先人の宿縁編 第六話―魂魄の融合―
ハロルド・シンクレア。シンクレア家の長子にして、次代勇者の継承者。だが、勇者の称号よりもっと重く、もっと深くハロルドに押し掛かるのが、〝勇者の孫〟という肩書きだった。
精霊大戦勃発の原因、魔王討滅を果たした祖父、ユージーン・シンクレアは、封印を討滅と偽り虚構に塗れた栄光を手にした。その栄光を代償に後裔であるシンクレア家当代当主が、いずれ解き放たれる封印から甦った魔王を今度こそ討滅する。それが勇者の血族の、一族から魔王を生み出した後胤に課せられた宿命となった。
ハロルドは三代目の勇者として、勇者の子である父から何度もこの話を聞かされた。二代目、三代目と、封印を施した初代勇者から近い自分達では、いずれ甦る魔王を討滅する立場になる事はない。故に、来るべき魔王復活に備え正しく継承を行う事を使命として生きる父の言葉を信じ、ハロルドも勇者の孫という重圧を撥ね除け精霊使いとして邁進していた。
幼い頃は盲目的に信じ、誇りを持ってきた継承に疑問が生じたのは、いつからだったか。
きっかけは、恐らく些細なものだったのだろう。明確にこれといった原因は浮かばず、ハロルドの裡から消失している。
只、幼心に植え付けられた継承と、肩書きに因る重圧に、いつしか歪みが生じ始めた。
血筋と使命に誇りを捧げて生きる父が、ハロルドには呪縛に絡め取られた姿に映った。
自分もこうして一生を、使命に縛められて生きるのか、と。
父も、自分も。いずれ誰かと婚約し、生まれてくるであろう自分の子も、孫も、その次も。シンクレア家に――勇者の血族に生まれたという只それだけで、自由に生きる事が許されない。
歪みと呪縛に自由を強奪され続ける精神は、父の急死により称号を継いだハロルドが当主となっても消える事無く燻り続け、やがて反発へと変化した。
その反発心が故にハロルドは自身の婚約を断り続け、使命と継承に対する血族の解放を訴えた。
年齢の離れた実の弟から当主としての義務だと諭されようとも、決して首を縦には振らなかった。
当時、咎人の間は地下聖堂と同様に、当代の当主のみがその入室を許されていた。ハロルドの反発心が背反へと進化する決定打となった事象こそ、咎人の間で逢った精霊サイラス、否、自身の祖父ユージーンだった。
ユージーン・シンクレア。精霊使いの一族出身であるにも拘わらず魔王となったテオドール・シンクレアを、己が実力不足から討滅し損なった男。
ハロルドがこの世に生を享ける前に病死したのだと聞いていた相貌すら知らぬ自身の祖父は、魔王討滅に失敗した責で一族から断罪され、処刑されていた。
シンクレアの後裔に〝勇者〟という虚構に塗れた称号と、継承という名の呪縛を齎した張本人は、首を落とされ処刑された直後、契約精霊であるサイラスと自身の魂魄を融合させたのだと語った。久遠の歳月を過ごす贖罪を自らに課した、己は咎人だから、と。
咎人の間にてハロルドの前に姿を現し、そう真実を告げた自身の祖父の魂魄を宿した精霊に、ハロルドは憎悪で以て咬みついた。
「テメェが始末し損ねてなきゃッ……オレ様達は自由だったッ!」
そこから先のハロルドの記憶は、少しばかり曖昧である。
「……兄上には失望しました。シンクレア家の誇りも使命も継承も、僕が全て守ります」
ハロルドが訴え続けた思想は、危険で異端と見做された。ハロルドは弟に家督を奪われ、誉れ高き勇者の一族の恥として断罪された。処刑方法は初代同様斬首とされ、ハロルドは契約精霊と共にシンクレア家を離叛。当主となった実弟から放たれる追っ手を返り討ちにし続けるも、数に頼った相手方の攻撃を受け、最後は血の繋がった実の弟に四肢を斬り落とされた上で捕縛された。
「――さようなら、兄上」
それは、今際の際に脳が生み出した幻聴か。
ハロルドは、自身の首が落ちる音を聞いた。
『――以上がオレ様の人としての経歴だ。ご清聴ありがとうございました……ってな!』
咎人の間に鎮座したままの、動揺と驚愕から生産された衝撃による沈黙の玉座を譲り渡せと言わんばかりに、精霊の――ハロルドの哄笑が谺する。
