第四十六話 「恋愛省分裂」
中央恋愛省。
特別会議室。
空気は、過去最悪だった。
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《Lスコア制度継続案》
《感情共鳴制度完全移行案》
巨大モニターに、二つの案が並んでいる。
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「ありえません!!」
保守派幹部が机を叩く。
「恋愛を感情任せにするなど社会崩壊です!」
別幹部も続く。
「管理を失えば少子化は再加速する!」
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だが。
改革派研究員が反論する。
「しかし現実に結果が出ています!」
《Eクラス方式導入地域》
《出生希望率上昇》
《恋愛不安指数低下》
数値は明確だった。
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「従来制度では、人々が恋愛そのものを恐れていた!」
静寂。
会議室が割れていた。
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一方。
神奈川県立統合学園。
Eクラス。
平和だった。
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「柴崎ぃぃぃ!!」
「なんだ!?」
「A組男子が魚触って泣いてる!!」
「弱ぇぇぇぇ!!」
漁業班大爆笑。
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一方。
A組側も必死だった。
「なんでEクラスは平然としてるんだ……」
「慣れだ」
朝霧が真顔で答える。
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農地では。
A組女子がぎこちなく苗を植えていた。
「これで合ってる?」
「もう少し浅い方がいい」
瀬名が優しく教える。
以前のA組ではありえない光景だった。
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「……なんか」
A組女子が小さく笑う。
「失敗しても怒られないの、不思議」
静かな空気。
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A組はずっと。
失敗=減点だった。
でもEクラスは違う。
失敗しても笑われるだけ。
しかも一緒に笑う。
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一ノ瀬雪乃は、その光景を静かに見ていた。
「……変わったね」
「A組か?」
「うん」
少し嬉しそうだった。
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その時。
監視ドローンが飛来。
《A組・Eクラス共同生活適応率上昇》
「だから実況するなぁぁぁ!!」
もはやいつもの流れ。
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一方。
中央恋愛省。
会議はさらに激化していた。
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「Eクラス方式は危険です!」
「人々が自由恋愛へ戻れば管理不能になります!」
保守派幹部が叫ぶ。
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その瞬間。
白鷺優斗が静かに立ち上がった。
空気が止まる。
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「……皆さん」
静かな声。
「恋愛とは、管理されるべきものなのでしょうか」
沈黙。
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「我々は長年、“正しい恋愛”を作ろうとしました」
モニターに映る。
旧Lスコア制度。
ランキング。
適性評価。
恋愛管理。
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「ですが結果はどうでした?」
白鷺は続ける。
「人々は恋愛を恐れ」
「失敗を恐れ」
「本音を隠した」
静かな空気。
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「しかしEクラスは違った」
映像切り替え。
泥だらけの畑。
焼きとうもろこし。
笑い合う生徒たち。
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「不器用でも」
「失敗しても」
「彼らは、ちゃんと誰かを好きになった」
その言葉は。
恋愛省そのものへの否定だった。
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「白鷺監察官!!」
保守派が叫ぶ。
「あなたは恋愛省を否定するのですか!?」
数秒沈黙。
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白鷺優斗は静かに答えた。
「いいえ」
窓の外を見る。
「“人間の感情”を肯定しているだけです」
会議室が静まり返る。
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一方。
Eクラス。
そんな国家分裂を知らず。
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「松永、焼きとうもろこし追加!」
「分かった」
「A組のやつら食いすぎだろ!」
今日も平和だった。
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夕方。
農地。
A組生徒とEクラス生徒が一緒に座っている。
笑い声。
夕焼け。
自然な空気。
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一ノ瀬が小さく笑う。
「……ねえ」
「なんだ」
「この学校」
夕陽を見る。
「最初は、恋愛を監視する場所だったのに」
静かな声。
「今は、恋愛を育てる場所になってる」
その瞬間。
《感情共鳴指数》
《全国同期率更新》
監視ドローンが光る。
「だから空気読めぇぇぇぇ!!」
もはや全校生徒がツッコんでいた。




