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マチルダのいた島

掲載日:2026/09/17

1.ベンは海を見ていた。波止場でボートやヨットが停泊しているその海。エメラルド色の透明な海。ウミドリが爺さんの蒔く餌に飛びつき。蟹が横向きに歩いている。

爺さんは今日の餌はこれで終わりだとばかりに折り畳みチェアを持って、歩き出した。


ベンは作家でありこのときは夏休みで海辺の宿を取っていた。大西洋の上のある島。

ときには雨が降り、ときにはキレイに晴れ渡り、ときには暗雲が立ちこめる。

ホテルでは魚の塩焼きをメインにサラダやソーセージ、ワインが出る。その海で取れる魚は絶品である。

彼も最初の日の晩にその魚を食した。

脂が適度に乗っており尚且つ海臭くない。

彼は本を書くためにこの島に来ていた。

よく島で宝探しやロマンスのある物語があるが、彼はそういうものを求めてはいなかった。その時見たもの聞いた話をそのまま書き記し、そのリアリズムを堪能できる、そんな物語にしたかったのだ。


まず、この島で見られる光景はなにか。それを考えていた。母国では見られないような珍しい色と大きさの蟹を見かけることができた。食べても美味いんだろうなと思った。そして、沖にはイルカがいるのではないかと思った。シャチかもしれないが。


そして、砂浜から少し陸に入っていくとジャングルのような林のようなところがあって、木々には珍しい色合いの鳥が何種類も見られた。


いかに、人間がこういう自然の生き物を追いやっているのか意識した。


そういった意味ではオレは作家でノートに字を書いているだけなのだから、自然破壊をしていないなと思い、悪くない気分だった。ただ、いくらでも無限にいる魚を一匹釣って出しているホテルで食べているだけだし。ここにいれば人間としての罪を感じずに生きられるのかな?と思った。


作家で成功したら、離島に家を持ち 魚釣りを覚えて、焚き火を覚えて、生きていこうか? 焼き魚に、川の水、野菜をむしってきて塩をかけて。

必要なのは塩だけだ。


家では19世紀のように、ろうそくを立てて。


履きやすい同じ靴を5足ぐらい買い揃えてとっておこう。

ラゲージに靴と服 ペットボトルと歯ブラシ、シャンプーを持って行こう。


この島ではその想像を巡らす時間にしよう。


今回はいいホテルでワインもいいのが出るが。


今日は軽くこの島の第一印象を取れた。明日は、あの林を通って内陸へ行こう。何が見られるかな?楽しみだ。


2.翌日、朝は、トーストとベーコン、サニーサイドアップと紅茶が出て、オレンジジュースも飲んだ。


さあ、出発だあの林の続きだ。


ベンは歩き出した。

林にさしかかると相変わらず昨日も見た鳥たちが様々な声で歌っているのが見られた。

そして、林をズイズイと歩いていくと、いつか、草原に出た。見渡すかぎりの広いフィールドが広がっている。

いいところに来たな。ずっと歩いていこう。

ベンは少しポカポカしてきて、うっすらと汗をかきながら歩いた。バッタや鈴虫やコオロギのような虫たちが飛び跳ねていた。


草は浅くさほど脚の毒にはならないだろう。

ずーっと歩いていくと人影とあれはなんだろう牛か馬かなと思われる影が見えてきた。

茶色っぽい。


あれは、見えてきた。馬だ。女性が馬を連れて歩いている。

彼女はこちらに近づくと手を振って、声をかけた。「こんにちは。いい天気ね。」「こんにちは。そうですね。」私は笑った。彼女も笑った。「私はここで乗馬をさせて稼いでいるの。」「ああ、そうですか。」私はホッとした。「この島ははじめてかしら?」「はい、はじめてです。」「馬に乗ってく?」「ええ、是非、お願いします。ポンドでいいですか?」「いいわ。扱ってる。20ポンドね。」「あります。はい。」ベンは20ポンド渡して、馬に跨った。彼女は下で前を見ながら歩いている。手綱を持って。ベンももう一本の手綱を持ってゆっくり歩いた。この先には何があるのか?楽しみだった。


彼女に名前を聞くのを忘れていた。「名前は?」「マチルダよ。」そう言って、再び歩き出す。

きれいな女性だし、若いけど何故こんな島にいるのか?不思議ではあった。

都会にいても十分人気者になるだろう。


ずっと草原を歩いていき再び林に入って、しばらく行くと、馬の蹄の音とともに、せせらぎの音が聞こえてきた。

小川だ。「この川の水は飲めるわよ。おりて。」ベンはおりて川の水をすくった。水は透明で冷たかった。口に含むとミネラルや様々な栄養を感じた。馬も水を飲んでいる。彼女も飲んだ。


