道産子ロック
学年全員に声はかけた。しかし、これ以上は無理だった。軽音楽部に入ってくれるという人はとうとう見つからなかった。そんなこんなで俺たちの学校は夏休みを終え、2学期に突入してしまったのである。
「え〜と、一年生の夏休みが終わりました!今日から2学期だな」
しばらく聞いていなかったタナキョーの声で学校は始まった。軽音楽部が出来ないまま夏休みが終わってしまった。こんなはずじゃなかったのに・・・・・。俺は今、最高に気分が悪い。しかし、俺たち3人はただ夏休みをだらだらと過ごしていた訳ではない。さらに音楽に磨きをかけたのだ。全てがうまくなって他の軽音楽部にも並べるというレベルまでは達している。ただメンバーが揃わない!
「君たち!報告があるぞ!なんと転校生が来た」
「・・・・・!!」
俺と陽介は同時に顔を見合わせた。
グッドタイミングだ!もし、そいつが音楽に興味を持っていれば・・・・・!!
「では、入って来て!」
(ベタだな・・・・・。もとから入らせとけば良かったのに)
俺がそんなことを思っていると、勢いよくドアを開けた転校生が教室に入って来た。
「どうも、浅間孝則です!北海道から来ました」
そいつは入るや否や、大きな声で挨拶を始めた。陽気な感じ。
「孝則君はお父さんの仕事の事情で桜坂市に来ることになった。みんな!仲良くやれよ」
タナキョーは相変わらずうるさい声で説明した。
「まあ、2学期が始まったばかりだからみんなとあまり変わらないけどな!」
いらない付け足しをしたあとにタナキョーは孝則を席に案内した。
(狙うぞ!陽介・・・・・!)
俺たちは同時にうなずいた。
1校時目が終わった。休み時間になり、俺と陽介は早速孝則の元へと向かった。
「おい!」
陽介は強い声で話しかけた。
「何?」
孝則は結構ひるまず聞き返して来た。
「音楽に興味ある?」
「ああ、俺から音楽をとったら笑いのセンスしか残らねえよ」
「・・・・・・・・・?」
・・・・・しらけた。確実に空気が重くなった。
「・・・じゃ、じゃあ、何か楽器やってたりすんの?」
俺が勇気を出して話を戻す。
「なめんなよ?」
孝則は笑いながら言った。不敵な笑みとはこういう事だ。
「軽音楽部に入ってくれない?まだ出来てないけど人数が必要なんだ」
「お前らじゃあ駄目なんじゃない?」
「・・・・・・・・なっ!?」
「言っとくけど、俺はうまい。お前たちとはレベルが違うと思う。道産子ロックをなめんじゃねえぞ?」
喧嘩売って来たな・・・・いきなり。
「じゃあ、今日、俺らのプレハブ来いや!!見せてやるよ!」
陽介が完全に喧嘩を買った。
「自分たちの音楽が出来る場所があるのか。いいだろう。行ってやるよ」
こうして俺らは放課後にプレハブに向かう事になった。
(納得させられる演奏できるかな・・・・・・?)
「いくぜぇぇぇぇぇええええええ!!」
俺と岡田、陽介は揃って並び、それぞれの楽器を構えている。
「いいねぇ!その気合いはロックだ」
前の椅子には孝則が座っている。
(結構緊張するな〜・・・)
「よし!行くか!」
俺は自分に気合いを入れ、アルペジオに入った。
時々、孝則の表情が気になって覗いたが、その無表情からは何も感じ取れなかった。しかし、最高の演奏が出来た。これまでに無い程の一体感と迫力をフルに出せた。
演奏が終わるとスタジオは少しの静寂に包まれた。心臓がとんでもなく早く脈を打っていた。
「最高!」
孝則は拍手し始めた。顔からは満面の笑み。
「良かった、本当に。想像以上だった。かなり練習したのが感じれるわ〜」
「見たか〜!俺らのロックを!」
陽介は得意げに胸を張っている。
「じゃあ、軽音楽部に入ってくれるのか!?」
「うん。俺でいいなら!」
「これで私は全然楽器触れませんってオチなしにしろよ!?」
「新しい俺の家来いや!」
陽介の疑いに孝則は即答した。そして俺たちは孝則の家に向かった。
「ここが俺の部屋」
俺たちがドアを開けると、その目の前の光景に少なくとも俺は絶句した。目の前には緑に輝くドラムが置いてあった。ピカピカに磨かれていて、新品より新品に見えた。
「まあ、楽器は管理ってことよ!」
そう言いながら孝則はドラムの椅子に座った。
「いくぜ!?俺の道産子ロック!」
孝則はスティックを高く振り上げた。