堕天使
暗い暗い牢屋の並ぶ部屋。
誰も好んで寄り付いたりなどしないその場所を、露華と雪吹は二人で奥に進んでいた。
「さっすが天界一恐れられている場所! 見事な陰湿さだな!」
「……何でそんな笑っていられるんだよ」
雪吹は能天気な様子の露華に呆れる。
今の状況を考えると真剣になる必要があると思う雪吹に、露華は苦笑した。
「だって、笑いでもしねーと怖いじゃん。無理にでも笑ってた方がちょっとは気が紛れるだろ?」
お前、怖がりだし。と言われて雪吹は何も言えなくなった。
―――なんか最近、露華、生意気になった気がする。
むむっと眉を寄せていると、前を歩く露華が突然立ち止まり、雪吹はそれにぶつかった。
「っ痛…露華、どうしたんだよ……?」
「雪吹、見ろよ」
「何……?」
急に険しい声音になった露華に促されてその視線の先を見ると、二人と同年代ほどの少年が牢の中にいるのが解る。
眠っていたその少年は、ゆっくりと目蓋を持ち上げると二人を視界に入れた。
「…………誰?」
とても小さい声だったが聞こえないほどではない。
彼はしっかりとこちらを見つめると怪訝そうに目を細めた。
「見張りの兵ではなさそうだね。どうして君達はこんな所にいるの?」
「えっと……」
「簡単に言うと逃亡中。お前は? ここにいるってことは重罪人?」
言い淀む雪吹を置いて、露華は訊きづらいことも遠慮なく訊ねる。
彼は薄く笑った。
「………そうだよ。僕は沢山の天使を殺したんだ。だから重罪人。ここでずっと死刑執行の時を待っているんだ」
「……露華、もしかしてこのひと――十六夜癒既じゃないの?」
「十六夜癒既?」
雪吹の言葉に首をひねった露華に向かって、頷く。
「……へぇ。僕ってそんなに有名?」
自嘲気味に呟いた彼に、雪吹は「はい」と答えた。
「確か貴方は神の怒りに触れた人間に恋して、天界に反逆したんですよね?」
「……そう。僕は天界に逆らい、堕天使になった」
癒既と初対面です。