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双魔の宿業編 第六話―ライリー―





 ――ぼくは、捨てられたんだ。


 籠に入れられて神殿の門の下に置かれていたライリーは、この世界の何処かに存在しているであろう筈の血縁者の顔を知らない。

 孤児を預かり育てる施設としての側面も持つ神殿前には、ライリーと同様に赤子が置かれる事もある。大抵は実の両親や親族に因って捨て置かれ、その理由の大半は貧困といった家庭の事情である。自分達では育てられない、と。

 誕生自体を希望さ(のぞま)れなかったのか、子供は必要(いら)なかったのか。もしくは子供を育てる程の環境や経済的余裕が無い為か、はたまた(ほか)の何らかの理由に因るものか。しかし、事実はライリー・マークスという名の少年が秘めた胸中に、仄暗い陰翳(かげ)を落とし続けている。

 まだ赤子だったライリーを籠から掬い上げたのは、神殿の司教、ウィリアム・ヴァレンティン。前任の司教との引き継ぎを済ませ、《カザブリンド》の神殿に赴任した初日だったという。

 (よわい)十五という驚異の若さで、司教という地位(くらい)に就任した天才児が、初めての赴任地で初めて拾い上げた赤子、それがライリーだった。




 司教様(ウィリアム)や神殿で働く女性達、似通った境遇の子供達と過ごす狭くも暖かな世界の中で、ライリーが己の身の上を知ったのは、五歳(いつつ)の誕生日当日の事。

 古びていても大切に保管されていたと判る小さな籠と、小さな布地。布地には泥の痕跡があり、拾い上げた時には泥で名前(ライリー)()書かれていたらしい。

 保護され神殿に預けられる孤児とは違い、神殿前に置かれる子供は、自身の境涯を正しく知らない。故に、神殿では置かれた時を誕生日とし、五歳になったら執務室へと呼び出されて司教の口から直接説明を受けるのだ。五歳(それ)より前だと幼過ぎ、かといっていつまでも言わない訳にはいかない。何よりも、敏い子は気付く。

 ライリーも幼いながらきっと、心の何処かでは覚っていた。けれど、やはり。いざ決定打を与えられるとそれは覚悟等容易く打ち破り、幼稚な精神(こころ)に重圧を掛けた。遂に知ってしまった(・・・・・・・)のだという思いに苛まれ、両親が自分を捨てた事実(こと)が悲しくて、呼び止めるウイリアムの声を無視して執務室から飛び出した。何処かで、一人になりたかった。否、最初(はじめ)から独りだったのだ。身の裡に巣食った叫びが、世界(そと)へと解き放たれるのを望んだ。もう、思いきり泣いてしまいたかった。

 本能が安全に、そして完全に無防備になれる場所を探して。そうして辿り着いたのは、神殿の庭の隅っこだった。

 今ならば、幼いあの日の自分が何故其処を選んだのか理解出来る。一人になりたいと飛び出して、けれど本当はもうとっくに独りだったのだと知って、それでもやっぱり、孤独(ひとり)は嫌だったのだ。

 座り込んで泣きじゃくるライリーの肩に、頭に、そっと温かな手が添えられた。


「――泣いていいの」


 泣かないで、ではなく、泣いていい、と。

 ライリーを迎えに来てくれた彼女は、優しい声でそう言った。現在(いま)の面影を残しつつも、まだ幾分か幼い容貌(それ)に微笑みを浮かべて、彼女はライリーを抱き締めてくれた。

 あの日が、全ての初めての始まり。

 泣く事を肯定(ゆる)されて、とっくに独りではなくなっていたのだと解った。神殿(此処)がライリーの家で、司教様達(神殿の皆)は家族だった。頭を撫でてくれる彼女が、ライリーの帰る場所なのだ、と。

 その後彼女に手を引かれて屋台に行き、二人で焼きたての菓子を食べた事。その後、舌の痺れと仲良くなった事は割愛する。懐かしくも恥ずかしい、それは大切な思い出だ。

 暖かくも平凡な、穏やかな日々。新たな子供を迎えたり、逆に見送ったりする中で、ライリーは歳月(とし)を重ねる毎に年齢(とし)を重ねていく。その歳月の間に何度か養子候補として選出されたが、ライリーが選ばれる事はなかった。

