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魔王の肖像編 第四話―対峙―




 王命を授かった幹部達が其々望んだ精霊使いの眼前(まえ)へと転移、顕現を果たし、今正に戦闘(たたかい)の火蓋が切られんとする同時刻。ブラッドレイ家の門前にて、イーサンもやはり、一体の魔族をその眼中に収めていた。

「光栄に思いなよイーサン・ブラッドレイ!オマエの相手はこの三日月サマがしてやるよ!」

 羽毛の両翼(つばさ)を羽撃かせ、白虎の背から少年が吼える。騎乗ではなく融合であると証明する容姿(すがた)から発される嘲笑は、明白(あからさま)な挑発行為。黄金色の眼差しは、名乗った通り三日月に歪んで見える。

 自身の前に魔族が放たれたという事は、他の者達も同様(おなじ)であろう。魔族の挑発等意に介さず、タニアに託した書状がアルフレッドへと渡るのは、少々(すこし)時間を要するかも知れない、と、イーサンは覚った。

「――よかろう、」

 一体の魔族ごときに割く時間等、本来イーサンは持ち合わせていない。が、双魔の根絶を掲げ、また、根絶(それ)を悲願とするブラッドレイ家当主たる己に無謀にも挑もうというのであれば、相手取る事は吝かではない。

「シーラ……」

 契約主(あるじ)として自身の契約精霊の名を呼ぶイーサンに(いら)え、甲羅を背負った小柄な老婆が上品な所作で一礼した。







「《カサブリンド》の神殿の司教にして」

「銀のヴァレンティン家当主の弟」

「ウィリアム・ヴァレンティン」

「主君が殺し損ねた男」

「是非、吾の」

「相手を頼む」

 巨大な羊の体躯の上で。一つの咽頭(のど)から紡がれる、淡々とした二つの声音(こえ)

 男声に女声が追随し、再び男声、そして女声へ。奇妙な一人芝居であるかの如く次々と放たれる声は、感情を伴わぬ静謐な響き。

 ウィリアムが受け持つ神殿前に異質な鈴の()と共に顕現し(あらわれ)たのは、羊型の魔族が一体。

 羊の首があるべき部分から伸びる、左右別性の上半身の頭部を飾る、螺旋を描く羊の角。脇腹に埋め込まれたかのような、或いは裡から()り出したかのような、雄獅子と雌羊の両眼が射抜く程鋭利なのに対し、人型の双眸は瞼に因って閉ざされている。盲、だろうか。

