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19.月とバイオリン


 約束の念押しが届いても届かなくとも、信用の度合いに差異はない。


 追いかけようかと踏み出した足を元へと戻し、こみ上げてくるおかしな気持ちにシェリーは笑ってしまっていた。笑い続けていたなら、涙があふれそうな笑いだった。


 頬を包んだメアリーアンの手のあたたかさも、握ったリースの手のあたたかさも、感じることのできる自分が愛おしい。そんな思いが一人では抱えきれず、収拾がつかなくなってしまいそう。


 額に手を当て熱を感じ、どこからこんなに興奮していたのだろうと思う。

 初めからだと言えそうだ。初め……は、『カノン』が滑り出したあの時から。


 シェリーは、長い旅路の果てにやっとここに。そんな気持ちで、ウィリアムの前にまっすぐ立った。


「シェリーよ」


 にこりと笑いかけ、手を差し出す。私のこの手もあたたかいでしょう。まるで呪文のように、そんな言葉を頭に浮かべる。


「ウィルだ」


 手は重ねられ、あたたかかった。やっと、その名を自身から告げられた。

 魔法使いと一緒よ、ウィル。これであなたは私に秘密を握られたことになるの。


「未来ね。ウィル」


 もう一人でどこにも行かせないわ。


「そう、……かな」

「そうなのよ」


 自信にあふれ、シェリーは深く頷いた。そして、自信にあふれて聞こえていればいいけれど、と思っていた。


 清かな風に顔を上げれば、壊れた窓からは月が覗き込んでいる。


 シェリーの動きにつられたのか、見上げたウィルの顔は光に照らされ、瞳の色がやっと判った。ロージェブラウン。誰かの瞳に似ていると、目を覚ました記憶が囁いた。さわさわと揺らめき漂うように、誰かの姿が浮かんで消える。


 あたたかい土の色。大切な人だから憶えていたのよ。

 憶えていて、つなぎ合わせて、めぐり逢えたわ。ここで、ウィル、あなたに。



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