 子供の引き取り希望者はまず、神殿の司教と面談をする決まりがある。これは不正を防ぐ為で、人買いや奴隷商による偽りの引き取りを発生させないようにするのが目的だそうだ。貰い手側は面談(この)時に年齢や性別、その他に要望があれば司教に伝える。要望に応じて司教は子供達を選出し、希望者と対面させた上で双方の合意により縁組みは完了となる。

 お世辞にも利発とは言えない自分は、何処かの家に引き取られる事はないだろう。貰い手が見つからないまま働ける年齢になれば、神殿を出て自立する。その将来には不安半分期待半分……いや、やや不安に天秤が傾いていた。自立する年齢は十五から十八、つまり猶予期間は十五歳の誕生日から三年である。仕事先や住まい等は当然自分で見つけてきても良いし、神殿側からの紹介や斡旋もある。十五で神殿を出る者もいれば、十八まで留まる者もいる。これだけでも、当時十五で赴任してきたウィリアム・ヴァレンティンという司教の優秀さが窺えた。

 何せ司教となる為には、まず見習いとして大神殿の大司教の下で勉学に励み、尚且つ一定期間の経験を積まねばならないからだ。その後の昇級試験で晴れて合格した者が、司教という地位を得られる狭き門。幼少期は理解出来なかったがライリーの知る〝司教様〟は最年少でこの門を潜った、所謂、規格外という(やつ)だ。

 何故詳しいかと言うと、憧れ、もとい、一度は志そうとした職業だからだ。だが精霊使いである事が必須条件であると知り、しかも精霊の見えない己では最初から選択肢の範囲外だったのだが。

「……そういえば神殿なのに、なんで司教がいるんでしょうか……?」

 回顧した彼女の言葉に、ライリーは首を捻った。神殿に司教が居るのは、当たり前ではないか。

 どの職業が自分に合うのか、やりたい仕事はなんなのか。焦らずゆっくり決めれば良いという司教様(ウィリアム)の言葉に吟味、というより、甘えていたライリーに貰い手が現れたのは、正に青天の霹靂だった。




 ディビット・マークスと名乗った男性は、他の子達には目もくれずにライリーを希望した。随分長くウィリアムと面談していた事が、妙に印象に残っている。

 何故自分が選ばれたのか、未だにライリーは分からない。けれどもあの日、ライリーはライリー・マークスとなった。

 引き取られた家の名を名乗りながらも、心の最奥(おく)では自身の本当の家名を切望している事に気付いている。十七(この)歳になってもまだ、ライリーは本当の両親を、その名前を知らない。けれど切望(それ)は、同時に諦念でもあった。恐らくはこのまま一生、知り得る事はないのだろうな、という。

 切望はやがて渇望へ変わり、いつしか本当に渇いて風化し、最後は消えてしまうのではないか。だから、そうなる前に、潔く諦めるべきではないか。

 養父(ディビット)は良い人だ。新たな家族として迎えてくれて、心から感謝している。今はまだ互いにぎくしゃくしているが、それこそいずれ、歳月(とき)が解決してくれる筈。

 引き取り手の顔を想起すれば、よく似た青年の面差しが脳裡を鮮烈(あざやか)に塗り替えた。





 ヒューゴ・マークス。ライリーより三歳(みっつ)上の青年。縁組みに因って、ライリーの義兄(あに)となった人。精霊使いの家系ではないマークス家に生まれながら祝福を受けし者として精霊を視認し、精霊使いとしての才能を開花させた人。新進気鋭の若き精霊使いとして、《カザブリンド》でその名を、その実力を、その活躍を知らぬ者はいないであろう人。

 濃く淹れた紅茶色の髪と、翡翠めいた緑の双眸。ライリーに向けられる眼差しは冴えた煌めきが常駐し、発せられる声と言葉は咎めるかのような峻厳が宿る。その理由は、ライリーには理解不能だ(わからない)

