自由な空へ
どこまでも青く。
どこまでも広く。
どこまで行っても手が届くことはない空。
いつかあの空を自由に飛び回れることを夢見て。
今日も仲間たちと、議論を進める。
主翼の素材はあれがいい、いやこれの方が…
全体デザインはこうした方が、これにしたら…
たった一度のフライトに、全てを賭ける。
人によっては、作りきれず想いを後進に託す人もいる。
全ては、真夏に行われるコンテストのために。
先輩たちも何度も出場してきて、1センチでも遠くに飛ぶため改良を重ねてきたこの設計図。
僕は今日、これをぶち壊す。
全く新しいアプローチで、これとは全く違うもので、新たなる空の旅路を切り開く。
副部長として、2年間。今年は部長として挑む夏。
この2年間、既存の機体を改良しながら皆と進めてきたこの計画を実行に移す。
当然、最初は反発もあったし問題も山積みであったが何度も試行錯誤して、説得して…。
なんとかこぎつけた、試運転日。
今回は、少しでも揚力を得て機体が浮いたのが確認できたら大成功。
浮く事が出来ないにしても、可能性が見出せたら御の字だな。
最終チェックを何回も済ませて、いよいよ、新機体の初の実地試験を始める。
パイロットの後輩との無線も好調で機器の心配もない。
実際は大きな高台の上から滑空する余裕もあるので、もう少し条件は良いものにはなるだろうが、ここで結果が出せないとどうしようもない。
ようやく動く高揚とどうなるのか分からない不安で心がぐちゃぐちゃだ。
カウントダウンが始まる。
ゼロになると同時にパイロットがペダルを漕ぐ。
サークルのメンバも加速の手伝いをして、機体が速度に乗る。
無線から情けない悲鳴が聞こえる。
「うぅわっ!?…う、浮いてね!?」
「その調子でもう少し漕いで!」
「はいっ!」
その無線の通り、みんなが全力を出して作り、背中を押した希望の翼は、地上数十センチを移動していく。
が、試験用に作ったのもあって動力部分が折れてしまい、滑走するように地面につく。
機体は壊れてしまった。
けれど、僕らの希望はわずかでも、この地上から空へ飛び立った。
皆、黙々とパイロットを助け出して、怪我がないか確認して、沈黙が訪れる。
「う、浮いてた…よな?」
「いや、浮いてない。」
「え?えっ!?」
「飛んだ…」
「飛んだんだよっ!!!!!」
興奮しすぎて、誰が言ったのか覚えていないけど。
その一言で実感が湧いてみんなでもみくちゃになりながら叫ぶ。
誰もが新しい機体で不安の中、こいつは確実に僕らの目の前を飛翔した。
ひとしきり、盛り上がるといつの間にか先輩たちが来ていた。
「すげぇよ」
「私たちよりも全然、高く、早く、安定してできていたよ」
「こりゃ、完敗だね」
「俺らの設計図いらないって言われた時ぶっ飛ばしてやろうかと思ったけど…」
「ぶっ飛ばされたのは私たちだねぇ」
ちょっと険悪になってしまった先輩たちからの称賛。
予想外でびっくりしたけれど、部の皆が信じてついてきてくれた事へ、ある一定の結果を返せてほっとした。
撤去作業して、帰宅して、お風呂に入ってご飯を済ませて。
布団に入って、目を閉じるとあの光景が蘇ってくる。
なんの涙なのか分からないが、勝手に溢れて、鳥肌が立って寝れない。
何となく、部のグループにトークを送ってみると、皆から返信が来る。
みんな寝れないんだなと思うとすこし笑みが溢れる。
『起きてる人いる?』
『起きてまーす』
『寝れないです!!!』
『寝れねぇ』
他にもポツポツと返信が来る。
そして、徐々に時間が過ぎるにつれて返信が減っていく。
気づけば、二人に。
『二人になっちゃったね笑』
『ここで話すと通知みんなに行くよね?個人にしよ笑』
正直少し、眠くなってきているが、話も楽しくなってきてしまった。
滔々と話していってしまうが、空が白み始めたあたりで力つきる。
翌朝、大学に行くと分かりやすく部のメンバーが寝不足なのが丸わかりで笑えてくる。
昨日?もはや、朝まで話していた子と目が合うと少し気まずくて目を逸らしてしまう。
別に普通の会話だったのに、あの特別感のようなものがある会話の後だと、何とも言えない気持ちになる。
「あ、あの後、寝れた?」
「い、いや、あんまり、寝れなくて、寝不足だよ…ははは…」
急に声をかけられてしまって、ぎこちない会話になってしまう。
周りにいた友達がニヤニヤし出して、こちらを見てくる。
そんな空気に耐えきれずに上を見上げると雲ひとつない青いが広がっている。
そこを駆け抜ける僕らの機体が見えた気がして、少し気持ちも落ち着いた。
今日も、皆と空に思いを馳せて夢の翼を作り上げていく。