「我が神殿を訪問するというのであれば、事前に通達が欲しいものだ」

 次があればな、と、言い放ちながら魔族を見詰める紫水晶の眼差しは、澄んだ水面(みなも)が波打つかのよう。

「……ウィリアム司教、」

 ウィリアムの傍らで魔族を睨み据えていたヒューゴが、相対に因って落ちる沈黙の支配を打ち破る。

「おれはシンクレア家へ」

 勇者を受け継ぐ御三家の家名を口にしつつも、ヒューゴが脳裡に描く姿は実際には異なるのだろう。兄弟揃って不器用な事だと、ウィリアムは気付かれぬよう吐息を洩らす。

 魔族から視線を逸らさぬように首肯で以て応えてみせれば、ヒューゴの気配が隣で揺らぎ、そして、消失した。契約精霊であるロアが、転移を行使したのであろう。

『――ウィリアム様』

 代わって傍に現れた気配は、己が良く知るキースのそれ。

 月白色の大蛇の口が威嚇の音を轟かせれば、面前の魔族は前肢の蹄を大地に打ち付け(いら)えてみせる。

「主君の配下」

「六番、瑪瑙」

「参る」

「よしなに」

 蹄を()り込ませた衝撃に従い大地が鳴動する先で、ウィリアムは低く、静かに、自身の精霊の名を呼んだ。







 シンクレア家に限らず、精霊使いに出される依頼には、神殿の協力が不可欠である。正確には、神殿に常駐する司教とその契約精霊の、であるが。

 かつて魔物や魔族の討伐依頼は、全て神殿に寄せられていたらしい。依頼を受けた司教自らが討伐に赴く事もあれば、近隣の精霊使いへと依頼を委託する事もあったのだそうだ。

 この世界を生み出した創世の女神にして唯一神、アイラを祀る神殿を預かる司教は、精霊使いである事が義務付けられている。精霊使いであるという事は、即ち契約精霊がいるという事。人々は神殿の司教を通じ、精霊使いに書状という形をとって依頼を出す。依頼書という名の書状を受け取った司教は、己の契約精霊に依頼者が希望する精霊使いの手元まで、書状を届けてもらうのだ。最も、依頼者が精霊使いを希望、指名出来るようになったのは、街に建立される神殿が各地の神殿と契約精霊を通して情報や連絡等を取り交わすようになってから、なのだが。




「オスカー様、討伐任務完了致しました」

 陣代として現在勇者の称号を預かるオスカーはシンクレア家当代当主として、寄せられる依頼を任務として振り分けている。オスカーの采配による討伐任務を完遂し、その報告を行う為にセオドアはシンクレアの屋敷へと帰還していた。

「ご苦労。続け様ですまないが、次に行ってくれるかい?」

「はい」

 届けられた依頼書を手渡され、首肯と共に是を返す。休む間も無く……等という不平と不満は、そもそもセオドアの裡に存在していない。

「騎獣の状態は?」

「問題ありません」

 恰も張り巡らせた網の如く。契約精霊達が神殿同士を繋ぐというその特性を生かし、そして、応用し。行商による運搬や配送よりも速く、依頼は精霊使いへと届く。しかし、依頼書の届く速度(はやさ)に対し、任務に赴く精霊使いの到着の遅延(おそさ)という新たな問題が浮上した。転移や、例えばアナスタシアの飛行といった移動系統の異能を有する精霊と契約していれば、移動に掛ける時間という制約からの解放を得る。が、人間(ひと)である以上移動する手段はどうしても制限されてしまう。故に精霊使いの、とりわけ知名度や人々の認知度が高い家系では、焦眉の急に乗り合い馬車等に頼らずとも済むように独自に騎獣を飼育、管理しているのが大半である。

 シンクレア家の騎獣は馬であり、これは飼育する騎獣としては極一般的な種類にあたる。各自が愛馬を……という訳ではなく、依頼地までの距離に速度や持久力を加味し、騎乗する馬を選ぶのだ。

「――では、」

『オスカー……!』

 一礼と共に退室しようとしたセオドアの足が停止した。否、停止させられた(・・・・・)が正しい。

『咎人の間にっ、誰かが侵入しようとしてる!』

 羽撃きを余韻に残し、瞬きの刹那に梟から人の身へと転身したソフィアの相貌に、狼狽と緊張が滲み出る。

「誰かとは……?」

 問い掛けるオスカーを、困惑が支配する。自身の契約精霊が、ここまでの焦燥を露にした事がかつてあっただろうか。

 それが、よく分からないんだけど……、と、ソフィアが言葉の続きを述べる。

『人間じゃ……ううん、生き物じゃないよ』

「生き物じゃない……?っ、セオドア!?」

 独白めいた声を洩らしてしまった事で、オスカーはセオドアの反応に対して後塵を拝してしまう。

 驚愕を理性が解するより速く、本能が精神と肉体とを占領下に置いた結果。息を呑むと同時に踵を返したセオドアの足が駆け出した。待ちなさい、という制止は退室する背に跳ね返され、何らの効力も発揮しないまま立ち消える。扉の閉ざされる音が瞬間的に室内を満たし、次いで、静寂が王座に昇った。

