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第7話 鉱山の秘密

 暗がりから現れたのは小柄な覆面の男。例の暗殺者だ。どうしてここに?

 恐怖で息が止まりそうになるけれど、サルファ殿下は油断なくナイフを構えている。あちらも黒塗りのナイフをスッと構えた。

 後ろからは誰かの足音、まさか敵の増援かと思ったけど、殿下が鋭く言う。


「ラドラム、リモナを頼む」

「ウス」


 そうだった、ラドラムが近くにいたんだったわ!

 ラドラムが私の前に立ったのとほとんど同時に、サルファ殿下が覆面男に斬りかかった。

 金属がぶつかり合う小さな音が響く。


 …暗いのと速いのとで私の目じゃほとんど動きを追えていないけど、多分あの時と同じ。サルファ殿下は覆面男と互角に戦ってる。殿下って本当に強いんだわ。

 剣術の授業じゃ大して目立ってなくて、むしろ弱い方だったと思うけど、今は全然違う動きをしてる。使ってるのが授業で使う長剣じゃなく、ナイフだから?でも流派からしてまるで違うような…。

 ちらっとラドラムの顔を見上げると、真剣な表情はしているけど、焦っている様子はない。主人が負けるわけないと思ってるんだわ。


 やがて、私にもはっきり分かるくらいにサルファ殿下の形勢が有利になってきた。

 覆面男が焦ったような声を上げる。


「…王子が、どうしてこんな…!」


 覆面男の攻撃を、殿下は紙一重でかわした。すかさず反撃の刃が閃き、男の右腕を切り裂く。

 かなりの深手だ。勝負あった!

 思わず喜びかけた瞬間、男が何かを地面に投げつけた。ボムっという音とともに光が炸裂する。


「!!?」


 暗がりに目が慣れていたせいで、一瞬の光に視界を奪われてしまう。

 目眩ましだ。



 …何とか瞼を開いた時には、覆面男の姿は影も形も無くなっていた。


「…逃がしたか」


 呟いたサルファ殿下の横顔はぞっとするほど冷たくて、まるで知らない人みたいだった。

 思わず息を呑んだ私を、殿下が振り返る。


「り、リモナ、大丈夫?け、怪我はない?」

「だ…大丈夫よ。殿下は?」

「僕も、な、何とも無い」


 もう、いつもの殿下だ。その頼りない顔にひどくホッとする。


「は、早く逃げよう。お、追手が、来るかも」

「ウス」


 そう言えば、後ろの方が何だか騒がしい。トルマリン邸で何か起きてるみたいだ。

 誰かに見つかる前にと、私達は慌ててその場から走り去った。




 その後は、サルファ殿下の勧め通りにお城で一晩を過ごした。…と言ってもすっかり疲れ切っていたので、部屋に案内してもらった後はすぐに眠った。

 家の方にはワーベル第一王子殿下が「弟とお茶を飲んでいる最中に体調が悪くなってしまった。城の医術師の勧めに従いそのまま休んでもらったが、ご心配なく」と連絡を入れてくれたらしい。

 ついでに警備の兵も多めにつけてくれたので、サルファ殿下も徹夜などせずちゃんと睡眠を取る事にしたようだ。…何故か隣の部屋に入っていった事は気にしないでおく。


 翌朝早くに目を覚ました私は、お城の侍女たちにお世話してもらって身を清め、やたら高そうなドレスを着せてもらい、朝食に呼ばれた。

 何この扱い…。うちは貧乏男爵家で使用人も最少人数しかいないので、こんな何人もの侍女にあれこれ世話してもらった事なんてない。その侍女もまた、ものすごい上品な美人ばっかりだし。恐縮しっぱなし。

 案内された部屋にはサルファ殿下とラドラムの他に、ワーベル殿下とガレナ様もいた。ひぇっ…この面子で朝食…?


 恐れ多くて朝食なんて喉を通らないかと思ったけど、昨夜何も食べていなかった事もあってお腹は凄く空いていた。

 しかもふわふわのパンもオムレツも全部が美味しい…。さすがのお城クオリティ。絶対食べすぎるわこんなの。



「…それで、首尾はどうだったんだい?」


 人払いをした後、食後のお茶を飲みながらワーベル殿下が言った。

 第一王子殿下を巻き込んで良いのかという気もするけど、既にお世話になってしまっているし、従者のガレナ様の手も思いっきり借りちゃってる。今更気にしても仕方ない。

 開き直って相談するつもりで、昨夜トルマリン邸で聴いた会話について話す。


「…『鉱山の件』か。それがポリバス伯爵の弱み…」

「はい。相手のゲサイドという男は具体的な内容については話そうとしませんでしたが」

「私も特に心当たりはないな。鉱山については、だが」


 ワーベル殿下は少し考えるように言った。ちょっと引っかかる言い方だ。


「他に何か心当たりが?」

「ポリバス伯爵が新事業に手を出そうとして、大きな損失を出したっていう話は耳に挟んだ。確か一昨年のことだったかな」

「そうだなー。その後は大した話を聞かないし、それほど困ってる様子でもないから、領の財政に影響ない程度の損失だったんだろうなって思ってたけどさ」


 ワーベル殿下の話をガレナ様が補足してくれる。

 事業の失敗…そして鉱山。思いつくままに口を開く。


「…伯爵は、宝石鉱山からの収入があるから損失は補填できると思っていた。でもその鉱山に問題が発生したのなら、領の財政は…」

「うん、そうだね。一気に苦しくなる。…じゃあ、その問題ってなんだろうね?」


 にっこりと笑うワーベル殿下。もしかして私、試されてる…?

