第3話『幼なじみは、知らないふりをやめた。』
次の日の朝。
俺──桐島光は、いつも通り、少しだけボサついた髪を直しながら登校していた。
咲と一緒にいると、何かと目立ってしまう。
──それが恥ずかしい、というより……うまく受け止められない自分がいた。
昨日、咲が言った「本気だから」って言葉。
俺の中で、まだずっと引っかかっている。
(でも……本気って、どういう意味なんだろう)
そんなことを考えていたら──
「おーい、光ー!」
後ろから、元気な声が聞こえて振り返ると、そこには**桜井 澪**がいた。
「おはよ、寝癖直った?」
「……おはよう。いや、直ってなかった?」
「んー、微妙。はい、貸して」
と、当然のように俺の前髪を手ぐしで整えてくる。
──そう、澪は俺の幼なじみで、よくこうやって世話を焼いてくる。
明るくて、気さくで、昔から隣にいる存在だった。
「……昨日、帰りに天野さんと一緒だったよね?」
「え、ああ、まぁ……」
「ふぅん?」
──その「ふぅん」が、なんか鋭い。
「咲ちゃんってさ、ちょっと変わってるけど、可愛いよね」
「うん、まぁ……」
「……で、どうなの? 気になってる?」
「な、なんでそうなるんだよ!」
「うん、鈍感」
「なんだよその決めつけ……!」
澪は、まるで何かを試すような目で俺を見る。
「光さ、昔からそういうとこあるよね。誰かが“好き”って言っても、ずっと気づかない」
「……誰かって?」
「さあね」
澪は笑ったけど、その笑顔はどこか不自然だった。
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昼休み。
案の定、咲が隣に座ってきた。
「お昼、また一緒に食べてもいい?」
「……いいけど」
「ありがと♡ ……あ、今日は自分で作ったんだよ、お弁当」
咲が広げた弁当は、彩りもよくて、けっこう凝ってる。
「すごいな……。俺、あんまり料理とかできないし」
「じゃあ、教えてあげよっか? うち、母子家庭だからちょっと慣れてるの」
咲が話すそのトーンは、どこか柔らかかった。
「……それって、大変じゃない?」
「ううん。慣れたよ。でも──」
一瞬だけ、咲の表情が曇った。
「……“当たり前”がないとき、誰かがそばにいてくれるだけで、嬉しかったんだよね」
「……そっか」
「だからね、光くんが隣に座っててくれるだけで、私はちょっと救われてるの。……変かな?」
「……変じゃない」
そう言った俺の声は、少しだけ震えていた。
咲が思ってるより、俺も“誰かのそばにいる安心”を知っていたから。
咲はその返事に、安心したように笑った。
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放課後。
今日こそこっそり帰ろうとしたら、今度は澪が昇降口で待っていた。
「……ねぇ、ちょっと話そうよ」
「え?」
「いいから」
澪に腕を引かれ、人気のない校舎裏に連れていかれる。
「な、なんだよ急に……」
「咲ちゃんのこと、どう思ってるの?」
「……いきなり何言ってんだよ」
「言わなきゃ、私、わかんないままだから」
その目は真剣だった。
俺は一瞬、答えに詰まる。
「……わからない。俺、そういうの、よく……」
「うん、知ってる」
「でも、なんで……そんなこと聞くんだよ」
「だって、私も……光の隣にいたかったからだよ」
「……え?」
「ずっと隣にいたのに。ずっと“好き”だったのに……気づいてくれなかったじゃん」
その言葉は、まっすぐ胸に突き刺さった。
「でも、咲ちゃんに光を取られたくないって思っちゃった。だから……ずるいよね、私」
澪の目に、うっすら涙が浮かんでいた。
俺は、ただ立ち尽くすしかなかった。
(なんで……俺、こんなに何もわからなかったんだ)
---
そしてその日の夜。
家に帰って、一人になっても、澪の言葉がずっと頭から離れなかった。
咲の「本気」と──
澪の「ずっと好きだった」。
どちらも、俺の中に何かを残していった。
──俺は今まで、誰かの“気持ち”をちゃんと見たことがあったのか。
わからない。
でも、きっと俺は──
何かを見落としてきた。
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