「――ソフィア、私達も……」

 掛けていた椅子からオスカーが腰を上げた、直後。微かに響いた場違いな鈴の()が、オスカーの記憶を呼び覚ます。聴き覚えのある、この音は――。

 窓から首ごと視線を落とせば、門前で手招きをする、馬に騎乗した男の姿。否。

『そんなっ……!』

 不可侵の領域である筈の咎人の間に侵入しようとする謎の存在に気を取られ、魔族の出現を視落とした(・・・・・)ソフィアが失態に声を荒らげる。

 馬に見えるは、銅色(あかがねいろ)の巨大な体躯。白銀の角を生やした一角獣の背から伸びる、赤銅色の肌と髪をした男。黄金に煌めく瞳に挑発を乗せた魔族が一体、オスカーの眼下で嗤っていた。







 ソフィアから放たれた言葉が、警鐘のようにセオドアの脳裡を駆け巡る。胸中は鮮明(あざやか)な絵画の如く、ライリーと彼女をセオドアの精神(こころ)へと投影し、急げ、駆けろと追い立てた。

 初代勇者ユージーン・シンクレアと契約精霊サイラスが咎人の間に施した精霊術は、精霊と人間の魂魄(たましい)とが融合した特殊体を閉じ込める為の牢獄。牢獄であるが故に堅牢を誇る室内は、双魔の侵入を遮断するという特性を有している筈。

 双魔の侵入を遮断する術を擦り抜けようとしている侵入者――ソフィアの言った、生き物ではない〝誰か〟とは何者なのか。

 自身の発する忙しない吐息が、潮騒のように耳の奥で鳴り響く。呼吸の乱れは駆けているから、だけではない。焦燥(あせり)が更に拍車を掛けて、鼓動を道連れに正常な拍子が崩されていく。

 鬱陶しいと煩わしいが迫り上がり、舌打ちとなって表面化する。悪態までもが追随し口を衝こうとしたところで、セオドアの身体は漸く目的の扉へと到達した。

 間髪容れずに開け放ち、速度を落とさず棚の間を駆け抜ける。立ちはだかるかの如く聳える本棚に視界と行動を制限されるかのようで、今度こそ悪態が飛び出した。

「……ライリー!」

 怒号めいた声量で、セオドアが呼ぶ名は全部で四つ。ライリーとティティー、ハロルド、そして……。

 想起されるのは、揺蕩う記憶の深海(うみ)(なか)

 二人きりで夜明けを待って、白んだ空の下で微笑んだ彼女との〝本当の初めまして〟。

 水面(みなも)に映し出されて観た、蒼白と苦痛とを同居させ椅子に座した彫像のような姿。昏睡から目覚めて見た自身の眠る寝台で、半身を伏臥し(ふせ)た彼女の寝顔(かお)


――……何処だ……何処に……――


 数多の文献が収められた本棚が林立する室内は、幾ら広い空間内とは言えセオドアの速度を妨げる。

 呼び掛けを続け疾走する両足(あし)が開けた場所に辿り着き、反射的に速度(それ)を緩めたセオドアの瞳が、ライリーに肉薄する漆黒の甲冑を視認した。








――……見つからないなぁ~……――


 膨大な数の文献を内包する本棚を前にちょっぴり心が折れ掛けるも、ライリーはすぐに頭を振って新たな書物の頁を捲った。

 意外な事だが、室内の中央部は本棚(たな)を配置しておらず、代わりに長机(つくえ)と椅子が設置してあった。樹木の如く聳える本棚が占拠するが故に圧迫感を齎す空間の中で、そこだけが唯一開放的だ。

『只でさえ数多いってのに整理されてねェんだよなぁ……』

 ハロルド曰く、過去に年代順に並べようとした当主も何人かいたらしいが、あまりの量の多さに全員が断念したのだとか。せめてもの救いは、書物自体の劣化の少なさだろうか。この本棚、というか空間内に所蔵された文献は全て、後世に伝える為サイラスが施した精霊術に因って状態が当時のままに保たれているらしい。

