12.初外出が玉座の間
公爵の廃課金推し活により、思いがけず外出が可能になった私。
いよいよ外に!! と喜んでいた私に、ダリオンがとんでもないことを告げた。
「王城へ来て、ほしい」
「……王城、ですか?」
「ああ。父上と母上が、ぜひ直接会いたいと」
外出=お散歩、庭園、日向ぼっこ。
そんな想像をしていた私の脳内予定表は、見事に粉砕された。
王城。
国王。
王妃。
難易度、急上昇である。
「だ、大丈夫なの……? 私、マナーとか全然わからないんですけど……」
思わず弱気になる私に、ダリオンは穏やかに笑った。
「問題ない。王家も事情はすべて把握している」
「ほ、本当に……?」
「ああ。父上からも君の世界の礼儀作法で構わない、と言われている」
……それはそれで、逆にプレッシャーでは?
一応、社会人として目上の方への接し方は心得ているけど……王様への接し方なんてわからないんだけど!?
そんな不安を抱えていたって、断るわけにもいかず。
私は難易度が鬼となったはじめての外出へ赴くことになったのであります。
◇
王城は、想像以上に静かだった。
ダリオンから、可能な限り人払いをしているなんて言われていた通り、玉座の間の大きさには不釣り合いなぐらいには人数が少ない。
広い空間。
高い天井。
正面には、国王と王妃。
緊張で口から血が出そうになるのをグッと耐え、私は一歩前に出た後、深く頭を下げた。
とにかく思いつく限りの礼を尽くそう。
「お初にお目にかかります。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません」
震えそうになる声を抑えて、謝罪と感謝を伝えることにした。
「これまでのご配慮に、心より感謝いたします」
自分でもびっくりするくらい、ちゃんとしたことを言えたと思う。
「頭をあげなさい。……貴殿の苦労はすでに聞き及んでいる。礼を言うのはこちらの方だ」
顔を上げると、国王は悟りを開いたように穏やかな顔で微笑んでいた。
……なにか、私お礼を言われることしたっけ??
「……まずは、ヴァーミリオン公爵への“建前”を否定しなかったことへの感謝を述べさせてほしい」
――建前。
その言葉で、私は思い出した。
あ、そうだわ。
本物のコーデリアが神様になった経緯。
あれ、公爵には「美しさゆえに神に選ばれた」って説明されてたんだっけ……。
確かに、公爵との話し合いの場で私はその建前を否定しなかった。
「……あれは、一体」
思わず零した私の疑問に、国王は「う、うむ……」と歯切れ悪く言葉を濁した。
そうして、チラリと隣の王妃を見る国王。
その視線を受けた王妃が、仕方ないという表情で口を開いた。
「彼にすべてを伝えてしまうと……毎日神殿に通い詰めて、呪詛を唱えていそうだと私が進言したのよ」
「じゅ、呪詛」
「ええ」
さらりと頷く王妃。
「この世で一番に美しいと溺愛していた存在ですもの。それを“神のミスでした”なんて伝えてしまったら……」
一瞬言葉を切り、王妃はため息をついた。
「下手をすれば、命が枯れるまで神へ文句を言いかねないわ……」
……あぁ。
ものすごく、想像できてしまった。
今でこそ公爵は推し活に目覚めているけれど、元々は娘を心から愛していた人だ。
本当の経緯を聞いたらどんなことになるかは……彼の人となりを知る人からすれば、想像できてしまうだろう。
「だから口裏を合わせる前に公爵に会わせたと聞いた時は肝が冷えたわ。まったく。ダリオンときたら、誰に似たのか根回しが不得意なのだから」
こ、こわい。この王妃様、怖い。
視界の端で、気まずげにしているダリオンが目に入ってきた。
ダリオンと同じく、気まずげにしている国王がボソリと口を開く。
「……今は、神となったコーデリアのために毎日神殿に通い詰めているがね」
「え、毎日ですか!?」
「朝晩、欠かさずに祈りを捧げに通っているそうだ」
……まじかよ。
思わず口に出そうになって、慌てて飲み込む。
私のところに来て。
魔水晶を用意して。
領地仕事もあるだろうに。
「た、倒れてしまわれないと良いのですが……」
つい口にした私の言葉に、王妃の目がぱっと見開かれた。
「そこなの」
「そこ、と申しますと……?」
「なぜか以前よりも活力に満ち溢れているのよ。あれほど休みなく動いているというのに」
訳がわからないと言う表情の王妃。
「だから、あなたが彼に異世界の秘術でも教えたのかしらと思っていたのだけど」
その言葉に、思わず口から血を吹き出しそうになってしまった。
……すみません、多分それ、推し活で活力回復してます。オタクは推しがいると無限に動けるんです。
なんて言えるはずもなく、私は曖昧に笑って誤魔化す。
「ワタシ、ナニモ、シリマセン……」
さすがに、王家にまで推し活を布教する勇気は無い。
というか、万が一推し活にハマってしまったらどうするんだ。
国のトップが廃課金勢なんて嫌だ、嫌すぎる。
絶対に口を割らないぞ!!
そんな謎の使命感を固める私なのだった。
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