第一話「再会」
墓荒らし、
倫理観が終わってる。
そんな事はどうでも良かった。
ただあの人に会いたい。
伝説の剣、自前の祭壇。
古びた魔導書。
呪文を詠唱する。
光が集まり、輝きを増す。
人の形になる。
長すぎる時の隔たり。
会いたい想いで胸がいっぱいで、
窒息しそうだった日々。
その出会いは、
彼女にとって再会だった。
あの人が。
英雄が。
私の目の前にいる。
「韓信…!」
涙が出た。
遂に、逢えた。
視界の輝きが、胸の中まで照らし出している。
暗い中ずっと進んできた。
分からないことだらけで。
何度も失敗した。
無理かもしれないけど諦めなかった。
それでもここまで来た。
でも、全てが報われた。
この瞬間だけのために今まで生きてきた。
光が収まる。
そこにいた男は、
気怠そうに言った。
「……腹減った」
「えっ…?」
「あんたプライドとかないわけ…」
長い黒髪をかき上げながら、ため息をつく。
じと目で、英雄であろう男を見る。
眠そうな顔で、パソコンを見ている。
側には、ポテトチップス。
服はTシャツ。
髪は無造作。
身長は思ったほど高くもない。170くらい。
救いは顔が良いくらい。
「なんか言いなさいよ…」
「街に行く、案内しろ。」
夏の日差しが照りつける。
熱くなったアスファルト。
車や、建物を観察して歩いている。
紀元前には無かったのだから、気持ちはわかる。
でももうちょい喜んでくれてもいいのに。
ひたすら冷静、テンション低い。
何をするでもなく。
ネット見て毎日散歩。
「これをもらおう。」
またお小遣いで変なもの買って。
ネクロマンサーに収入なんてほぼない。
まともな職業として認められてない。
そもそも知ってる人はいない。
「ぶつかってんじゃねぇぞ!」
「……すまない」
あっさり頭を下げる韓信。
「は?」
自分の顔がひきつる。
(韓信の股くぐりとは聞いてたけど、もうちょっとプライド持ちなさいよ。)
河川敷に来た。
空気が少し涼しい。
韓信はさっき買った道具を取り出して。
あろう事か釣りを始めた。
時間が流れる。
男ってなんでいつの時代も釣り好きなの…
ひたすら待っている。
こんなとこなのに不思議とよく釣れる。
一応英雄だし釣りくらいはね。
辺りは薄暗くなってきた。
ふと人影が近づいてくる。
妙だ、顔にお札。
まずい。
他のネクロマンサーの手下。
勢力争い。いつも私は逃げてばかり。
霊能者、呪術師、ネクロマンサー。裏社会にも縄張りがある。
また逃げるか。
「兵を頼む。」
急に凛々しく私の前に直立した、Tシャツの青年。
私が詠唱すると、地面から、動く死者たちが這い上がってくる。
敵に群がる。
韓信は何やら指示を出している。
キョンシーが凄まじい勢いで蹴りを繰り出す。
一体のゾンビは、宙を舞い地面に叩きつけられる。
飛び蹴り。
ゾンビの頭が砕け飛ぶ。
次の瞬間、
もう一体。
腕が千切れ、
地面に転がる。
止まらない。
私の死兵達が、
紙みたいに潰されていく。
「っ……!」
やっぱり無理だ。
いつもの負け方。
(逃げないと…)
その時、韓信は釣った魚にナイフで切り込みを入れはじめた。
切り終えると、
思い切り、キョンシーに投げ始めた。
生臭い匂いが立ち込める。
ゾンビ達の目が、一斉に光る。
「進め!」
韓信は、大声で叫ぶ。
薄暗い月夜の中。
猛烈な勢いで、突撃する死者の軍団。
敵に群がり、押さえつけ。
かぶりつくゾンビ達。
抵抗するも。
キョンシーは残骸になった。
涼しい顔で佇む韓信。
当たり前。
勝利の演出家。
そう言う態度。
顔が熱い、胸の鼓動が高まる。
何年も待ち侘びた人、永遠に逢えないはずだった英雄が、そこにいる。
(さっきまであんなにかっこよかったのに…)
ソファーでいびきをかいて寝ている姿は、その辺の青年でしかなかった。
でも、心は爛々としてベッドに入った。
これから、こんな日々が続く。
希望に満ちた夜だった。




