってもいいが、アキナもいるならやっぱり待たないとな。

 私たちも荷物を持って、委員会の仕事をやっている友達のところへ行くことにしたのだった。


「夢、ねぇ」


 教室を出る直前に、空になった佐倉の席に目を向ける。


「お前は、さっさと醒めないとなぁ」


 誰もいないそこに、私はそう呟いた。



 お読みいただきありがとうございます。あおいのという物体です。


 以前は違うサイトにて小説投稿の経験はありますが、この「小説家になろう」では初の投稿になります。

 趣味で小説を書き始めたのは小学5年の頃……今やもう15年以上経過しておりますが、懲りも飽きもせずに未だに書き続けております。あくまで趣味の範疇なので勉強も何もしていませんが、読んでいただけた方に少しでも楽しんでもらえたら幸いです。


 今回の話には、私が過去に書いた作品の登場人物が出ています。個人的に大好きな、2作品のキャラクターがクロスするものです。今回の語り部であるチカと、隣の席に座るサクラ。それぞれが違う物語の主人公になっています。


 クロスものは面白いですよね。胸が熱くなります。


 それでは、ここまで読んでくださりありがとうございましたー。


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