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プロローグ(1)

このたびは数ある小説の中から『未来の君を救いたい』を選んでいただき、ありがとうございます。


この小説は『鷹野信也編』『ミリア=ミリス編』の二通りがあります。同じ時間帯を信也の視点、ミリアの視点からといった、A面B面型の小説となっています(プロローグ、エピローグは除きます)


どちらから読んでもらっても、かまいません。片方だけ読んでは、話の全貌が見えませんので、もう片方を読んだときに新たな発見、驚きがあると思います。


また、二つを同時に読んでいくというのもいいと思います。ただ、話は分かりやすくなりますが、その分発見や驚きは、納得といった感覚になると思います。

 

かなり長い話になりますが、最後までお付き合いしていただければ幸いです。感想などありましたら、ぜひお聞かせください。

 わたしにだけ課される、年に一度の仕事を終わらせると、いったん職場へと戻った。

 室内はすでに閑散としており、わたしの存在すら危うく消し去りそうな――そんな感覚に捕らわれる。

「やっぱりだれもいないか」

 時計はすでに二十時を回っている。わたしの部署は朝から夕方までを担当としていた。

 残業なんて滅多にないので、みんな帰ってしまってもおかしくはない。

「わたしも早く帰ろう。一杯やりながら、余韻に浸るのもいいかな?」

 一人で呟き、鞄に荷物をまとめると、わたしは職場から出ようとした。

 刹那、なにか冷たい物体が首筋に乗せられた。同時にわたしを呼ぶ声。

「ミリア」

「う、うあぁ!」

 爆音を鳴り響かせる心臓を、押さえつけながら振り返る。

そこには黒いローブを身にまとい、腕に緑色の腕章を着けた男がいた。

 わたし――ミリア=ミリスのやっている仕事場で、最高責任者にあたるテラ=マクスウェルだ。固められたオールバックの髪が、彼の几帳面さを露にしている。

首筋に触れた冷たい物体は、どうやら彼の手だったらしい。

「家に帰って、宴会でもするつもりか?」

「違いますけど……」

「まあいい。仕事さえきちんとこなせば、お前がどこでなにをしようが関係ない」

 思わずムッとしてしまった表情を、笑顔に戻す。

 昔から上司のテラとは馬が合わず、衝突ばかり繰り返してきた。

 親友であり、同僚でもある信也君をも巻き込んで――。

「用がないのなら失礼します」

「用ならある。エンマ様からの言伝だ。これを渡しておいてくれとな」

 テラが懐から出したのは、一本の白いビデオテープだった。

「これをわたしに?」

「なんのビデオかは知らんが。きっとエンマ様の説教が何時間も入っているのだろう」

「い、いらないです」

「そう言うな。きちんと見て、説法でも学ぶのだな」

 淡白なせせら笑いを発しながら、テラはわたしの鞄にビデオテープを押し込んだ。

「なっ、ちょっと!」

「それじゃあな。非番にやることができてよかったじゃないか。どうせ暇なんだろ」

皮肉たっぷりに言ってのけると、テラはわたしの横をすれ違い、職場から出ていった。

 ご丁寧に、肩と肩をぶつけて。

「本当に嫌な奴。違う部署に飛ばされちゃえばいいのに」

 去り行くテラの背後に、アッカンベーを食らわすと、自宅への帰路についた。

 鞄の中に入れられてしまったビデオテープには、大した興味も持たずに――。

 

 わたしたちの世界は、生きている人達の世界とは違う――死者の世界だ。

 わたしがいるのは、中界と呼ばれる、天界と地界の仲介を行っている場所である。

 天界と地界とは、よく知られた言い方になおすと、天国と地獄みたいなものだ。

 つまり、死んだ人は天界行きか地界行きかの判決を受ける。中界はその判決の場所だ。

 わたしは、その中界で案内人の仕事をしている。

 死んだ人を中界まで連れていき、判決を下すエンマ様の元へと案内する。

 判決が終わると、天界や地界へと送り届ける。死んだ瞬間を思い出せない人には、その死に様を説明し、納得させる。それが主な仕事内容だ。

 目を覚ましたわたしは、目覚まし時計を掴んで、顔の前に持ってくる。針は九時をさしていた。

 本来なら遅刻の時間帯だけど、今日は週に一度の非番なので問題はない。

 非番の朝は、とにかく寝るに限る。普段むさぼれない惰眠を堪能し、再び目を覚ました時には、すでに午後一時を回っていた。

 カーテンを開けると、太陽はすでに南の空高くまで上がっており、皓々と中界を照らしていた。

 雲よりも高い位置にある中界で、雨や雪に見舞われるのは稀である。

 大きく背伸びをし、さんさんたる日光を浴びる。

 今日の予定に使う予算を決定しようと、わたしは鞄の中から財布を取り出してみた。

 財布の中身をみて、自然と全身に鳥肌が巻き起こる。

「こ、これだけ?」

 給料日前とはいえ、財布にはたった九十八ペソミしか入っていなかった。

 これでは缶ジュースも飲めない。

「予定もなにもないわね。どこかに千ペソミぐらいないかな?」

 鞄の中身をひっくり返して、全財産を確認する。出てきたのは手鏡、ティッシュ、ハンカチ、家の鍵――そして最後に、白いビデオテープが現れた。


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