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自動販売機

作者: たぬ吉

「……ない」

 掲示板を何度確認しても自分の受験番号はなかった。思わずうなだれてしまう。

 周囲には同じく肩を落としている人もいれば、一緒に来たのだろう友人と喜びを分かち合っている人もいる。

 どうして彼らが合格で俺が不合格なのだろう。

 落ちたことへの絶望よりも、合格した人への嫉妬や悔しさが勝っていた。

「どうする、また来年挑戦するのか?」

 思ったことが自然と口から出ていた。周囲の目を気にする余裕なんてない。

「でも、もう3回目だぞ」

 ハッとした。3回って何だよ。笑えるな。

 成人式の日を浪人の身分で過ごした。式には参加していない。参加するのが怖かった。同い年の連中の、幸せな風景を見るのが怖かった。


 雪の降る帰り道、一台の自動販売機が目に入った。さきほどまではしんしんと降っていた雪が今では吹雪いてきている。

「寒いな、おい」

 意識してわざとらしくそう言うと、自販機まで急いだ。声を出すことで何かから解放される。そんな気がした。

 まずは暖まろう。ホットコーヒーを買って落ち着こう。

 120円を入れたが、購入可能のランプが反応しない。

 お金を飲まれたのかと思い自販機をよく見ると、学部の名前が書かれたラベルが張られた見本の缶が並べられていた。本来ならメーカー名が書かれているであろう部分には。自分が志望している大学名がプリントされている。

「あれ? 法学部もある。なんだこれ?」

 値段を見たら30万と書かれていた。

「まさか……」

 そうは思うも、この金額にリアリティを感じずにはいられない。

 そこからは藁にもすがる思いだった。お金はキャッシングですぐに用意できた。成人していたことがこんなにも嬉しかったことはない。

 すぐにその足で戻り、急いでお金を入れた。機械が一万円札を飲み込むスピードの遅さがじれったい。

 ようやく30枚入れるとついにランプが点灯した。震える手でボタンを押すと、聴きなれた音とともに取り出し口に缶が落ちてきた。

 その缶を持って大学の事務室へと向かう。

 これで俺も大学生だ。長かった。

 いつの間にか雪は止んでいた。


「何ですか? それ」

 事務室でそういわれたとき、人生で初めて頭が真っ白になった。そしてわかった。合格した彼らにはあって自分に足りなかったのはこれだったのだ。頭が真っ白になるまでの危機感。これだったんだ。

 だが、気づいたときにはもう遅い。俺の手元には30万円の缶コーヒーと借金だけが残った。

 何もかもが、もう遅い。

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