二階建てのプレハブ小屋
「ここで、練習しようぜ!」
「は?」
俺の家から徒歩5分くらいの所に陽介の家はあった。国道大通りに臨む陽介の家の隣には大きな二階建てのプレハブ小屋があった。今、陽介はそのプレハブ小屋を指差していた。
「今、ここ、物置になってて使ってねーんだ」
「でも、いいのか?」
「ああ、全然」
部員が足りないと部活は完成しない。部活が完成しないと学校での練習ができない。そうなってくると、練習場所はどうしようかと悩んでいた所だった。陽介は丁度良くこの練習場所を与えてくれた。
「はい!」
「え?何コレ?」
陽介は小さな鍵を俺に手渡した。
「合鍵。あった方が便利だろ?」
「そ、そんな!悪いだろ」
「別にいいよ、同じ部活の仲間じゃないか」
「・・・・・」
「せっかくだから、啓人のギターもここに置けよ」
「・・・何か、ありがとな?」
俺はコイツが友達で本当に良かったなと思っていた。
「じゃ、早速掃除を」
「へ?」
「だから、ここ、物置になってるから汚いんだって」
そういって陽介はプレハブ小屋に入っていった。
「ま、待てよ!」
俺も追うように入っていった。
プレハブ小屋の中は埃だらけで息が出来ないほどだった。
「ごほ、ごほ!これ酷いな」
「ああ、使ってないからな」
いろいろな骨董品やタンスなどが陳列してあったが、確かにしばらく使ってないようで、埃がかぶっていた。
「まず、物を全部出そーぜ!」
「それからだな」
俺はしぶしぶ何が入っているかも分からないケースの持ち手を掴んで外にやった。
(くっ・・・以外に重いな)
俺たちはプレハブ小屋の外と中を何度も行ったり来たりした。大きなタンスを二人で担いだり、埃だらけだった床や天井をきれいに掃除した。2時間ぐらいは続いただろうか。とりあえず作業はとても長くかかった。
「よし!全部外に運び終わった。めっちゃ疲れたな・・・」
「全部運び出すと意外と広いな。この部屋」
一階は全ての作業を終えたが、まだ二階が残っていた。
「今度は二階か」
俺たちはおそるおそる二階に上がった。またあの作業を繰り返さなければならないのか。
「おい!啓人!」
陽介は二階に上がり、俺を呼びかけた。続いて俺が上がると、そこには殺風景な部屋があった。
「何だ?きれいじゃないか」
「ここはプレハブ黄金時代にも使われていなかったらしいな」
ラッキーだったが、埃は積もっていたので、とりあえず床を水拭きした。
「完成だ!プレハブ小屋」
「やっと終わったな!」
「で、どうする?」
「何が?」
「練習場所は一階にする?二階にする?」
プレハブ小屋は一階も二階も同じ広さで、大差は無かったが、涼しいからという理由で二階に決定した。
「そうと決まったら・・・・・待ってろ!」
そういって陽介は外に飛び出していった。二階の窓からは陽介が隣の自宅に向かっているのが見えた。
(何する気だ?)
陽介は勢いよく戻って来たかと思うと、大きな板を抱えていた。
「防音板だ!俺の部屋に張ってあったヤツ」
「お、お前・・・」
(・・・コイツの家ってどんだけ準備いいの?)
俺たちはプレハブ小屋の二階に防音板を張り巡らせた。あっという間にちょっとしたスタジオになった。
「何か本格的だな!」
「だろ?」
「じゃあ、明日ここにギター持ってくるか!」
「よろしく!明日の学校で二人で部員探そうぜ!」
「ああ、そうだな」
そういって俺は自分の家に帰った。
(絶対すごいバンドになるぞ!)
俺は帰り道、小さな決意を固めていた。