第18話『すれ違いと、花言葉』
次の日の昼休み。
教室では、咲が俺の隣の席で弁当を広げていた。
彼女の笑顔は柔らかくて、どこか安心する。
けれど──俺の心は、どこか引っかかっていた。
(……昨日の澪の顔、見間違いじゃないよな)
咲と手をつないでいたあの瞬間、澪は何も言わずに去っていった。
もしかして、傷つけてしまったのかもしれない。
でも、俺が何を言えるんだろうか。
「……光くん、聞いてる?」
「え? あ、ごめん!」
咲が不安そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「今日、ちょっと変だよ? 何かあった?」
「いや、別に。ちょっと考えごとしてただけ」
咲はそれ以上何も言わず、少し寂しそうに目を伏せた。
その沈黙が、逆に胸に刺さった。
*
放課後。
下駄箱で靴を履いていると、後ろから声をかけられた。
「光くん……少し、いい?」
澪だった。制服のリボンを結び直しながら、静かな目でこちらを見ている。
「うん、いいよ。どこか行く?」
「屋上、空いてると思う」
屋上は、今日も静かだった。
夕陽が差し込む中で、澪はぽつりとつぶやいた。
「咲ちゃんと、手……つないでたんだね」
俺は、少しだけうなずいた。
「……ごめん、見られてたのは気づいてた」
「謝らないで。謝ってほしくて呼んだんじゃない」
澪は笑った。でも、その笑顔はどこか作られたもののようだった。
「私ね、花言葉ってけっこう信じちゃうタイプなんだ」
「花言葉?」
「うん。今日、帰りにお花屋さんで“アネモネ”見つけたの。“アネモネの赤”って、“君を愛す”って意味なんだって」
「……」
「でも、“アネモネの白”には“見捨てられた”って意味もあるの。……複雑だよね、同じ花なのに」
その言葉に、俺は何も返せなかった。
「光くんにとって、私は……“赤”だった? それとも“白”?」
沈黙。
「──私は、もう期待しない。期待しなければ、傷つかないって思えるから」
澪はそう言って、そっと背を向けた。
「でもね、光くん。咲ちゃんのこと、ほんとに大事にしてあげて。咲ちゃんは、誰かの“赤”でいたい子だから」
そして、屋上の扉を開けて去っていった。
その背中を、俺は引き止めることができなかった。
*
帰り道、咲と並んで歩く。
けれど、咲の表情もどこか浮かない。
「……澪ちゃんと、話してたよね」
「見てたのか」
「うん。偶然、階段の陰から……」
咲は言葉を選びながら続けた。
「ねえ、光くん。私、ちゃんと“選ばれてる”って、思っていいのかな」
心臓がどくん、と鳴った。
「もちろんだよ。俺は……咲が好きだ」
だけど、咲は微笑むだけだった。
その笑顔の裏にあるものを、俺はまだ──知らなかった。
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