『ライリー!これは?』

『お、コレとかちょっと古そうじゃねェか?』

 サイラスが精霊術を室内に施したのは、千年前。そして今回ライリー達が捜索するのは、便宜上シンクレア家の初代と言われていた当主の頃に記録された文献(もの)。サイラスが術を行使する前に所蔵されているのなら他よりも劣化が進んでいるのではないかと仮定し、精霊二体は本棚の森を飛び廻り、めぼしい、もしくは目に付いた文献があれば声を発して知らせてくれていた。

 ティティーやハロルドが見つけた書物を引き抜いて、机に持ち寄り頁を捲る。記述がなければ次の書物へ。その繰り返し。非常に非効率的だが、そもそもそんな簡単に見つかるのであれば、千年前に既にユージーンの手で発見されていた筈だ。

 記録等、元々残っていないかもしれない。それでも、ライリーも彼女も捜索の手を緩めないのは、知りたいという思いが強いからだ。

 時折ティティー、またはハロルドの声が届く以外は、指先で紙を捲る微かな音が響く空間。静謐に満ちた、しかし完全なる静寂の無い室内は、どこか図書館めいていて。


 ――だから、異変に気付くのに遅れたのだろうか。


 ハロルドの声も、ティティーの声も、いつの間にか聞こえなくなって。それに疑問すら覚える事無く、文献に記された文字の羅列を追って。周囲(まわり)に無音が蜷局を巻いて立ち込めた時には既に、異変の顎門は侵入者の出現という形状(かたち)をとって、ライリーを呑み込まんとしていた

 取り巻いていた静寂と無音は彼方に去って。引き替えに耳朶を打ち、文字の大海(ウミ)からライリーを現実へと連れ戻したのは、硬質な音色と、低い男声。


「――入り込むのに随分掛かった……余程複雑な仕掛けをしているらしいな」


 月無き闇夜――静謐の瞼が、戯れに人間(ヒト)容姿(すがた)をとってみせたかのように、纏いし色彩(イロ)は暗澹の漆黒(クロ)

「……ぇ、」

 聴覚の帰還と共に、集中に因って外界から隔絶していたライリーの感覚が、次々に現実へと舞い戻る。深緑が彩る眼前に外套と甲冑を身に着けた誰かの姿を認めて、疑問は吐息を拝借しライリーの裡から洩らされた。

「我が王の命により、その首貰い受けにきた」

 放たれた言葉は、甲冑を纏った人物の接近と同時にライリーへと到達する。

 図書館めいた雰囲気が齎した安寧は急激な状況の変化に対応出来ず、置き去りされた精神はライリーに混乱と恐慌を呼び込み、結果心身を硬直させた。

 防御、回避、または反撃。生命の危機に直面した生物が本能に因って取り()る行動は、混乱と恐慌の連合軍に占領されたライリーにとって選択肢にすら上がらない。目を見開いて、呼吸も停止し(とめて)、迫り来る漆黒に対し、只茫然と立ち尽くして……、


「ライリーッ!!」


 迸った絶叫が、セオドアの声だと脳裡で理解した、刹那。

 接触、等という生易しいものではない、金属同士がぶつかり合う甲高い衝撃音を奏で、漆黒の甲冑は外套を翻し中空を舞った。否。

 背後から(・・・・)攻撃を受け(・・・・・)弾き飛ば(・・・・)されたのだ(・・・・・)

 甲冑を纏う侵入者を強襲し、()は軽やかに、静かに床へと降り立った。

 濃く淹れた紅茶色の髪が着地に鮮烈(あざやか)な余韻を飾り、翡翠の如く緑眼は抑えきれぬ激憤に煌めく。

「……(あに)(さま)……」

 無意識に紡いだ声に、深緑と翡翠が交錯した。







 一度緩めてしまった速度は眼前の光景に停止を選択し、セオドアの両脚を縫い付けた。そのたった一瞬の静止が致命的な距離と遅延(おくれ)を生み出して、精神までもを硬直させる。


