第二話 ランキング1位の男
――俺は貧乏人が嫌いだ。
いや、ちょっと語弊があるな。訂正する。
課金しない奴は全員クソ。
これはもう断言できる。
『いや、無課金でも頑張ってる人いるじゃん?』
とか言うなよ。そういう連中が一番ムカつくんだよ。
だって、そうだろ?
努力してる“風”なだけで、結局強くなりたいって願望はあるくせに、金は出さない。で、レイド戦でコソコソ俺たちの後ろにくっついてきて経験値だけ盗んでく。
ふざけんなっつーの。
悔しかったら、俺より金を積んでから出直してこいっつーの!
ま、無理だろうけどな。
だって俺、このVRMMO《ECLIPSE》の世界で、ランキング1位の男だからな。
登録者数一億超えのゲーム世界で、だぞ?
どうだ、痺れるだろ。
ちなみに、これまでに俺が課金した金額は――100億円以上。
一部の国家予算かよって額だが、事実なんだからしょうがない。
「へへっ、ビンボー人ども、100億なんて持ってねぇだろ?」
って思いながら、俺は広場の中心――王都グランシアの中央広場に立っていた。
きらっきらに輝く黄金装備、マントには“神王JIN”の称号。
通りすがるプレイヤーたちは、みんな俺を見てこう言う。
「うわっ、本物のJIN様だ!」
「超課金プレイヤーだ!」
「一瞬でギルド全滅させた伝説の人だ…!」
うんうん。見られてるって感じ、たまんねぇな。もっと見てくれよ、俺のこの完璧な装備を!
と、そこへ――
「JIN様! 本日はお時間いただきありがとうございますっ! では早速…インタビューをしてもいいですか?」
マイク片手に駆け寄ってきたのは、ピンク髪の美少女配信者・ミリンだ。
こいつ、いっつも俺に媚び売ってくるんだよな。まあ、利用価値はあるから、無下にはしないけど。
「うん、ミリンちゃん。もちろんいいとも。俺、君の配信は毎回見てるからね♪」
そう言って、俺は完璧なアイドルスマイルを浮かべる。
周囲から
「うわあああ!」
「神コラボじゃん!」
と、ざわめきが起きた。よし、もっと注目しろ。
ちなみにこの場所、王都の中央広場の噴水前。
ゲーム内でも配信スポットとして超有名な場所で、ミリンの生配信もこの場から行われてる。
つまり、今の俺の姿は――全世界に配信中!
最高の見せ場だな。行くぜ、俺劇場開幕ッ!
「では、単刀直入にお聞きします! JIN様の圧倒的な強さの秘訣は何なのでしょうか!?」
「強さの秘訣か…ふふ、そうだな――やっぱり、この《ECLIPSE》という世界を心から愛すること、かな。」
「愛…ですか?」
「そう。愛があれば、自然と努力もしたくなるし、必要な“投資”も惜しまなくなるものさ。」
自分で言ってて、正直吐き気がした。努力? 愛? ハッ、くだらねぇ。
必要なのは“金”だけだ。金があればスキルもレベルも装備も手に入る。それがこの世界の真理だろ?
でもまぁ、こんなセリフ言ってやるからこそ、俺の株は上がるんだよな~。
「さすが! 愛と投資! さすがJIN様、スケールが違います!」
はいはい。チョロいチョロい。
「では次の質問ですっ! 無課金で頑張っているプレイヤーさんたちに、何かメッセージはありますか?」
……出た。これ絶対来ると思ったわ。
内心ムカついてる。マジで虫酸が走る。
無課金プレイヤーってのは、ゲームに巣食うノミだ。
俺らが課金して作ったバランスの上で、安全地帯から甘い蜜だけ吸ってるハイエナだ。
消えちまえってのが本音だ。
でも、ここで正直に言ったら終わりだ。
俺はあくまで“寛大なる王者”JIN様なんだからな。
「うん、無課金で頑張っているプレイヤーたちの努力も、本当に素晴らしいと思うよ。彼らの情熱が、この世界を豊かにしている一面もあるからね」
ミリンが「おお~!」と感嘆の声を上げる。
俺は間を置いて、優しく諭すように続ける。
「ただ、もし本気でこの世界の頂点、つまり俺みたいな存在を目指すなら――それ相応の“覚悟”は必要になると思う。つまり、ある程度の投資は必要になってくるかもしれないね」
「な、なるほどぉ…!」
「もちろん、無理のない範囲で、自分の楽しみ方を見つけるのが一番だけどね。
ドヤァァ。
完っ璧な回答。
無課金の努力を認めつつ、結局は課金しないと上には行けないよ、ってことを暗に、しかも嫌味なく伝える。
俺ってマジで天才じゃね?
「JIN様…! 感動しました! コメント欄も『器が違う』『俺も課金する!』『神』ってめっちゃ盛り上がってます!」
だろうな。
これが俺のカリスマ力だ。
インタビューは、終始和やかな(表面上はな)雰囲気で進み、無事に終了した。
配信のコメント欄も「JIN様神!」「さすが王者!」「俺も課金しよ…」みたいな絶賛の嵐だったらしい。計画通りだ。