 精神の畏縮に従い身体が竦んでしまうのは、自分のような存在が義弟(おとうと)を名乗る事に対する負い目と引け目――だけではない。ライリーの本能の奈落に居座る、陰鬱たる感情が故。アリシアやユンやセオドアは勿論、ティティーやウィリアム、彼女にも、決して誰にも知られたくない、醜悪なる(みにくい)情動。

 解っている。これは、(ひず)んだ妬心だ。

 (ひが)み、(ねた)み、(そね)みと恨み。その根底の玉座に座する、狂おしい程の、羨望。

 綺羅星に手を伸ばすかのような、憧憬、等という純真な思いではない事は、ライリーが一番理解している。これ(・・)は、もっと澱んだ、どす黒い思い(もの)だ。

 図書館に通い続けた本当の意味と、理解出来ない書物に齧り付いていた理由。活力も気力も精力も、熱量がなければ燃え尽きる。その熱量こそが、羨望だった。(ヒューゴ)のように、自分も……と。

 だが精神面とは裏腹に、脳内(あたま)は理性の軍門に下り、ずっと諦念を囁き続けた。お前には、無理だ。諦めろ、と。

 「……醜い嫉妬を原動力としているようなお前なんかに、精霊が見えるわけないよねぇ……?」

 暗がりから、嘲弄が聴こえる。とても良く知っているような、けれど全く知らないような、誰かの気配。

「ましてや精霊使いになんて……なれるわけがない……ッ!」


「でもお前の傍にいる精霊は、お前と話したいって言ってるぞ?」


「――っ!!」

 気配が、霧散した。嘲弄(あざけり)の声も、もう、聴こえない。

 奈落の奥底(そこ)で鬱屈を食糧(エサ)に沈澱する羨望が、ある少年との出逢いに因って初めて揺らいだ。

 精霊と話したい。醜悪な情動(きもち)を隠したくて、諦念(あきらめ)に縛められていた、純粋な思いが強さを得る。


「お前なら、見えるようになると思うぞ?」


 呪縛を(ほど)いた少年は、出逢った天空(そら)よりもっと澄んだ夕暮れを、瞳の裡に宿していた。

 セオドア・シンクレア。精霊使い達の中でも御三家と称される一族で、勇者の称号の継承者である、ライリーと同じ年齢(とし)の少年。最も、ライリーがそれを知ったのは、出逢いから少し後なのだけれど。

 〝マークス〟を名乗る事に対する緊張は、まだ喪失し得(なくなら)ない。あのヒューゴ・マークスの、と言われる度に、針で刺されるような痛みと、曇天を仰ぐかの如く虚無が飛来する。じくじくと、もやもやと。

 相手の態度の変化とは、自身の想像する以上に負担を強いり、精神を()り減らす。それでもその名を知りたいと、関わりを持ちたいという思いが名乗る決意に口を開かせて、結果、セオドアの態度は変わらなかった。

 打算に(まみ)れた目的を、お互い様だと言ったセオドアと友達になりたいと思ったのは、きっとこの瞬間だった。異界渡航と精霊に憑依された彼女と、灯火の精霊に託された願い。ユンやアリシアとの出逢いは驚きと慌ただしさの連続で、回顧する度に様々な感情が溢れ出す。山中での女魔族とセオドア達のと戦闘(たたかい)の後から、彼女にも精霊が見えるようになって。精霊(アナスタシア)に乗っていたとはいえ、ライリーは初めて空を飛ぶという経験をした。乗り心地は悪いどころか心地好くて、けれども今は、飛行(それ)に慣れてしまった自分がいる。

 シンクレア家やブラッドレイ家、ヴァレンティン家とも、最早無関係ではいられない。地下聖堂でのオスカーの話。引き摺り込まれた狭間。ニール・ハミルトンとセオドアの対峙。精霊病。ブラッドレイ家で飲んだお茶の味。彼女を姉上と呼んだ、テオドール・シンクレア。謎に満ちた魔王との邂逅で負傷したセオドア。《不帰之森》に内包されるヴァレンティン家。そして、咎人の間を牢獄(オリ)を称したハロルドが語った、シンクレア家の真実。

