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22.月夜にお散歩3

「二人揃って、出かけていたらしいね。どう見ても」


 悲しげに声は言う。対してシェリーはトーンも高く、


「わぁ、フレディ。一日早いわ、おかえりなさい!」

「遅かったみたいだね。ただいま戻りました」


「ずっと会いたかったけれど、二日前からどうしても会いたかったのよ」

「何かな、それは」


 とびつくシェリーを抱きとめて、その手にこもっていた力の強さに、眉をしかめる。本当に、会いたい理由があったのだ。

 吹き飛ばすように、メアリーアンアンが笑った。


「困るわ、フレディ。まだ話の辻褄を合わせていないのよ。本当のことを話さなくちゃならないわ」

「その話の組み立ては」


 表情を緩めてフレディは、シェリーの頭越しに手を差し出した。


「一日あれば足りた?」

「一月いただいても無理ね。おかえりなさい」


 いつもこの手のあたたかさに、自分の立つ場所を知る。何が起きたのだとしても、それほどのことではないのだと、フレディは単純にほっとしていた。


 腕の中にシェリーは居るし、メアリーアンは笑っている。

 夜間の外出は問答無用の許容範囲外だと思うのに、怒る気持ちが生まれてこないのは、空気があまりに穏やかに沈んでいるからかもしれない。


 黄色い大きな月のあたたかな光が、降り注ぎ積もり重なっていく夜。曲はそれを紡ぐように流れ、まるで目に見えそうな錯覚を抱かせる。


 奏者は何を思っているのか、不思議に感情の共有する心地があった。同じように、長い旅をゆったりとほぐしているように。再会に、心を緩めていくように。


「三人とも中に入りなさい。もう時間も遅い」

「はーい」


 ピーターの姿は見えず、家の中から声だけが聞こえた。夜に異質なシェリーの弾む声を、草木の緑が受け止める。


 木々を通した月の光に新たな絵を浮かび上がらせたタイルが、軽やかな音で靴を追いかける。フレディとメアリーアン、二人の足音は、ゆっくりと後に続いた。


 窓からの月明りとランプの灯りの間に見つけたピーターは、旅人を迎える洞窟の精のように思えた。

 落ち着いてきちんと見れば、見慣れたガウンと、手には煙をのぼらせる桜のパイプ。現代に生きる英国人に間違いはない。


 途端に、シェリーの海では、魚が飲んでいたものを吐き出した。

『なんのために生きてゆくのか?』

 助けることができるように、――誰かを。だから様々に想いを重ねて、誰もが生きてゆくのだと。

自ら想わずしては、誰の心も溶かせはしない。


「曲を変えたね」

「えぇ」


「技術的には拙いものだが」


 涼やかに闇を縫いながら、舞い上がるような三拍子。時折立ち止まり、戻って、また、踊り出す。月明かりのように、この街を包み込むような、眩しい気持ちで空の月を見上げるような。


「素晴らしい音だ。そうじゃないかね、シェリー」

「そうよ、ピーター。だってこれは、私たちの未来だわ」


 変化してゆく旋律を、耳にし誰かは気づくだろうか。踊る弓を操るその手に、世界が息を吹き返したこと。


 ウィリアム。その名に未来を持っている。




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