第2話『意識しないフリって、難しい。』
翌日。
俺は朝から少しだけ、いや、だいぶ妙な気持ちだった。
──なんで俺、髪ちゃんと整えてんだろう。
──いつもより制服のシワとか気にしてんだろう。
……全部、昨日のせいだ。
天野 咲。
あの転校生で、俺の隣の席の女子。
昨日、一緒に帰っただけで、なんか……ペースを狂わされた。
「おはよう、光くん」
咲は今日も当然のように、俺の隣に座る。
香水とかはつけてないのに、ふわっと甘い匂いがした。
なんなんだこの感覚。なんか、気になる。いや、気になっちゃいけない。
「おはよう……」
「今日はちゃんと髪、整えてるね。ふふっ、かわいい」
「なっ……!」
周囲のクラスメイトが一瞬ざわついた気がした。
咲は悪びれもせず、俺の顔を覗き込むようにニヤリと笑う。
「か、からかうなよ……!」
「えー? からかってないよ。本音」
本音って……何の? なんでそんな堂々と見つめてくるんだよ。
こういうの、ドキッとするからやめてほしい。
──でも、それを言える度胸もなくて、俺はただ顔を背けた。
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授業中。
数学の時間。
咲は隣でノートをとるのもそこそこに、こっちをちょこちょこ見てくる。
「なに?」
「ねぇ、光くんってさ。初恋はいつ?」
──ええっ、授業中にその質問!?
「な、ないけど……!」
「ふーん。じゃあ、今が初恋だったりする?」
「は!? な、何言って──」
「うそうそ。焦ってるの、かわいくて」
またそれだ。かわいいって、冗談だろ?
でも、俺はもう完全に意識してしまっていて、いつものペースが保てない。
その時、先生の声が響く。
「桐島、天野。授業中だぞ。静かにしなさい」
「あ、すみません♡」
──俺は何もしてねぇよ。
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昼休み。
今日もまた、咲は俺の弁当に興味津々だった。
「それ、卵焼き入ってるじゃん。味見させて?」
「えっ、いや、自分で作ったもんじゃないし……」
「じゃあちょうどいい。公平に、もらう!」
咲は俺の反応を待たず、卵焼きを一つ箸で取って、ぱくり。
「ん〜、甘い系だ。私、甘いの好き」
「……だからって人の弁当勝手に──」
「お返しに、私のもあげる!」
「いや、いいって、そんな──」
「はい、あーん」
えっ……?
その一言に、俺の動きが止まる。
周囲の視線が突き刺さる。
咲は、何のためらいもなく、俺の口元に自分の唐揚げを差し出していた。
「……」
「どうぞ♡」
……もう、逃げられない。
「……あ、ありがとう」
俺は、言われるままに口を開いた。
唐揚げはジューシーで、ちょっと甘くて、咲の匂いがして──
いや、なに考えてんだ俺は!
「おいしかった?」
「……うん」
「じゃあ、あーん、また明日もやってあげよっか?」
「いや、もうやめよう!恥ずかしいから!」
「なんで? 私、好きなんだけどな。光くんと話してるの」
その言葉に、胸がぎゅっとなった。
……でも俺は、なぜかその意味を真っ直ぐ受け取れなくて。
「あ、ああ……俺もまぁ、嫌ではないかな、みたいな」
「へぇ〜、それって好意? 無意識なやつ?」
「ちが──っていうか、そんなつもりは……!」
「ふふふ。かわい〜」
またそれだ。
かわいいって、なんなんだ。
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放課後。
帰りの時間。
俺はこっそり教室を出て、咲に捕まらないように廊下を早歩きで進む。
なんか……今日はさすがに、恥ずかしすぎて限界だ。
でも、後ろから足音が──そして肩をトンッと叩かれた。
「逃げたでしょ、今」
咲が、ちょっとだけ怒った顔で立っていた。
「いや、その……なんとなく」
「……私、なんか嫌われることした?」
「えっ、いやいや、そういうんじゃなくて!」
「じゃあ、なんで逃げるの?」
「……」
「ねぇ、光くん」
咲が、少しだけ声を落とす。
「からかってるわけじゃ、ないよ? 本気だから、私」
その言葉に、俺の足が止まる。
頭が真っ白になって、うまく言葉が出てこない。
「……本気って、何のこと?」
「……秘密。今はまだ」
そう言って咲は、小さく笑った。
その笑顔が、ほんの少しだけ寂しそうで──
俺は、少しだけ罪悪感を覚えた。
でもやっぱり、俺にはその意味が、まだよくわからなかった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
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