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3.夏を迎える ~朝


 太陽の送り出す光が、日に日に強い直線の力へと変化している。目指す夏へ光線の変化は、目に映るほどとなっていた。


 昨日よりは昨日よりはと着実に歩み進め、もう幾日も過ぎないうちに、夏神は到着なさるのだろう。


「フレディが戻ったら驚くわよね。たった一週間で、光が全然違うもの。春から夏へ。あっと言う間だわ」


 手をかざしながらも目を細め、シェリーが弾む声で言った。テーブルの反対側から、メアリーアンが応える。


「いつの夏だったかしら。クリストファーがイタリアで遊んでいる間にやって来たことがあったのよ。それでまた文句を言ってね、あ、そうだわ、あの人が自分の年を若く言うのを知っている?」


「いいえ」

「イギリス年齢ですって。変なことばかり考えているだけあって、変なことをを思いつくわ」


「それなら、私はまだ一歳にもならないわね」

「私もずいぶんと若くなるぞ」


「数えないで、ピーター」


 四日めの朝である。

 まるで何年もの間その暮らしを続けていたように、三人は朝食の席にそろって着いていた。


 眩しすぎる光を遮るために、東側の窓のカーテンは半ばまでしか開けることのできない食堂。

 テーブルにいけられた黄色い水仙が、真っ白なポットと引き立てあっている。六月には黄水仙、女王陛下の御花だ。今年も即位の記念日がやってくる。


 メアリーアンは暖炉の上の飾り時計に目を向けると、残っていたコーヒーを飲んで、立ち上がった。


「さて、時間だわ。それでは行って参ります」


 各国における自分の年齢を数えていたシェリーは、指を折るのをそこで止め、


「メアリーアン、お仕事忙しそうね。何かあったの? 特別なこと」


「新病院の落成式典の話では、シェリーは喜ばないでしょう? おもしろい話はピーターに聞いて。けれど、学校には遅れないようにね」


 ピーターは笑い、長い人生の中のフランス年齢を探るのを中断する。隠居の身に、楽しい仕事が舞い込んだものだ。


 扉へと向かいながらメアリーアンは、早口で続けた。


「危ないことはしないでね。先生のおっしゃることはちゃんと最後まで聞いてから、反論するのよ。自分の言葉を見失わないでね。陽射しが強いから帽子を忘れないでかぶって。それから帰りは、寄り道をしないで帰ること」


「はぁい」

「行ってきます」


 中を見たままで扉を閉じるのが、メアリーアンの癖だと言うことに気がついた。だから記憶に笑顔が残される。


 不思議に楽しい気持ちになった。

 ずっと子供の頃から、大好きなフレディの恋人を、自分は許さないだろうと予測していたのに、こんなに好きになってしまっているなんて。


 秘策の出番はないわね。

 想像の敵に向けて練り上げられた作戦の書付は、誰にも見られないうちに処分してしまわなくちゃ。


 くすくすと笑う自分をピーターが見ていることに気づき、処分を急ぐことをさらに堅く決意する。


 素敵な話をたくさん知っている素敵なおじいさまは、もし二人が結婚したなら、フレディにもおじいさまになり、自分には……何になるのかしら。


――わからないけれどとにかくも、親戚ということになり、今よりもっと親しくなれるに違いない。


「メアリーアンは結構うるさいお母さんになるわよね。そう思うでしょ? ピーター。今みたいによ」

「あぁ。あれは反復練習の成果といったところだろうね」


「自分が子供の頃に繰り返し言われたことを、言っているのね?」


 きっと同じ年の頃、私たちは似ていたのだわ。


 パンに埋まったクランベリーを摘み取り、口にと運ぶ。広がる甘酸っぱさが、横から流れてくるピーターのパイプの臭いと、良い加減に混ざり合った。


 太陽が向かい側の建物を越えて完全に顔を出し、強い光が食堂にあふれる。目を細め、シェリーは顔を綻ばせた。


 いっぱいに夏なのだ、季節は。


「私ね、今日は学校のあとリースにお茶に招かれているの。メアリーアンには昨日言っておいたはずだから、これは寄り道にはならないわよね」


 ピーターは大きな笑い声をあげ、勝利のごほうびにと、極めて興味深い特別な話を打ち明けてくれた。


 関係者全員が鬼籍に入るまでは秘密の物語や、彼らの生死に関わらず、未来永劫閉じ込められる真実を、ピーターはどれくらい隠しているだろう。


 一記者から作り上げた新聞社、その社主を引退してから五年が過ぎた。


 過去のことだけではなく今でも、たいていことは知っているピーター・シモンズ氏は、話に小気味良い反応を見せるこの小さな聞き手を、大変に気に入っていた。


 光の中の金の髪は、佳き夏の記憶を呼び起こす。高き太陽、どの夏も、その髪を相手に何もかもを語ったのだ。


 このままの生活が続いていってもいいではないか。図らずも彼は、孫娘と同じことを考えていた。


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