――……駄目だ……間に合わない……!――


「ライリーッ!!」

 喉が、裂けるかと思った。裂けても構わないと、思った。

 己の発した叫声(さけび)を鮮烈に塗り替えてみせたのは、鼓膜を劈く金属の高音と、凄絶な衝撃の余波。

 全身に漆黒(クロ)を纏う甲冑が、ライリーに到達する直前。見覚えの無い青年の構えた旋棍の煌めきが、セオドアの瞳に捉われた。

 暴力である事を感じさせぬ程しなやかに繰り出された肘打ちは、強烈な打撃と化して襲撃者を強襲し、その勢いを殺さぬままに吹き飛ばす。

 攻防一体と言いつつも、護身具として攻よりも防に重きを置かれる事の多いその武具で鮮やかな攻撃を決めた青年は、強襲の激しさとは正反対の静けさで以て軽やかに着地した。

「……兄、様……」

 セオドアにとって見覚えの無い青年は、ライリーにとって見知った人物であると証明するかのような声。紡ぎ出すように落とされた(それ)を聞き取って、青年はライリーへと視線を合わせる。

「下がれ」

 ライリーに〝兄〟と呼ばれた青年は、翡翠に似た双眸を細め、冷ややかに言葉を発した。その射竦める程の冷酷さに、ライリーの双肩(かた)が小さく跳ねる。

 ライリーの陥った窮地と、その危機に対応出来なかった絶望。そして、絶望(それ)から急激に掬い上げられた、否、救い上げられた(・・・・・・・)安堵に因る、混乱。

 感情と思考は解離と癒着を繰り返しセオドアの精神を揺さぶりながらも、やがて一つの思いへと集約していく。

 何者なのだろうか、と、思考(おもい)はセオドアの裡を巡る。

 硬質な音を奏でる重量を有する甲冑を、一撃で吹き飛ばせる程の攻撃力。青年の胸元に重なって視える、兎の耳と牡鹿の角、猛禽の翼を背から生やした焦げ茶色の髪と眼の、幼児(おさなご)容姿(すがた)をした精霊。その様から、精霊使いである事は明白なのだけれど。


――……ライリーは兄様って呼んでいたが……――


 ライリーから、精霊使いの兄がいる、等という話を、セオドアは聞いた事がない。そもそもライリーは彼女と同様、神殿出身の孤児だった筈。ライリーに対する青年の冷えた言動も、それを向けられたライリーの態度も気に掛かる。だが、今は。

 彼が何者なのかより、余程喫緊の事態が甲冑を纏って立ち上がった。

 硬質な甲冑(それ)に欠損は見当たらず、無数の本棚(たな)を薙ぎ倒し吹き飛ばされた衝撃ですら微塵も残る様子はない。

 胸中に湧き上がる感情も、思考も。その結果生み出された疑問も今は、些末な事だと抑え込む。

 彼が何者であろうとも、漆黒(クロ)の襲撃者に攻撃を放ったという事は、即ちライリーを庇ったという事。言動こそ冷淡であるものの、彼が精霊使いであるならば、こちらとの――精霊使い(セオドア)との共闘も可能であるという事だ。だから、

「――セオドア・シンクレアだな?」

 だから、彼からの確信を持った問い掛けに、セオドアの返答は数瞬の(とき)を必要とした。例え彼が何者であっても構わない、という思いが肯定の遅れとして表れる。

「……はい。失礼ですが、貴方は?」

「ヒューゴ・マークスだ。悪いが、長々と自己紹介している暇はない……構えろ」

 面前の相手に意識を集中させながら。ヒューゴと名乗った青年が、顕現させた旋棍を手に双眸を細めた。

「……っ、」

 通常(いつも)のように、サイラス、と名を呼ぼうとして、自身の傍らに顕現する契約精霊の双眸が蒼穹ではなく夕暮れのそれである事に、僅かばかり声が詰まった。どちらの名で呼ぶべきか、と。

「――……サイラス、掟霊解放」

 しかし、その逡巡は一瞬で過ぎ去り。セオドアは己が契約を交わした名で、自身の精霊の名を呼んだ。




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