過去も未来も
――「こんにちは、クリス。今日は私、絶品を持ってきたの。ほんと絶品なんだから、びっくりしちゃうわよ。もう二度と作れない、こんなにおいしいプラムケーキ」
……騒がしいと思ったら、メアリーアン。明らかに眠っている人間に向かって話しかけてはいけないという教育は、あのお嬢様学校のカリキュラムには含まれていなかったらしい。
まだ頭が醒めていないのと、目の前の満面の笑顔のおかげで、そんなことを諭す気持ちは消滅してしまった。
「そりゃ今生の思い出にぜひ戴いとかないとな。メレディス、頼むよ」
「みっつに切ってね、メレディス。あなたの分よ、ぜひ食べてみて。今まででいちばん、おいしくできているはずよ」
「ありがとうございます。メアリー様」
「こちらのお屋敷の本日のスペシャルは何かしら?」
「りんごとキャラメルでムースを作りました」
「すてき。戴けるかしら」
「お見えになる頃だと思っていましたから」
ぼくと好みが似ているぼくの執事は、その絶品とやらを手に、お茶の準備へと去って行った。
成長したところで、ウサギな部分は変わりはしない。ぼくは今なら、あの時の叔父上の笑いの意味がわかりそうだった。ある意味で、ウサギも後悔するかもしれない、なんてことも考える。
お母様よりも強力な、溌剌としたお嬢様になってしまった。
本日はさくら草の色のドレス。髪はめったなことでは結い上げてはもらえないが、あの頃のように長く遊ばせることもない。
それでも光で生まれる金の髪は、そこらの金髪よりも美しい。幻的な思い入れがないとは言い切れないとしても。
「お父様から伝言ね。近いうちに訪ねるそうよ」
「もう少し遊ばせといて欲しいんだけどね」
「それがいつまで続くんだってことでしょ」
「壁の誰かに出会うまで」
メアリーアンのやわらかな微笑みを、ぼくは記憶の中の微笑みと重ね合わせる。
夢はこの世界に混在するのだ。いつもパラソルの向こう。そしてテーブルの向こうに。
「おいしい?」
「おっしゃる通り」
ぼくはまだ道に迷っているところだけれど、並んで歩く今はとても幸せだ。
いつか未来、きっと同じように思い出す。こうしてテーブルを挟んだ日々と、紅茶に吸い込まれた甘い時間。
振り返る。つながっている。あの夏のパラソルと。




