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プロンプトエンジニア老人

作者: 稀Jr.
掲載日:2025/10/05

俺がプロンプトエンジニアと呼ばれていたのは、既に50年ほど前のことだ。その頃は、AI が世の中に出たばかりで、キーボードで文字を打って AI に質問を投げかけていたのだ。一部ではお尻とかおおつむとか呼ばれていたもので音声入力するものもあったが、音声だけではうまくいかない場合があった。例えば、見出しの代わりに「#」という記号を使うのだが、「シャープ」と言えばいいか「ハッシュ」と言えばいいか曖昧だった。時には「井戸」という単語も使った者もいたが、そんなのは通じない。たまに「丼」と間違えるときもあって、ハッシュタグじゃなくて丼タグというのを使っているプロレスラーもいたぐらいだ。まあ、そんな昔のことはどうでもいいのだが、当時の音声入力の能力(それが AI 自身の能力だったか、機械の限界だったかは忘れてしまったが)では、うまくいかないのは確かだったのだ。だから、キーボードで「#」と打つのが早かった。「#」の隣には「井」があって「丼」があったので、ちょっとややこしいときもあったのだが、まあ、慣れればどうということはない。俺はプロンプトエンジニアだったので、「#」の違いぐらい楽だったのだ。素人連中はそうでもないらしく、あれこれと悩んでいたものでたまに「3」と打っていたぐらいだ。どうして「3」と「#」が間違えてしまうのだろうかと不思議に思う若者も多いだろうが、「#」と「ヰ」が似ていると同じように、「3」と「E」も似ているのだ。これも俺にとっては別に大丈夫だ。いまではキーボードがなくて、ちょっと困ることもあるけど、テレパシーがあればなんともない。首の後ろにジャックインしてしまえば、キーボードなんて必要ないのだ。ましてや指を更に指に分けて打つこともない。それはロートルのやることだ。

その昔、俺がプロンプトエンジニアだった頃には、コードというものを書いている職人がいた。プログラマと自称していたりエンジニアと言っていたりする者もいたのだが、ややこしいことはやめて欲しい。プロンプトエンジニアの俺と一般人が混乱するじゃないか。エンジニアってのはエンジンを作ったり、工場のロボットをメンテナンスをしたり、飛行機の整備をしたり、電気工事をやったりするのがエンジニアであって、コードをぽちぽちと打っている奴なんてエンジニアなわけがない。せいぜいコード書きってやつだろう。コードにはCとかF#ってのがある、いまの若いものは知らないだろうがDってのもあった。だから、AmとかG7とかCmaj7とか、そういうのをコードって言うんだ。インスタコードっていう、弦がなくて、じゃーんと鳴るコードってのもあったのだが、俺はまあFが抑えられなくてやめたな。指がひきつるのだ。だから、プログラマには向かないのだけど、AI にコードを作らせることはできた。それこそプロンプトエンジニアの真骨頂という訳だ。さっきの「#」のように、文章で AI に指示をするわけだ。要件定義をするとか設計をするとかあったのだが、ほら、最終的には、箇条書きでフローチャートってのが流行った。AI エージェントってのがあって、設計を書いたら夜中にコードをかき鳴らしてくれるのだ。一晩中だぞ。聞いていると頭が痛くなって近所迷惑になってしまうので、俺は寝ていたのだが、朝起きるとだな、コードが出来上がっているわけだ。俺はコードを納品するだけの「簡単な仕事」というのを SNS にツイートしたリポストしたりしていたわけだが、いやいや、その前段階のプロンプトってのが厄介なものなのだ。それこそ俺の仕事だからな。たとえば「送信ボタンを押したときに、データをサーバーに送る」と言う動作を AI に伝えようとすると、結構大変なのだ。送信とはなにか、データとは何か、サーバーとは何かを AI に伝えておかなければならない。データってのは、まあ、画面に入力した文字や画像だからな、AI は気分を読んでくれて、うまく忖度してくれるわけだが、送信ってのが厄介なのだ。送信するにしても、封筒で送るのか葉書で送るか、速達で送るのか、レターパックで送るのかという違いがあるだろう? いまだと、もうなんでもメールってのが使われている...いやメールも古いな、ジャックインで伝送されているわけだが、当時はアナログだったかアナクロだったかものを送信するので、選択肢が多かったわけだよ。選択肢が多いってことはいいことだよ。ドライクリーニングなのかお湯で洗うのか手洗いなのか、こうボタンひとつで操作できるものではなかったのだよ。そうだな、Amazon ボタンってのがあってだな、商品を注文するのにボタンを押すっていう不思議な機器があったんだけどあれはなんだったんだろうな。スマホでいいだろ、スマホで。ああ、送信だな、送信の話にもとに戻そう。そこで、サーバーってのが問題なんだよ。たしか、ブラックマターだかいうのがあって、マスターとサーバーってのが禁止されていた時代だったのだよ。AI にプロンプトに「サーバーにデータを送信して」とか言うとだな、AI は「利用禁止用語が入っています。プロンプトを入れ直してください」と言う訳だ。一般人には、なにが利用禁止用語なのかわからないから、そこでこそプロンプトエンジニアの出番というわけだ。俺だとピンとくるわけだ。俺じゃないと見逃しちゃうね。ってわけで、「サーバー」が禁止用語ってのがわかる。だから、AI に対してのプロンプトを書き変えて「レストランのフロアーにいる給仕係にデータを送信して」っていう言い方になるわけだ。そうすると、AI は「はい、かしこまりました」ってんで、レストランに電話をして予約を取って給仕係を呼びつけてくれるわけだよ。ときには床に落ちてしまったフォークとかを拾って貰うこともあるけど、まあ、それは AI に頼むよりは自分で拾うか、という感じなんだが、いや、給仕係ってのはもっと優秀だからな。ワインを選んでくれたり、デザートの説明をしてくれたりするのだ、何も言わないのにな。なんて便利な忖度だと思うだろう。そのたびに、紙きれをたくさんもっていくんだ。嬉しそうに。あの紙きれはなんだったんだろうな。いまだと、クレジットカードでピッってやるだけなのに。よくわからん。なんか顔とか書いてあったからプロマイドだったのかもしれないな。ファンだったんだろう。

そういうわけで、俺は50年経って、80歳になっても現役のプロンプトエンジニアなんだ。優秀だぞ。毎日プロンプトを編み出しては、AI を通して看護婦や医者を働かせている訳だ。ほれ、小水だの、ほれ血圧だのを、プロンプトを使って呼び出すだけなんだよ。たとえばだな、小水をとりたいときは「お花摘みに行きたいのだが、どこに行けばいいですか?」って聞くわけだよ。そうすると、看護婦が尿瓶を持ってきてくれるわけだ。なあ、すごいだろう。なんか、よくわからんが、ぼんやりするような薬も持ってきてくれるぞ。おれが、何かと暴れ出したいときに「ちょっと、○キを抑える薬はないかね、粉でもいいがな」とか言うと、さっと鎮静剤を持ってきて点滴にドバドバと入れて俺はぐっすりというわけださ。すごいだろう。AI に伝えるって言ったって、今はキーボードなんて使わない。ほら、ここのボタンを押してだな「ああ、あのー、アレなんですけど、すみませんが、あ、ええと」なんてことになれば、医者が飛んできてな、心臓マッサージと電気ショックでほら、気分もスッキリだ。元気になって昇天しそうになるぞ。ああ、いい世の中だ。


【没】


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