第6話『交差する視線、すれ違う鼓動』
日曜日。
天気は快晴。風は少し涼しくて、絶好のデート日和だった。
「光くん、こっちこっち!」
待ち合わせ場所の駅前広場に、咲の姿があった。
制服姿じゃない私服の咲は、見慣れない新鮮さを放っていた。白のブラウスに、淡いチェックのスカート。どこか大人びて見えて、思わず視線が釘付けになった。
「……咲、めっちゃ似合ってる」
「えっ、うそ、ほんとに……? あ、ありがと……!」
咲は頬を赤くしながら、スマホをぎゅっと握りしめていた。
(俺、こんな風に女の子を褒めたことあったっけ……?)
「ね、今日はね、水族館行きたいなって思ってたの」
「水族館か……いいね」
「ふふ、よかった。水族館ってね、好きな人と行くと恋が実るって噂、あるんだよ」
「へえ、そうなんだ。……え?」
「なーんて、迷信だけどねっ!」
咲は明るく笑いながら俺の腕をちょこんと掴む。
(ドキッとする。けど、これが普通の反応なのか、特別なのか、わからない……)
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水族館。
クラゲの光る幻想的な展示や、イルカショー、ペンギンの散歩。
咲はずっと楽しそうだった。
「光くんって、ほんとに生き物の説明読むの好きだよね~」
「え、いや、こういうの面白くない?」
「うん、そういうとこ、変わってなくて安心する」
そんな言葉の一つ一つが、心に染みていく。
どこか懐かしくて、心地いい。
(でも──)
帰り道、咲がぽつりとつぶやいた。
「ねえ、光くん。澪ちゃんとは、最近どうなの?」
「え? 別に、普通だけど……」
「そっか。……よかった」
「……よかった?」
「ううん、なんでもない。でも、私ね。負ける気しないよ。光くんが私のこと見てくれてるって、ちょっとだけ信じてるから」
その目は真っ直ぐだった。笑っているのに、真剣だった。
俺は何も返せず、ただ黙って頷くしかなかった。
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そして次の日、月曜日。
教室に入った瞬間、澪が俺の袖を引っ張った。
「……ちょっと、屋上まで付き合って」
「え? なんかあった?」
「いいから」
屋上は風が強くて、でも誰もいなかった。
「……昨日、咲ちゃんとデートだったんでしょ?」
「……えっ?」
「偶然、駅前で見ちゃった。楽しそうに話してる二人」
「……そうなんだ」
「……ずるいよ」
「え……」
「私だって、ずっと、光の隣にいたのに。いつも笑って、いつもバカやって、でも……何年経っても“好き”って言えなかった。なのに、咲ちゃんは……」
その瞳が潤んでいた。
「私じゃ、ダメなの……?」
その言葉は、心の奥に鋭く刺さった。
「澪……」
「答え、今じゃなくていい。でも……お願い。逃げないで」
そう言って、澪は俺に背を向けた。
揺れる髪越しに見えたのは、涙だったのかもしれない。
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その夜。
スマホに一件のメッセージが届いた。
送り主は、相原綾音──生徒会副会長。
> 「見せてもらったよ、キミの“優しさ”ってやつ。
でも──それが一番、人を傷つけるんだってこと、そろそろ気づいたら?」
胸の奥が、ひどく重くなる。
(俺は……誰を、好きなんだ? 誰も選べないまま、誰かを傷つけてるだけなんじゃ……)
そんな迷いを吹き飛ばすように、スマホがもう一度震えた。
送り主は──咲。
> 「光くん、楽しかった! ……また、行こうね。次は、もっと“特別な日”に」
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「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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