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ディドルディドル 月とバイオリン  作者: ゆらぎなぎ
4.クリスマスホリデー
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Holy Night


 クリスマスの休暇は、今年はロンドンで過ごすはずだった。真っ暗な部屋でろうそくを灯して聖夜を祝おうと、そう言ったはずだ。われらの伯爵様は、確かに!


 彼の気まぐれに離れているけれど、こんな予定変更は承服しがたい。なんと言ってもクリスマスには贈り物が必要で、私はそのつもりで着々と準備を進めて来ていたのに、当日に私がいないのでは、そんなのちっとも実行できない。


 誰が一番悪いのか系統だてて考えてみよう。


 まずは、当然クリスよね。私に命令したのはあの人なんだから。

 そして、お父様。気まぐれな思い付きを誘発させる原因を作ったのは、だってお父様だもの。寒くたっていいじゃない。冬なんだもの。いいのよ、私は寒いロンドンで充分。


 でもまず、あの話をあの席で口にしたジェラルド様も相当だわ。あれじゃ、行くわよ。あまりにも、クリスの好みにはまり過ぎているもの。

 あぁ、そうだわ。それを止めずにいるメレディスだって。


 ぶつぶつとそんなことを考えて、かなりの時間を費やしてしまった。無駄なことをしている。さっさと外にでも飛び出していたら、何かを見つけることができたかもしれないのに。何か。


 まぁ、きっと。見つからなかったとは思うけれど。


 深く息をついてみたけど、何が変わるわけもなく。私は大きな声で叫びたくなった。

 こうさーんっ、なんて。


 だけど降参なら、一月も前に完璧なのをしている。だから私は、取っておきのごまかし手段として、オーブンと共にがんばることを思い付き、この上ないほど絢爛なデザインを編み出し、莫大なる時間と予算をオーバーさせていたというのに。


 そんな野望も空しく、この寒空の下についえさるしかないのよね。


 私はとにかく努力は認めてもらうことにして、机の引き出しからノートを取り出した。


 悪あがきのような気もするけれど。人生最大の難関に、こんな風にしか立ち向かえなかった、私を伝えてどうする、という気もするけど。


 もう誰が悪いのでもなく自分が、といった気分になってきた。ふがいない、つまりは。それから不思議。どうしてこんなに深く、考え込んでしまったのか。


 ノートをしみじみとめくり、実現し損ねたプロジェクトに思いを馳せ、ずるずると出かけるのを引き延ばしていた私は、光を――


――光が差して、目が離せなくなった。

 

 頭に突き刺さったかと思うくらい、強い輝きだった。そう思った、私は。

 どうして。どうして今まで。


 私がばかげた策を弄している間もずっと、私の手元のこの引き出しに入っていて、私はそれを、忘れたことなんてなかったのに。


 とにかく。行くわよ、メアリーアン。


 さっきまでとは打って変わった光の世界で、私は考えられないほど軽やかに駆け出した。階段途中で引き返したのは、コートを着るのを忘れてエリオットに指摘されたため。


 エリオットとリズは、休暇をこの家で過ごす。だけど、もう羨ましくはない。私は。



「どうして君は雪がひどくなったと思うと行動するんだろう」


 フレディは暖炉の前の特等席を私のために空けながら、そんなことを言った。だけどそれは私のせいじゃない。私だって何もそんなことは、……好きなときもあるけれど。


「すぐに帰らなくてはならないから、その椅子はあなたが座ったままでいいの。あのね」

「コートを脱ぐ暇もない?」


「えぇ。ごめんなさい」


 だけどフレディは椅子から離れて、私の前にやってきた。ヘンドリックス夫人ご自慢のペルシャ絨毯を汚さないためには、そうするしかないと、私はそこで気がつく。


 危うく私はこれを投げなくてはならなくなっているところだった。私の指示通り、彼が座ったままだったなら。


「私、今日これからサセックスに行くことになったの。お友達の家なんだけど。それで、これはあなたに」


 フレディの不思議そうな顔を見て、自分がずいぶん説明を省いていることがわかった。足りない、ちっとも。えぇと。


「少し早いけど。メリークリスマス、フレディ」

「あぁ」


 あぁ?


「ありがとう」

「どういたしまして」


 きっと、あのすごいケーキを見ても、この人はそう言ったんだろうけど。

 私が、こんなに嬉しくはならなかったと思う。あれではだめだった。ぜんぜん違うわ。だって、今あなたの手にある箱の中には。


「それじゃあ、私もう行かなくちゃ。次に会うのは新年ね」

「そうなるね。送っていくよ、メアリーアン。コートを持ってくるから、少しここで待っていて」


「だいじょうぶよ。一人で来たのよ。一人で帰れるわ」

「いや、そうじゃなくて」


「どうしたの?」

「外に出たいんだ。僕が」



 雪の中を散歩する趣味は彼のものではなく、彼の妹君のはずだったと思ったけれど、彼はそう言ってコートをはおり、あの暖かな居間を出てきたのだった。


 私がお宅に到着した時よりも、かなり穏やかな降りになっている。これをもしかして、がっかりしたりしているのだったりして。初耳だけれど。


「この雪だと、旅も大変になるね」

「そうね。思いとどまって欲しいわ。いっそのこと」


「すこしは暖かいの?」

「えぇ、きっと。そんなに期待はしていないけれど」


「急だったね」

「そうなの。いい迷惑。だいたいうちの人間は勝手なのよね。いつでも思いつきだし」


 吐く息が凍りつきそうだった。真っ白いその向こうで、フレディはおかしそうに笑っている。私が家族の話をする時、だいたいそんな顔を見せている。

 私、よっぽどひどいことを言っているのかも。もしかしたら。


 もうすぐ家が見える、という角で、フレディは立ち止まった。考えるよりも前に、私も足を止める。それから初めに考えたのは、私たちがしゃべらなければ、とても静かだと言うこと。まるで海の底の国みたい。


「メアリーアン。約束して欲しいんだけど」

「なにを?」


「クリスマスの朝まで、決して開けないこと」


 何を言うのかと思うじゃない。

 かなり信用がないらしく、フレディは私の手の中に包みを落としたあとも、心配そうにそれを見ていた。もう。


「約束は守るわ。何があっても開けません」

「中身を知るために振ったりも」


「しないわ、そんなこと。楽しみはちゃんととっておくから、だいじょうぶです」


 ここでやっと肩の力を吹いてくれた。なんと言うのか、私って。いったい私をいくつだと思っているんだろう、この人は。


「じゃあ、気をつけて。滑るから」


 家まであと、ほんの十数歩の私を心配して、だけど彼は背中を向けた。


 私は、慣れていないことに少し戸惑い、いったいなんてことに慣れてしまったんだろう、と自分に驚いた。いつも。そう、彼はいつだって、私が扉を閉じるまで見ていてくれていた。


 あ。


「フレディ」


 立ち止まる。雪のカーテンの中で。

 声は届くけれど、姿は半分。私はさっきまで彼の手にあって、今は私の元にやってきた贈り物を包んでいる両手を大切に、忘れていた言葉を声にした。


「ありがとう」


 ほんのささやかな静寂をこの街に。フレディはもっとも相応しい、彼の忘れていた言葉を私へと。


「メリークリスマス」


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