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4.お兄様方とお茶の会1

 お茶の用意が手落ちなく整い、各自がカップを持った時になっても、シェリーは眠そうなままでいる。

目には精気が薄く、肩は落ちて、覇気がない。


 時間担当の先生たちに次々に注意をされながらも、挫けることなくペースを崩さず、立派な度胸でほぼ眠っているような状態だった一日中。

 朝は大変元気な様子だったと記憶しているけれど、お昼前には力尽きたといった感じで、ここまで連れてくるのだって、私が手を引いて来なくてはならなかったほどにひどかった。


 こんな状態のお客様では、招いた私、エリザベス・ローダーディルとしてはやるせない気持ちが生まれて来るのを押さえ付けることが難しい。


 保護者たちの出発や本人の転居でばたばたしていたために、私のお茶に来てくれるのは久しぶりなのだから、濃い時間を過ごすことを期待してしまっていたのは当然のことだろう。


 眠りかけ姫を目覚めさせる魔法の言葉を握っていたのは、兄上・クリストファーのご友人(を名乗っていると足しても良いだろうか)、招いた覚えはないけれど椅子に座っている、ジェラルド・カーストンその人だった。


 本人にはもちろん、そんな自覚などはない。

 ジェラルドはいつも、どんな時でも相手の状態を意識して動かない種類の人間に育ってしまっているもので。


 ふざけた調子が、いつもの調子。客間を飛び越え、廊下を歩く人間にも聞こえるような大きな声で、その呪文は発せられた。


「ロミオのようでしたね? シェリーちゃん」


 聞くとシェリーの目がぱっちりと開き、もたれていたカウチの腕から、ばねのように体を起こした。

そしてさらには身など乗り出し、


「見ていたの? ジェラルド。どこで? いつ?」


 私と目が合ったクリストファーは、自分も私と同じように何も知らないことを身振りで示した。

遅ればせながら説明すると、茶会の出席メンバーは、この四人きりである。


 場所は、夏にふさわしく、我が家のテラスにて。陽射しの明るい、白い午後だった。


「昨日の夜のことですよ。あるいは今朝と言ってもいいかもかもしれませんが。お見かけいたしてしまいました。私の口から出るには倫理的に過ぎる言葉ですけど、感心しませんね、お嬢様。真夜中も過ぎた頃じゃないですか。うら若き乙女のうろつく時間じゃないでしょう」


「いつだなんて質問が出てくるということは、一日だけのことじゃないんだな。いったいどんな理由でどんな真似をしてるんだ? 屋根と言ったか? 聞き違いか? ジェラルド」


「いいえ、確かに屋根にでございますよ。クリス様」

「一日じゃないけれど、三日未満よ。これは立派な出発点を持っている、確かな行動なの」


「ということは、夢見患者ではないと。良かったねぇ」


「ちょっと待って、ジェラルド。そんなことを思っていたなら、どうしてすぐに屋根の上の私を保護しようとしなかったの? 落ちてしまうかもしれないのだから、危ないじゃない」


「そんなことは、もちろん今思いついたからでしょう」


 さらりと思慮の浅さを披露する。ジェラルドはとても楽しそうにぺらぺらと続けた。


「まずは幽霊かと思いましたからね、怖かったですよー、かなり。真夜中に白い服が風にひらひらしていたもんだから、御者もびっくり。正体がわからないままだったら、今頃新しい人間探しているところですね。私が降りて見上げてみれば、シェリーちゃんだってことで、あれは私の知り合いだから、生身の人間だって説き伏せて、無事出発させたんですが、また今思いつきました。シェリーちゃんがあの時点で死んでいたって可能性もあったわけだ」


「ジェラルドは幽霊容認主義ね。御者さんはそんなことはとっくに考えついていて、怯えているかも知れないわよ。私、よろしければお会いしましょうか? 生きてるんですって」


「あ、ほんと? そうしてもらえると助かるなー」


「シェリー」


 外れていく話を引き戻そうと、私はきっぱり言ってみた。


「そんなことよりも、どうしてそんな場所にいたのか、私たちに聞かせてちょうだい」


 ジェラルドの御者がどうなろうと、そんなことはどうでもいい。

 本人のためを思うなら、別の雇い主のもとで働いた方が、よほどいいのではないかとも思うことでもあるし。


 ジェラルドとの掛け合いで、シェリーはすっかりと目を覚まし、ぱっちり開いた目で私を見返した。

勢いづいて話し出す姿に、萎れていた花が水を浴びた様子を思い出す。


 そして花の語る言語のように、始まりの言葉は謎だった。


「あのね、私に『カノン』が聞こえてくるのよ」


 当然言葉としての意味はわかるけれども、その唐突さにわかったことも見失いそうになる。なに?


「『カノン』?」


 ほかにいうべきことを思いつかず、ただ繰り返すだけの私にうなずいて見せる、その顔がきらきらと輝き出した。


 まるで大発見の報告をする子供のよう、などと言ったならたっぷりと叱られるだろうけれど、どうしたって、今のシェリーはそんな風だ。


「今の私がお邪魔しているお部屋の窓はとても大きくてね、ベッドの真横だし、どうしても開けたくなっちゃう場所にあるんだけど、寝る前にそれを開いてみたら、なんとですね――」


 なんと――?

 シェリーはまさしく、嬉々として。


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