冷静?
「露華……無理だって。この牢屋にはあらゆる魔法にも耐久出来るように術がかかってるんだから絶対に開くわけ……」
言っている最中に、ガチャッと音がして、雪吹は顔を上げた。
「開いたけど?」
「嘘っ?!」
絶句する雪吹の前で、露華は牢から出ると、ニッと笑った。
「魔法は効かないみてーだけど、ヘアピンは使えるみたいだ」
「―――こんな牢屋で、囚人が逃げたりしないのか……?」
ヘアピンを右手に「ほら」と掲げる露華を見て、雪吹は天界の牢獄設備に不安を覚えた。
そんな中、露華は雪吹に向かって首を傾げる。
「で、雪吹はどーするんだ? 逃げるか、逃げないか」
「…行くよ。露華一人じゃ心配だし」
「…何かその言い方ちょっとムカつくんだけど。……まぁ、いっか」
露華はガチャガチャと音を鳴らしながら、雪吹の牢の鍵を開けた。
「で、今度はどのルートで逃げるわけ?」
扉から出て来た雪吹が訊く。すると、露華はにっこりと笑って床を指差した。
「上に行ったらまた捕まるだろーから…ちょっと危険だけど下のフロアを通ろうかと」
「……はぁ?! それ、本気で言ってるのか?! 下って言ったら重罪人が収監されてる所だよな?!」
慌てた様子の雪吹の言葉に、露華は思いっきり頷いて見せた。
「確かそこの壁にかけられてる魔法が一部弱まってるって噂があったんだよな。…そこをバーンッ! って爆発させて壁を壊せば、後は地上まで一直線……って考えてんだけど?」
「いっ…嫌だ。いくら何でも怖いって!!」
「大丈夫、大丈夫。ほら、見回りが来ない間に行くぞー」
「あっ……ちょっと待って!」
露華はさっさと歩き始め、その後を雪吹は追う。
そして雪吹は一つ思う。
―――何故、露華は脱獄するというのに、こんなにも冷静(楽観的?)なのだろう……?
雪吹は苦労人です……(苦笑