 うう、これ、ヒントは出したからちゃんと自分で考えろって事よね。無条件に協力してくれるほど甘くはないんだわ。

 鉱山で発生する問題と言えば…事故?ううん、採掘に影響が出るほどの大事故は隠せるものじゃない。あったらとっくに知れ渡っているはず。

 鉱脈が枯れそうだとか?でも宝石の出荷量が減ってるなんて聞かないし、隠した所でジリ貧になるだけ。脅迫材料としては弱い気がする。

 じゃあ逆に、何かまずいものが出てきた…?…あっ!


「遺跡!!」


 そう言った私に、ワーベル殿下が笑みを深める。もしかして正解?

 直後に、サルファ殿下が「あっ」と声を上げた。


「そ、そう言えば、前世で調べてたの、それかも…ぽ、ポリバス領で、遺跡をほ、掘り出したって噂…」

「ちょっと!何でもっと早く思い出さないのよ!!」

「ご、ごめ…」

「ははは」


 ワーベル殿下とガレナ様は笑っている。

 …二人ともサルファ殿下の前世発言には突っ込まないのね。信じてるのか流してるのかは知らないけど。


「私もそういう噂は耳にした。よくある噂だし信憑性はなかったから放っておいたけど、十分あり得る話だよ」


 発見した遺跡の隠蔽。これ、実は結構よくある話なのよね。

 この国の法律では、古代の遺物や遺跡を新たに発見した場合、国へと報告する義務がある。古代の貴重な文化や遺産を保護するためだ。

 報告するとすぐに王都から研究者や調査団が派遣されてくる訳だけど、そこで一つ問題が発生する。

 見つけたのが大きな工事をしようとしていた場所だとか鉱山なんかだった場合、当然それらの事業はストップされる。周辺は封鎖され、何年も…あるいは永遠に、工事や採掘を再開できない。一応補助金とか国から貰えるはずだけど、宝石の採掘から得られる収入に比べたら雀の涙だ。

 だから何か見つけても見なかったふりをして埋め戻し、知らん顔する例が後を絶たないんだと、前に本で読んだことがある。


「鉱山から遺跡が出てきてしまった。でもポリバス伯爵は事業失敗の損失を埋めるために、宝石の採掘を止めたくない。だから遺跡が出てきた事実を隠した。…ゲサイドはそれをどこかから嗅ぎつけ、アンドラスに教えた…」

「そのゲサイドって奴、気になるよなー。金が目当てなら直接ポリバス伯爵を脅せば良い訳じゃん?なんでアンドラスに教えたんだろ?」

「…あ、アンドラスに取り入って、裏から操るのが、目的…だと、思う」


 サルファ殿下が眉を寄せながら言った。


「り、リモナを狙ったのも、多分、そのため…。あ、アンドラスは、リモナを殺そうとまでは、思ってなかった」

「…修道院送りとか言ってたものね、あいつ」

「ぽ、ポリバス伯爵の件で、信用を得る。そ、それからリモナを殺して、アンドラスを共犯者に、する。…ざ、罪悪感を煽って、弱みを握る。そして、操る。そういう、やり方…」


 落ち着いてよく考えてみたら、私を暗殺までしようとするのはアンドラスらしくない。

 だってあいつ、口先ばかりの小心者だもの。そこまでする度胸なんかない。罪悪感があるかは知らないけど、『目障りだから修道院にでも入ってくれ』程度のつもりが殺してしまったとなれば、ビクビク怯えだすに決まってる。

 ゲサイドは『手段は色々ある』とか言ってた。きっと、殺してから『貴方様のお望み通りにいたしました』とか言ってアンドラスを脅すつもりだった…。


「トルマリン侯爵家の次期当主を意のままに操る…か。相当な野心がありそうだね、その男」

「……」


 ワーベル殿下が呟き、サルファ殿下は珍しく厳しい顔で黙り込んでいる。

 空気が重くなりかけたところで、ガレナ様が「まあ、でもさー」と言った。


「今はまず、リモナちゃんの事が先じゃん?暗殺者は撃退したって言っても、このままじゃまた襲われるかもしれないしさー」

「そうだね。ゲサイドについては私の方で調べておくから、お前たちはそちらの問題を解決しておいで。リモナ嬢が狙われる原因を取り除くんだ」


 そう言われ、私とサルファ殿下は顔を見合わせた。

 もし鉱山についての推測が合っているなら、話を聞くべき人がいる。


 …あっ、でも、その前に。


「あの、ガレナ様、申し訳ありません。エコネズくんの事…」

「あー、いーっていーって。いざって時はそうしろってサルファ殿下に言ったの、俺だしさー」

「う、うん、やっちゃった…ご、ごめん…」


 実はエコネズくんはひっそりと壮絶な最期を遂げていた。

 逃げ出した直後のボンって音は、サルファ殿下がコントローラーに思い切り大量の魔力を流し、エコネズくんを爆発させた音だったのだ。

 トルマリン邸が騒ぎになっていたのもこのせい。でも黒焦げの粉々になっただろうから、残骸を拾い集めても私達やガレナ様につながるような証拠は残ってないはず。


「爆死しちゃったのは残念だけど、久々に引っ張り出したおかげで新しいアイディアも浮かんだしね!…そうだ、良かったらさ、新作の開発に協力してよ。君みたいに魔力コントロール得意なタイプって、魔導具開発向いてるんだよねー!手伝ってくれると嬉しいなあ!」

「あっ、はい!それはもちろん、喜んで」


 私は笑顔でうなずいた。エコネズくんの操作は難しかったけど結構楽しかったし、魔導具開発にはちょっと興味ある。

 ガレナ様も「やったー、助手ゲットー!」とニコニコ喜んでいて、ただ、サルファ殿下は物凄く恨めしげな顔をしてガレナ様を見ていた。…なんでよ。

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