第7話『雨に濡れた午後、二人だけの放課後』
放課後の教室は、いつもより静かだった。
窓の外には灰色の雲、ぽつぽつと雨が落ちている。
「……まさか、傘、忘れたんだ」
俺はカバンの中をひっくり返して確認するも、やっぱり無い。
帰るタイミングを逃してしまい、教室で一人うだうだと時間を潰していた。
そこに、ふいにドアが開く音。
「光?」
振り向くと、そこには澪が立っていた。制服の上にパーカーを羽織っていて、髪が少し湿っている。
「あ、澪。まだ残ってたのか」
「……あんたこそ」
澪は近づいてきて、俺の隣の席に座る。
「……傘、ないんでしょ。私も」
「お互い、マヌケだな」
「……うん」
一瞬の沈黙。
雨音だけが教室を支配する。
「ね、光」
「ん?」
「……昨日のこと。まだ答え、出てないのは分かってる。でも、あたし──」
そのときだった。
「ちょっと、いいかな?」
ドアの方から、また別の声が響いた。
──相原綾音。生徒会副会長。無表情でクールな優等生。
「……また会ったね。今度は“邪魔してごめん”とは言わないけど」
「綾音……?」
彼女は澪に視線を送った後、俺に近づく。
「昨日、送ったメッセージ、ちゃんと読んだ?」
「……ああ」
「なら、聞かせて。“優しさ”って何だと思う?」
突然の問いに、言葉が詰まる。
「……人を傷つけないこと、かな」
「違う。優しさって、“誰か一人のために、他のすべてに背を向けること”よ」
澪が小さく息を飲んだ。
「……それって、ひどいよ」
「でも、事実。中途半端な優しさは誰も救えない。……私も、あんたに期待してた。だけど、今はもう、その期待をやめようと思う」
綾音はそう言い残すと、踵を返して教室を出て行った。
残された俺と澪。
何も言えない時間が流れる。
やがて澪が立ち上がった。
「……私、先に帰るね。雨、止んでないけど、走ればなんとかなるし」
「……澪、待って」
無意識にその手を掴んでいた。
「……光?」
「俺、ずっと“誰も傷つけたくない”って思ってた。けど、それって“誰のこともちゃんと見てない”ってことだったんだよな」
「……」
「咲にも、澪にも、綾音にも……中途半端だった。でも、それじゃダメなんだって思った」
「……じゃあ、私に答えて。私じゃ、ダメなの?」
その問いに、俺は目を逸らさなかった。
「ダメじゃない。……ただ、ちゃんと“好き”って言えるほど、自信がなかった。だけど……」
俺は澪の手を、そっと握った。
「今は──もう少しだけ、そばにいてもいいか?」
澪の目に、涙が浮かんでいた。でも、それは悲しみじゃなくて──
「……うん。バカ光のくせに、たまにはちゃんとするじゃん」
その言葉に、俺の胸は少しだけ軽くなった。
---
廊下の奥。
綾音は、静かにその光景を見届けていた。
「……やっぱり、キミって残酷だわ」
呟いたその瞳の奥に、複雑な感情が揺れていた。
---
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。