 セオドア・シンクレアとの出逢いを契機に、狭く小さな世界は大きく広がった。平穏と引き換えに不穏を孕んだ拡大が、ライリーを何処へと連れていくのか、どんな未来が待っているのかは分からない。過去の――何も知らなかった自分にはもう戻れないのだ。もとより、戻るつもりもないが。

 浮かんでは消える日々や人々に、まるで走馬灯みたいだな、と思ったところで、漸く意識が直前の記憶に追いついた。咎人の間に現れた、漆黒の甲冑を纏った容姿(すがた)。セオドアの絶叫と対極に位置する、冷ややかな義兄(あに)の声。

 それからどうなったんだっけ?の後に、確か……、と思い至る。そうだ、閃光と轟音だ。眼前で落雷が発生したのかと錯覚する程の衝撃が去って、ライリーは見覚えの無い森林(もり)にいた。

 其処に現れた少年は、聖騎士団団長を名乗りライリー達を――と言うよりはセオドアを襲撃したニールと同じ服装をしていた。しかもティティーを連れていて、掟霊解放を……、

「―――――ッ!?……ぁ、生きてる……?」

 脳天から両断されて、右半身と左半身はさようならになった筈だった。ぱたぱたと身体中を触って確かめて、怪我どころか身に着けた衣服すら斬られていないと理解して、全身が脱力した。四つん這いというかなり情けない体勢を披露しているが今は気にする余裕も無い。生きている、が脳裡(のう)から隅々まで行き渡り、深く大きな安堵が洩れた。支柱となっていた肘と膝から力が抜けて、同時にべしゃっと倒れ込む。もう体裁等知るものか。生きているって素晴らしい。

「ッいやいやいやいや!待って!此処何処!?」

 生を実感し謳歌する手前で我に返る。落ち着けと冷静になれが急激な追い上げをみせて、あっと言う間に首位に立った。首筋が引き攣る勢いで以て顔を上げ、速度(はやさ)を殺さず左右に振る。周囲の光景と現在(いま)の状況を把握するべく視覚の機能を惜しまず使用し(つかい)、導き出された答えは単純で、そして、全く役に立たないものだった。


――……どうしよう……また知らない場所だ……――


 周辺(あたり)に落ちるは、暗がり、というよりは暗闇。一筋の光芒(ひかり)も射し込まず、寧ろ存在すら許容し(ゆるさ)ないと宣誓しているかの如く先の見えない黒の裡。夜や外という可能性を否定するのは、頭上に煌めく星々の群勢(むれ)が皆無であるから。風や空気の動きも無い、恰も閉ざされた空間の内部。

「……」

 生という希望に満ち満ちていた精神が、絶望に侵蝕されていく。しかし、思考が完全に後ろを向く前に、湧き上がる疑問。

 暗闇(やみ)の中で何故、自分の身体が見えているのか。

 身を起こす為に両肘(ひじ)を、両膝(ひざ)を突く。四肢に力を込めて、ゆっくりと起き上がる。踏み締めた足元は土よりも硬い、床のような感触を伝えてきた。

 両手で、両頬(ほほ)に触れる。下ろす前に、手のひらと顔を向かい合わせる。手のひらが見える。いつもの見慣れた、ライリー自身の手のひらが見える。握れば拳になる。拳が見える。開けばまた、手のひらが見える。

 視線を外して、正面を向く。暗い。闇が鎮座している。光は無い。明かりは見えない。

 目線を落とす。首から下の、ライリー自身の身体が見える。着ている服の色彩(いろ)までも……。

「……此処何処!?」

 本能のままに、二度目の同じ問いを吐き出した。

 暗い筈なのに、光源なんて何処にも無いのに、己の身体がはっきりと見える。肉体自体が発光している訳でもないのに、何故なのか。

 通常、例えば夜眠る前等に燭台の灯りを落とし、遮光の為の窓帷(そうい)を閉めれば、暗闇は訪れる。そうして完成した暗闇の中では、自身の身体をこうもはっきりと視認する事等ほぼ不可能だろう。暗さに程無く目が慣れたとて、見えるのはぼんやりとした、不明瞭なものとなる筈。

