10月25日(8)
ビデオルームに辿り着くと、素早く鍵をかける。ようやく安堵感に包まれ、全身から力が抜けていった。
部屋は昨日とは違うけれど、内装はほとんどかわらない。しいて言えば、ソファーの色が赤色と青色で違うといったぐらいだ。
「さてと、適当に座ってて」
信也君にソファーへと促すと、黙って信也君は言うとおりにした。
パソコンへと、パスワードと優美ちゃんの名前を入力して、再び昨日見た、あの忌まわしいDVを取り出す。
本来なら二度とお目にかかりたくない代物だけれど、見せなければ信也君は納得してくれないだろう。
「お待たせ」
DVを、信也君へと見せる。首を傾げながら信也君が、
「なんだよ、それ」
当然ながら尋ねてくる。わたしは自慢げに胸を張って答えた。
「優美ちゃんの死ぬ瞬間が、収められたビデオテープよ」
「山倉が死ぬ瞬間!?」
信也君が勢いよく立ち上がると、わたしの手からDVをひったくる。ラベルを確認しながら、わたしの顔をまじまじと見やった。
DVの説明を軽く済ませてから、信也君から返してもらう。
「それじゃあ再生するからね」
デッキにDVを入れてから、再生ボタンを押す。
ただ、前回とは違い、優美ちゃん個人を映すのではなく、会場全体を映した映像へと切り替えておいた。
もう一度あの肉片の映像を、見たいという人は少ないだろう。それが愛する女性なら尚更だ。
映像がテレビから出力される。会場を天井から見下ろしたような、そんなアングルだった。
「ここは信也君たちが、修学旅行で行く予定の、サーカス会場だよ」
補足説明をすると、信也君は何やら考え事をしてから、
「それで、山倉はどこに?」
と、問いかけてきた。
「あとで説明してあげるから、今は映像を見ときなさい」
一喝すると、しぶしぶとテレビ画面へと興味を戻した。
しばらくすると会場内に、係員の爆弾発言がこだまする。そしてしばらく後に爆音が轟き、映像は終わった。
「と、いうことなの、分かった?」
「いや、頭の整理だけで精一杯だ」
それはそうだろう……と心の中で思いながら、きちんと説明してあげる。
「現場には爆弾がいくつか設置されてて、そのうちの一つをサーカス団員がみつけたの。現界ではテロ目的とか、ツーリストに対する恨みとか、いろんな推測が飛び交ったけど、結局は目的不明のまま事件は迷宮入り。だけど、中界で仕事をしているわたし達には分かるのよ」
わたしはパソコンを動かし、中界のデータを呼び出した。それから信也君を呼び、内容を確認させる。
呼び出したデータは、優美ちゃんが死ぬ原因となった男のデータだった。
「自殺をしたいが一人で死ぬのが怖いという理由で、サーカスの会場に爆弾を仕掛け、その爆弾で死亡!?」
わたしが後ろを振り向くと、信也君は呆然と口を開けたまま固まっていた。
「現界ではこの人も爆弾に巻き込まれたと思われていたけど、そうじゃなかった。この人は自らの意思で爆弾を仕掛け、爆弾によって死ぬことを望んでいたのよ」
「それが山倉の死因……」
「そういうことね。まっ、偶然とはいえサーカス団員が爆弾を見つけてくれたおかげで、死者は三人で済んだんだけどさ」
一歩だけ前に出てきた信也君が、ふと動きを止める。
何をしたかったのかは、よく分からないけれど、悔しそうに顔をゆがめているのは確かだった。
「優美ちゃんはサーカス見学のとき、一番前の席にいたの。普段の優美ちゃんならすぐに逃げ出せたでしょうけど、骨折が原因で出入り口まで逃げ切れなかった」
「……なんで山倉が一番前の席って知ってるんだ?」
「普通にわたし達が見るときは、死んでしまう人をアップにしてみるからね」
「だったら最初からそっちを見せてくれれば早かったじゃないか!」
反論してくる信也君に、わたしはいらだちを覚えていた。
爆発させたい怒りをなんとか静めて、冷静に信也君へと告げる。
「見たいんだ。信也君の大好きな優美ちゃんが、爆弾でバラバラに吹き飛ぶ瞬間を。普段から人の死に触れているわたしですら、吐きそうになった映像をさ」
信也君の喉もとから、唾を飲み込む低い音が聞こえてくる。全てを察知したのか、
「ごめん……」
と、素直に謝ってきた。
「いいのよ。分かってくれれば」
そう返すわたしにも、信也君は表情を崩さなかった。自然と重くなる空気。わたしはこの空気が一番嫌いだ。
仕方なくわたしは手を打ってから、ちょっと信也君をからかうことにした。
「そうそう、信也君が死ぬ瞬間のビデオを見た時はね。ありがちな死に方だねぇって笑いながら、お煎餅をかじってたわ」
「な、なんだよそれ!」
狙い通りに、食いついてくる信也君。
「だって交通事故でしょ? まっ、子どもの命を救ってるんだし、無駄死にじゃなくてよかったじゃない」
信也君の肩を叩きつつ、笑ってみせる。
信也君も最初は仏頂面だったけれど、すぐに笑みを取り戻していた。