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6.お兄様方とお茶の会3

「大丈夫。フレディは私の守護神なんだから、私の最後までは生きることになっているもの。そしたら確実に私よりは長生きするでしょ」


「どうしてそんな生死に関わる発言が根拠に満ちているんだ」

「だって。これは初めから決まってることだもの」


「シェリーちゃんはすげぇばーさんまで到達するだろうから、フレディ君はすげぇじーさんになるまで生きなきゃならないわけか。あまりにも想像したくない未来ですな、それはそれは」


「いないと思って好きなこと言うのね、ジェラルドは。残念でした、フレディはいくつになっても素敵なままよ。これも決まっていることだもの」


「だってじーさんですよ。素敵にも限度はあるでしょう」


「言ったわね、そのまま返すわ。今は天下一のジェラルド様だって、年をとったらじーさんってことよ。同じ年で比べたなら、絶対っ! 私のお兄様の方が素敵だと思う。絶対」


「……私、早めにお暇するよう努力していきます」

「それは賢明だな」


 敗北を認めたジェラルドに、クリストファーはとどめを刺した。効果を満足そうに確認すると、私に笑いかけながら立ち上がり、


「お嬢様方と過ごしていると、時間も忘れてしまうね。確実に遅刻してしまった。ジェラルド、出よう。いいところを見損なっては意味がない」


「行きますかね。短い人生、これ楽しまないと」


 長い足を誇示するように使い、ジェラルドもソファから離れた。


 特に引き止めていたわけではないけれど、次の約束に遅刻させてしまうことは、ホステスとしてはどうなのかしら。

 後でマナーブックに助けを求めておかなくちゃ。


 クリストファーは私の頭に手を置いてかがみ込み、


「明日には戻るけれどね。おとなしくしていなさいよ」

「ご令嬢らしくですよ。リースちゃん、シェリーちゃん。言うまでもないことですけれど」


「私も言うまでもないことかもしれないけれど、あなたこそお立場に相応しくね、ジェラルド様」

「わお」


 高すぎる笑い声を響かせているから、ジェラルドが廊下を遠ざかって行くのがわかりやすい。クリストファーの声が合間に聞こえるけれどそれは、低くて言葉はわからないのと対象的だ。


 彼らはこれから、インドの木々に想像の泉を刺激され、湧きいずる水に流されるまま取った行動の結果、めでたくも軍を除隊となった気鋭の詩人を囲む、アカデミックな集まりに首を並べに行くそうだ。

私ももう少し大人なら、連れて行ってもらいたいものだけれど。


 扉が閉ざされてからほんの少しの間、シェリーはクリストファーたちの言いつけを守ることを覚えていたけれど、彼らの背中で玄関の扉が閉ざされた頃には、言われた言葉をすっかりと片付けてしまっていた。


 ティータイム担当だったフローラも用済みとなった二人のカップを下げるために姿を消し、テラスには私たち二人きりだ。


 シェリーは銀のナイフでクリームをスコーンに大量に塗り付けている。もはや主体がどちらなのかわからないくらいの有様だった。


「フレディが居てくれれば、何かはわかると思うのに」

「すぐに帰ってくるわ。もうあと二日でしょ?」


 フレディと『仲良くしている』私は部屋のカレンダーに彼の予定を書き込んでいた。それを頭に思い浮かべる。


 聞き出した計画で正確に言うと、あと一日と十一時間で、船は彼を乗せて、サウザンプトンに到着するはずだ。


 今回の旅は仕事上の書類の問題だと言っていた。

 それならば予定の変更などは起こりえないと考えていいだろうと希望的に思い込み、私は旅の残り時間を、いつでも細かく割り出し続けていた。


 もちろん帰ってきたその足でこのハウスを訪ねてくれるわけではないけれど、同じロンドンに居ると思えることは、気持ちを大きく盛り上げてくれる大切なワンポイントになるのだった。


「いないなら自分でなんとかするしかないのよ、リース。こんなことがおきているときにフレディがいないということ、これはすでに運命なんだから」


「避けられる運命なら避ければいいと思うわ」


 私の言葉はまるで家庭教師の小言のように軽く流されて、シェリーは不服そうに言葉を続けた。


「メアリーアンは知っているのよ。だけど話さないのは、話していいことなのかの判断をするのはフレディだと思っているからなのね。もう。一緒に暮らしているのは私なんだから、ちょっと歩み寄ってくれてもいいのに」


 それは、……理屈が通っているとは言えないだろう。


 メアリーアンアンの判断の中身を理解できるのなら、納得するべきところなのだと思うのだが、シェリーにかかるとそうは運んではいかないらしい。


「朝、ウォーレン先生のおうちに寄ってみたの。夫人に聞いたら、帰ってらっしゃる様子はないって。楽しそうな便りが届いている壮なの。そんなに山が好きなら、冬に行けばいいのに。夏山なんて本来の魅力は半減なんだから」

 

 けれどそれは、危険な場所なのではないだろうか。


「先生なら、絶対情報を漏らしてくれそうなのにな」

「そう、でしょうね」


 困ったことに。


 分類するなら、ウォーレン先生はクリストファー寄りの性質をしていた。物事を混迷に向かわせるのを喜ぶ類の。


 いらっしゃらなくてありがとう、と、私は心の中で万歳を叫ぶ。教授の存在一つで、物事はどうひっくり返されかき混ぜられるか、わかったものではない。


「フレディが戻るまでなんて待てない。もうカノンの部分一つの音だけでも聞こえたら、私は外に飛び出してしまう体になってしまったの。なにが隠されているのか、気になってたまらないー」


 言っていたこととずいぶんと違うではないか。さっきは私も騙されていた。と考え、――騙されていたのは私だけだったのかもしれないと思い直す。


 クリストファーもジェラルドも、物事の裏ばかり探す性質を持った人だから、あの時のシェリーの笑顔の奥の正解を、見抜いているという可能性は高い。


 そう考えると出かけのジェラルドの言葉にも深い意味が見えそうだ。クリストファーとは違い、あの人の場合、なんてことのないいつもの一言かもしれないけれど。


 私はコージーを外し、ポットを持ち上げて、シェリーのカップに注ぎ足した。


 ベルガモットの高い香りが、空気の中に満ちてゆく。シェリーのついた息で湯気がふわりと持ち上がった。

 思わず顔を見れば、複雑そうな表情だ。不満そうな、とも言える。


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