10月24日α(4)
白いローブを普段着へと着替えてから、布団に包まる。頭の中の問題は、もはや処理できるような量ではなかった。
「信也君にも事実を伝えられない、わたしが優美ちゃんを救ってもダメ。それじゃあどうやったって、優美ちゃんの運命は変えられないよ……」
頭を抱えるわたしの耳に、突如電話の音が鳴り響いた。枕元にある電話を取るも、何も聞こえない。
そういえばここは信也君の家だった。
電話機を探して階段を下りる。すると食事をする部屋の隅のほうから、音が聞こえてきていた。
「はい、ミリスです」
「鷹野ですだろ……」
呆れた声で返してくるのは、間違いなく信也君の声だ。
「信也君?」
「ああ、母さんいる?」
「いや、まだ帰ってきてないよ。信也君こそまだ帰らないの?」
頭を悩ませていたせいか、気だるさが全身を襲って抜けてくれない。
「できるだけ早く帰るよ。とりあえず母さんに晩御飯はいらないとだけ伝えておいて」
夕飯がいらないとは、おかしな話だ。社会人ならまだしも、学生の信也君がお金を使う外食を自分からするとは考えにくい。
「もしかして……優美ちゃんのところ?」
一瞬だけ、信也君の声が止まった。どうやら図星らしい。
「ああ、そうだけど……」
「ダメよ信也君! 優美ちゃんと仲良くなっちゃダメ!」
わたしは思わず、叫んでしまった。
優美ちゃんはDVの中で、信也君への恋心を語っていた。ならば、優美ちゃんと仲が良くなければ、未来は変わるかもしれない。
「なんでダメなんだよ?」
信也君が当たり前のように尋ねてくる。
「そ、それは、その……理由はエンマ様に喋るなって言われてるから」
「なんで喋っちゃいけないんだ?」
「エンマ様の判断だから、ダメなものはダメなの。ごめんね、信也君」
本当ならすべてを伝えたかった。だけど、その想いも空回りするだけ。
信也君は痺れを切らして、
「理由を言えないのは分かった。だけどミリア、山倉を放っておくわけには、いかないんだよ!」
「信也君!」
わたしの静止も聞かずに、向こうから電話を切られてしまった。
「信也君、ダメだよ……」
不通の音に変わった電話機に、ぼそりとつぶやく。もちろんその声が、信也君に届くとは思っていない。
受話器を置いて、わたしは自室へと戻ろうとした。すると今度は、家の中にインターホンの音が鳴り響いた。