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ある浮浪児の出会いと別れ

作者: izumi

 エストリス王国西。国境付近のある街での出来事。

 英雄とすら呼ばれた男は戦いこそを望んでいた。その左足を失った瞬間に、男は死んだも同然であった。それまでに得た稼ぎはとてつもなく、日々を遊んで暮らしても死ぬまで金には困らないだろう男はしかし、怒りを如何なる時も抱えたまま、それをぶつける標的を探す毎日を送っていた。


 酒を飲んでは怒声を放つ。


 目が合ったと絡んで脅す。


 気に入らぬと拳を振るう。


 そして、誰からも避けられ忌み嫌われてなお、男は変わらずに死ぬまで生きた。


「俺に挑めば銅貨をやろう。死ななければ治療は万全にしてやるさ」そしてもし勝てば、銀貨をやろうと。それを聞いた、日に一食もままならぬ日々を送る一人の浮浪児は挑んだ。


 手業は難なく手首を掴まれ殴り飛ばされた。

 財布をかっぱらって駆け出そうとした瞬間に蹴り飛ばされた。

 刃を持って背後から寄った浮浪児を、楽しげに翻弄した後に杖で殴打した。

 その度に昔なじみという癒し手の所へ俺を投げ込み、浮浪児の眼前に銅貨を数枚、投げ捨てる。


 浮浪児はしかし、挑むのをやめなかった。


 癒し手は呆れながら、浮浪児に男の身体の欠陥をいかに突くかを耳打ちした。

 ふらり、と現れた盗賊が、浮浪児に盗賊の技術を吹き込んでいった。

 男に、恨みがあるという傭兵が、浮浪児に戦略を教え諭した。

 そして男は、浮浪児と対峙する度に武力を見せ付けた。


 結局浮浪児は一度も勝てぬまま、男は酒で死んだ。


 葬儀の日。浮浪児はその場に居た。そして浮浪児の前に三人の男達が現れた。

 癒し手は告げた。男が浮浪児との勝負を魚に、賭博屋で賭けを行っていた事を。



“あの浮浪児が俺が死を迎えるまでに勝つか。留まるか。消えるか”


 大穴狙いは勝つを選んだ。

 多くの者は消えるを選んだ。

 そして五指に満たぬ者達が留まるを選び、男はその一人だったのだ。


「望む存在を得ようとする日々はどうだった」

 癒し手の問いに、浮浪児の頬が溢れる涙で濡れた。

 浮浪児は叫んだ。男の名を。恨みからでも、恐れからでもなく、悲しみから。


「彼は掠めて逃げる奴が嫌いだ。お前は逃げず、挑み続けた」

 あの日ふらりと現れた盗賊が、脇を掴み立たせるまで、浮浪児は蹲り叫び、泣いていた。

 

「奴はお前が挑む日だけを生きていた。俺達は、すげぇ感謝してる。お前にだ」

 恨みがあると言っていた傭兵が、未だ枯れる事無き涙を流す浮浪児の肩に手を回し、抱いた。


「追われる鼠が、追う猫に変わった。相手は犬で負け続けたが。何、お前ならば狼になれるさ」

書きたいと思った事を書けたような、違うような。

一読してくださった方に感謝します。ありがとうございました。

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