第1話『その日、彼女が隣の席になっただけで。』
俺の名前は桐島 光。
ごく普通の高校二年生、趣味は漫画とラーメン、夢は特にない。
あえて言うなら「目立たず、怒られず、平和に卒業したい」くらいの志だ。
そんな俺の前に、ある日突然、彼女は現れた。
「ねぇ、ここって私の席?」
その声に顔を上げた瞬間、思考が一瞬止まった。
目の前に立っていたのは、驚くほど整った顔立ちの女子。
華やかすぎる金髪に、きゅっと締まった制服のリボン。ぱっと見、芸能人か何かかと思った。
「あっ、そうです、そこ……」
「あっそ。よろしく、隣の人」
彼女は俺の隣の席に、当然のように座った。
──それが、**天野 咲**との出会いだった。
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昼休み。俺は弁当を開ける。
母ちゃんが作ってくれた卵焼きとウィンナーがやけに安心感をくれる。
「へぇ〜、なんか安心感あるね、それ」
……え? 隣を向くと、咲がこっちを覗き込んでいた。
「な、何か用か?」
「いや、なんか、隣の席の人の弁当って気にならない?」
「俺は気にならないけど……」
「ふーん。ま、普通って感じだね」
「余計なお世話だよ」
「でもさ、なんか……安心するかも」
……は?
「へっ、変なこと言うなよ」
「ふふっ。そういう反応、なんか……かわいい」
今、俺の顔はきっと真っ赤だ。
でもそれは、たぶん、唐突な日差しのせいだ。
「……あのさ、天野さん」
「咲でいいよ」
「じゃ、咲って……なんでうちの学校に?」
「家庭の都合、ってやつ? つまんな〜い理由」
「へぇ」
「それより、もっと楽しい話しよ? 光くんって彼女いるの?」
……は?
「い、いないけど。というか、なんでそんなこと聞くんだよ」
「ふーん、そっかぁ。じゃあチャンスあり、だね」
「……何が?」
「さぁ?」
彼女はくすっと笑って、口元に指を当てる。
──わけがわからない。けど、なんだろう。
この感覚は、きっと“何かが始まる前”の予感なのかもしれない。
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放課後。帰り支度をしていると、咲が俺の席に寄ってきた。
「ねぇ、光くんって、家どの辺?」
「駅の近くの住宅街だけど……」
「じゃ、方向一緒かも。送って?」
「えっ、いや、送ってって、まだ初対面……」
「隣の席は特別枠なんでしょ? 違う?」
「誰がそんなルール決めたよ!」
「私♡」
あっさり言ってのける咲に、俺はタジタジになる。
でも、結局一緒に歩いて帰ってしまった。
道すがら、咲は本当に普通の会話しかしない。
好きな食べ物は焼き芋。
家では犬を飼っている。
寝るときは右向き。
くだらない話ばっかり──でも、不思議と心地いい。
「ねぇ、光くん」
「ん?」
「明日も……話していい?」
「そんなの……別に、いいけど」
「ふふっ、よかった」
咲の笑顔が、夕焼けに照らされて、やけにまぶしく見えた。
そしてその時の俺は──まだ全然、気づいていなかった。
この子の**“好き”**が、すでに俺の方を向いていたなんてことに。
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