 最早不気味よりも不可思議な事態に、脳の処理が間に合わずに悲鳴を上げる。何処とも判らぬ謎の空間から、はたしてどう脱すればいいのか。混乱が加速して、頭痛となって猛威を振るう。蟀谷(こめかみ)を押さえて堪えていればそのうち治まるだろうか、なんて、現実逃避もいいところだ。

「……、……?」

 表現し難い硬質な、けれども小さい、微かな異音(おと)が、ライリーの耳朶を擽った。聞き取れたと理解する前に、反射に因って発生源を探して彷徨う視線の先。

 両腕を胸の前で合わせ、否、両腕に何かを抱えた女性が、ライリーに向かって歩いてくる。三つ編みが(ほつ)れた紅茶色の髪と顔色の悪さが、女性の健康状態が思わしくないものである事を如実に物語っていた。心なしか足取りも重く、というより寧ろ覚束無い。今にも倒れそうだ。

 急に現れた自分以外の人間(ひと)の姿に、恐怖より驚愕が最前列へと躍り出た。近付いて声を掛ける事も、背を向けて逃げる事も出来ず、ふらふらと歩み寄ってくる女性を只、ライリーは凝視する。

 女性とライリーの距離の隔たりが、遅々たる歩行に因って少しずつ狭まっていく。女性の面差しと瞳の色を認識出来る程に互いの距離が迫って初めて、ライリーは女性が抱える何かの正体を知った。赤子、だ。

「……ぇ、」

 女性の歩みは止まらない。目の前に誰か(ライリー)が立っている事にすら、気付いている様子がない。このまではぶつかってしまうと解っているのに、何故か、ライリーの肉体(からだ)も動かない。


――……まるで両足(あし)が縫い付けられたみたいだ……――


 翡翠色の双眸に宿る生気が辛うじて繋ぎ止められているのは、両腕(うで)に抱えた赤子が故か。蒼白に支配された顔立ちが自身と似通っている事に戸惑いを隠せないライリーを視界に捉える事もなく、否、本当に見えていないかのように女性が眼前にまで迫り、そして。

 すぅ、と。女性は、ライリーの身体をすり抜けた。氷塊の如き冷たさで以て通過した女性(それ)が、実体の無い幻影(まぼろし)だと証明するように掻き消えて。独り遺された(・・・・・・)ライリーの深緑から、涙が頬を伝って落ちる。


「……お……母……さ、ん……」


 知らない筈の、知り得ない筈の記憶の波浪(なみ)が、ライリーの精神(こころ)を過去へと浚った。







「……消えた……?」

 反撃も、防衛も。逃亡の隙すら与える事無い速度(はやさ)で斬った、相手の消失。精霊、もしくは魔物であるかの如く消滅は、ライリー・カートライトの胸の裡に翳りを落とした。

『……ライリー……、』

 契約精霊(ティティー)の浮かべた不安を払拭する為に、ライリーは淡く微笑んでから、大丈夫だよ、と、声を掛ける。

 あの少年は誰だったのだろう。双生児(ふたご)であるかの如く似通った、否、瓜二つの容貌は、鏡に映った己自身を見ているかのようだった。

 だが、ここでライリーは、その思考(かんがえ)を放棄する。聖なる森からの排除には成功した。もう消えた(いない)相手の事を、いつまでも脳裡に留め置く必要は無い。




 世界に聳える牆壁(かべ)を――決して交わらぬ平行線を飛び越えて、二人の少年は邂逅に至った。

 再度の機会等永久に有り得ぬ寸時の出逢いは、世界の理に反して存在する者の、僅かばかりの差異に因って齎された異変なる奇跡の瞬間だった。




ライリー・カートライト〈Riley・Cartwright〉

Riley:勇敢

髪=亜麻色/瞳=緑色/年齢=17/性別=男

長所:真面目/短所:真面目過ぎる

聖騎士団所属使徒の一人。精霊使いだが特例として騎士となる事が許された。矜持と自信を携え、両親がつけてくれた名に恥じぬよう日々研鑽を積んでいる。

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