第10話『雨の日の約束、三人の選択』
「……本当に、バカね。あんたって」
綾音の涙を見たあの放課後から、俺の頭はずっとぐるぐるしていた。
咲の告白。
澪の沈黙。
綾音の涙。
それぞれの「好き」が、俺にのしかかってきて、でも、俺には答えが出せなかった。
*
その日の放課後。
雨が降り出した。
校舎裏の、誰も来ない場所。
そこにいたのは、澪だった。
傘も差さず、制服が濡れていくのを気にせず、ただ空を見上げていた。
「……風邪、ひくぞ」
俺が声をかけると、澪はゆっくりこっちを見て、微笑んだ。
「……光はさ、どうして誰かを選ばないの?」
「……それは……」
「優しすぎるんだよ。全員を傷つけたくなくて、誰にも触れない。でも、それが一番、残酷なの」
雨音の中で、澪の声はやけにハッキリと届いた。
「……私はね、ずっとあんたの隣にいたんだよ?」
「うん」
「咲ちゃんが可愛くて、綾音先輩が完璧で……私なんか、影にしか見えなかったかもしれない。でもね」
澪は一歩、俺に近づいた。
「それでも私は、光が笑ってくれるのが嬉しくて……同じ景色を見てるだけで良かったのに……」
「……澪……」
「咲ちゃんがあんたを好きになった日、気づいたの。私はもう、隣にいるだけじゃいられないんだって」
澪は、震える指先で俺のシャツの袖をつかんだ。
「……選ばれなくてもいい。だけど、ちゃんと私を“ひとりの女の子”として見て。じゃないと……前に進めない」
その目には、涙が浮かんでいた。
でも、泣いてなんかいなかった。
澪は、ちゃんと前を向いていた。
「……ごめん。俺……」
答えかけたそのとき、携帯が震えた。
差出人は──咲だった。
> 「屋上にいる。話したいことがあるの」
*
雨の中、傘を差して階段を駆け上がった。
澪の背中が遠くなっていく。
でも、立ち止まることはできなかった。
屋上には、咲がいた。
傘を持たず、ずぶ濡れのまま立っていた。
「……ごめんね、急に呼び出して」
「咲……」
「光に、最後に伝えたくて」
咲は制服のポケットから、小さな手紙を取り出した。
「これ、読んで」
震える手で受け取ると、手紙の封はすでに切られていた。
それは、俺への想いを綴った手紙だった。
──好き。
──ずっと一緒にいたい。
──でも、叶わなくてもいい。あなたが幸せなら、それでいい。
その優しい文字に、胸が締めつけられた。
「光。私は……もう、待たない」
「……え?」
「今日、答えが欲しかった。でも、それってきっと、光にとって酷なんだよね」
咲は微笑んだ。でも、その笑顔は悲しかった。
「だから、これで最後。私の“好き”は、ここに置いていく。……あとは、光が決めて」
「咲……!」
引き止めようとした手は、届かなかった。
彼女は雨の中に、ゆっくりと消えていった。
残された俺の手には、あたたかい文字が詰まった手紙と──答えを出さなかった後悔だけが残った。
*
あの日、誰かを選ぶことの重さを、俺は初めて知った。
雨が止んだ空の下で、俺はやっと気づきはじめる。
俺の中で、誰の顔が浮かんでいたのかを──。
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