第11話『揺れる心、選ぶということ』
「おい光、最近元気ないな。寝不足か?」
「え? ああ、うん……まあ、ちょっとな」
教室での昼休み、悠斗が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。俺は愛想笑いを浮かべるしかなかった。正直、寝れてない。澪、咲、そして綾音先輩のことが、頭から離れない。
――あの日、俺は誰にも答えを返せなかった。
だからきっと、みんな少しずつ距離を取っている。
「光、文化祭の実行委員、綾音先輩と組むことになったらしいぞ。大丈夫か?」
「……えっ?」
*
放課後、実行委員の初回顔合わせ。
「……あら、相変わらず鈍感そうな顔ね」
綾音先輩はいつもの調子だったけど、どこか目を合わせてくれなかった。
「よろしくな、光!」
「……うん。頑張ろうな」
文化祭まであと二週間。クラス展示の調整、タイムテーブルの調整、全校放送の原稿作成。先輩とふたりきりになる時間が、自然と増えていく。
綾音先輩は、仕事になると完璧で、頼れるし、細かいところまでよく見てる。だけど、ふとした瞬間に、少しだけ寂しそうな横顔を見せる。
俺は、そこから目が離せなかった。
*
帰り道、先輩とふたりで歩く。
雨上がりの風が涼しくて、先輩の髪が揺れた。
「……どうして、黙ってるの?」
「え?」
「私、あの日泣いたわよ。自分でもびっくりするくらい、情けなくて……でも、バカなあんたが一番、何も言わなかった」
「……」
「優しさって、時に人を傷つけるのよ、光。何も言わないって、何も感じてないってことじゃない。私は……私は……!」
言いかけた言葉は、風に流された。
「……ごめんなさい。忘れて」
先輩は小さく笑って、先に歩き出した。
俺の胸は、ずっともやもやしていた。
*
文化祭準備が本格化する中、俺はようやく気づき始めていた。
咲の真っ直ぐな「好き」も、
澪の奥に秘めた「好き」も、
そして、綾音先輩の強がりな「好き」も、
全部、本気だった。
でも、俺はまだ──誰の想いにも、正面から向き合えていなかった。
*
「光くん!」
振り向くと、そこにいたのは──澪だった。
手には、何か小さな箱。
「これ……文化祭のチケット。私たちのクラスの喫茶店、来てほしくて」
「うん……ありがとう」
「……答え、まだ出てないんだよね?」
「……ごめん」
「いいの。……でも、逃げないで。光が誰かをちゃんと好きになるまで、私は待つ」
彼女の笑顔は、泣きそうなくらい綺麗だった。
*
そして、文化祭当日。
「光くん、出番だよー!」
咲の明るい声が、スピーカー越しに響いた。
咲、澪、綾音──
3人の想いに、俺はどう向き合えばいいのか。
でも今は、まず自分の「気持ち」を探さなきゃいけない。
逃げずに。誤魔化さずに。
「……俺は、ちゃんと向き合うよ」
心の中で、そう強く誓った。
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