第12話『文化祭、すれ違う心と届く想い』
校舎全体がにぎやかな喧騒に包まれていた。
色とりどりの装飾、焼きそばや綿菓子の香り、笑い声が校内に響き渡っている。
「──よし、接客交代! 次、光くん!」
咲が軽やかに俺の背中を押した。
彼女のクラスはメイド喫茶で、制服も完璧に似合っていた。
正直、目のやり場に困る。
「おかえりなさいませ、ご主人様♪」
「……っ、まじかよ」
「ふふっ、冗談だって。ほら、さっさと制服着て!」
彼女の無邪気な笑顔に押され、俺は渋々、男子用の執事服に袖を通した。
……似合ってるかどうかは知らないけど、咲はなぜかずっと笑顔で見ていた。
「やっぱ、光くんにはこれが似合うと思ってたんだ」
その言葉が、なんとなく胸の奥に残った。
*
昼を過ぎたころ、澪がひょっこり教室に顔を出した。
「……あっ」
「澪! 来てくれたんだ!」
「う、うん……。光くん、これ……差し入れ。手作りのクッキー……その……よかったら」
「ありがとう。あとで食べるよ」
澪の顔は少し赤くて、それでも嬉しそうに笑っていた。
だがその横顔を見た咲が、何かに気づいたように目を伏せた。
「……うん。やっぱり、澪ちゃんはすごいな」
「え? 咲……?」
「ううん、なんでもない! じゃ、私はちょっと外回ってくるね!」
咲はぱたぱたと逃げるように教室を出ていった。
俺は、その背中を追いかけられなかった。
*
文化祭の終盤。体育館ではステージ発表が始まっていた。
その裏手、照明ブースでひとり作業をしていたのは──綾音先輩だった。
「先輩。手伝いに来ました」
「……ふふ、来ないかと思ってたわ」
先輩はいつものように飄々としていたが、目の奥はどこか遠くを見ていた。
「光。私は、もう期待しないことにしたの。恋も、後輩に何かを求めるのも」
「……」
「でもね、今日のあんたを見てて思った。やっぱり私、あんたのことが──」
そのとき、ステージで大きな歓声が上がった。
先輩の言葉が、歓声にかき消された。
「え?」
「……なんでもないわ。行きなさい、あんたの居場所は、もうこっちじゃない」
そう言って、先輩はそっと俺の背中を押した。
──先輩は気づいていたんだ。俺の迷いも、優しさという名の逃げも。
*
夕方、文化祭が終わりに近づいた頃。
裏庭で、咲がぽつんと座っていた。
「……探したよ」
「……ごめん、勝手に抜け出して。なんか、光くんのこと見てたら、自分がわからなくなって」
「咲……」
「……ねえ、光くんは、誰が好きなの?」
その問いに、言葉が詰まった。
「……まだ、答えは出てない。でも……」
「でも?」
「……今日、咲と一緒にいた時間が、一番自然だった。落ち着いたし、楽しかった」
咲は驚いたように目を見開いて、やがて笑った。
「それ、告白じゃないよ?」
「……うん。でも、前よりちゃんと考えるようになった。だから、待っててくれるか?」
「……いいよ。でも、その間に他の子に取られても、知らないからね?」
咲は明るく笑った。その笑顔に、少しだけ強さが宿っていた。
そして、ようやく心の中の霧が、少しずつ晴れていくのを感じた。
「面白かった!」
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