ずっと歩いて行くとまた草原に出て、そのうち砂浜にやってきた。ベンを乗せた馬は海の水をピチャピチャと踏みながら歩いてくれた。「これはいつものコースよ。」彼女は言った。

「なるほど。」ベンは応える。


一キロぐらいだろうか?歩くと小屋についた。「ここがこの馬の住処よ。もういいわね。」ベンは頷いて馬をおりた。


ベンは別れ際に訊いた。ホテルは何処かと。「あなたのホテルなら、きっとこの先ね。ついてきて。」彼女は馬を繋ぎ、歩き出した。ぐるっと回ってきたのだ。砂浜から少し林に入ってすぐのところにベンの泊まっていたホテルがあった。


ベンは胸をなでおろし、礼を言った。

ついでに声をかけた。「ランチでもどう?」「いいの?」「いいよ。」


マチルダは汗を拭き、ホテルのルームサービスを美味そうに食べた。ビールを二人でのみ色々訊いた。

彼女はイタリアの出身で大学の夏休みだということ、大学4年で毎年ここに来て馬を引いているということ、馬を引くのはただの趣味だということを話してくれた。彼女は大学を卒業したあともここに来るといい、また会えると約束してくれた。

彼女は他のホテルに滞在しているので帰るという。

ベンは彼女を見送って部屋に戻った。


3.ベンはこれはいい旅だと思って、翌日からペンを執った。

いい子にあった。


今日はポケットにライターを入れて歩き出した。魚を釣って、焚き火で焼きたいのだ。


木の枝を折って、先に糸をつけて、針にサワガニを刺し、海に放り投げるのだ。これで釣れるかどうか正直分からなかったがやってみた。


中々、引きはなかったがそのうち変化があった。

ピクピクと竿先が引っ張られている気がする。少しだが、試しにクイクイっと引いてみた。

すると、グイッと引っ張られた。お、かかったか?と思い、立ち上がるベン。

この仕組みだと糸巻きがないので、自分が下がって魚を砂の上まで引き出す必要がある。

後ろに小走りで行った。

なんだ?この魚は銀色に青が混ざった色。釣れたぞと喜んだベン。ベンはピチピチ跳ねる魚を岩に叩きつけて気絶させた。いや死んだかもしれない。

それをポケットにそのまま入れ、林に入って枯れ葉と木の枝をいっぱい取ってきた。


そして、ライターで火をつけて、木の枝に刺した魚を丸焼きにした。

ルームサービスで少しティッシュに取っておいた塩を持ってきて、焦げた魚にふってかぶりついた。


「ん???美味い。そこそこ。」ベンは行けると思い背中側の肉をかじって食べた。「うーん、中々、初めてにしては美味い。ラッキー!」ホテルの魚ほどではないが美味かった。

ホテルの魚はどこでとっているのだろうか?と考えた。

きっとボートで釣りに行くんだろうという結論に達した。


4.またまた、いい経験をした。ベンは筆を走らせた。

今日はどうしようか?もう予定はなかった。


いい子にも会ったし、魚釣りはできたし...ベンはこれまでの作品を振り返っていた。旅をして本を書く、それが夢だった。様々な土地、部屋で見聞きしたことを書いていく。どっちみち本というのはそういうものなんじゃないかと思っていたのだ。こうして、今回自然の中で未知の経験をしてみると、世界には、コンピューターや信号、道路標識はなく、システムそのものがないことが分かる。自由は今でもあったのだ。自由な動物がいて、自由な人もいる。それを悟る今回の旅だった。


ベンは翌日も焚き火を続け、蟹も焼いて食べられたし、他の魚も釣れた。鳥だけは捕まらないが。流石に、空を制することは叶わない。マチルダともホテル村で出くわした。

再びあった二人は、仲良くなり、カクテルなどを飲んで話をした。


どんな話をしたか?ほとんど国での話はしなかったが、この島での発見や困ったことなどを訊いた。


滞在期間が終わりに近づくにつれ、寂しい気持ちと充実感が満ちてきた。

海の満ち引きと重ね合わせ物語は終盤まで書かれていた。


5.最終日の夜、ベンはマチルダと夕食をともにしていた。明日には帰ると言うと彼女は別れを惜しんだ。ベン・ゴールドウィンという名前とロンドンの住所を伝え、別れた。

彼女は若かった。ちょっとベンの相手としては若すぎる。そう思っていた。


大型のボートに乗り込み風を感じて飛んでいく景色。ベンは島を去った。


今回の経験はベンにとっては、とても良いテーマになった。ロンドンについてからも、様々な体験を綴った。


物語はベンのストックとしてファイルに残った。タイトルには「マチルダのいた島」とした。


fin


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