齎された情報は、あまりにも多過ぎて。脳裡と精神が拒絶をしているかの如く、その場に集った全員が等しく思考を停止した。
勇者の孫。異端。離叛。断罪。処刑。
嘲笑と共に語られた、かつての先人が歩んだ軌跡。
初代勇者の称号を得たユージーン・シンクレアが、魔王討滅失敗の責を負い処刑されていた。そんな話、ライリーは聞いた事が無い。だが、それは当然だろう。そもそもユージーン・シンクレアが討滅を失敗している、という事実自体、シンクレア家が秘匿してきた事実なのだから。
しかし、セオドアやオスカーの相貌を見るに、ユージーン・シンクレアの処刑については彼等もライリーと同様に初耳だったであろう事は、最早疑いようが無かった。
初代勇者ユージーン・シンクレアは精霊大戦以降は生を全うし、その生涯に幕を下ろした。そう歴史上では伝わっている。千年という途方もない後世に生きるライリーは、処刑が真実か否か自身の眼で直接確認する事は出来ない。それでも、面前で嗤う精霊は嘘や冗談を発していないと、ライリーは本能的に理解していた。目の前の精霊は――勇者の孫でありその称号を剥奪されたハロルド・シンクレアは、自分達に今、真実を語っているのだ、と。
『……で、身体から魂魄が離れた直後にオレ様はじいさんに倣って魂魄の融合ってヤツに挑戦してみた』
通常、精霊使いと契約精霊との結び付きは、一方の死によって分断される。故に精霊使いの死により交わした契約が解除された精霊は、未契約の状態に戻るのが常道だ。
しかしハロルドは、自身の意識が暗闇に落ちるその瞬間に、自身の契約精霊と自らの魂魄とを融合させてみる事にした。自身の祖父に出来た事を、自身が出来ない筈は無いと、ハロルドは感覚的に確信していた。
『まァ、結果としてはじいさん程上手くいかなかったがな……』
自身の祖父ユージーンの魂魄は、契約精霊であるサイラスと融合し、一つとなった。通常は精霊としての意識しかないが、咎人の間という特殊な空間内に於いてのみサイラスの裡に宿るユージーンとしての意識がサイラスの外へと顕れるのだと言うハロルドは、自身の場合は少し異なるのだと言葉を続ける。
『……オレ様と融合した事で、アイツの意識は消えちまった……』
ユージーンやサイラスのように一つに融け合うのではなく、自我は完全にハロルドの意識と記憶で統一された。最早意識の奥底からも、自身と契約を交わした精霊の気配すら感じられないと語るその口振りからは、これまでの嘲笑は鳴りを潜めている。煌めいていた両眼に宿る感情は、僅かな悔恨と、静かな憐憫。
『ま、次の瞬間には人間だった頃の記憶も意識も欠如してオレ様は新たな精霊として覚醒したンだけどよ』
記憶と意識を喪失しても、元の性格までは変わらない、そう締め括ったハロルドからは、先程浮かべた悔恨も憐憫も見受けられない。まるで幻影を見たかのようだ。
『えぇ。その口の悪さと人を食ったような性格は、紛れも無くハロルドのものです』
『うるせェぞ、じいさん』
独白であるかのようなサイラスの言葉に、ハロルドの表情が舌打ちせんばかりの渋面に変わる。
契約精霊と魂魄の融合を果たし、それまでの記憶と意識を失くして新たな精霊として覚醒した、とは言え元は異端児である。故に、当主であるハロルドの実弟は、咎人の間にてサイラスと対面した際に、全ての事情を打ち明ける事にした。
当主の言葉もハロルドの事情も、全ては自身の討滅失敗が及ぼした責任。故にユージーンは新たな精霊と成ったハロルドを――ハルを、咎人の間に受け入れると決めた。
『その名の通り、此処は咎人共を閉じ込めておく為の牢獄なンだよ』
オレ様もじいさんも未契約だとこの部屋からは出られねェ、と。
『……咎人の間は生前私とサイラスが行使した精霊術の支配下にあります……』
哄笑を従えるハロルドとは対照的に、サイラス、否、ユージーンとしての意識が静謐を友として発言した。
牢獄とは、外も内も堅牢なものでなければならない。精霊と人間の魂魄の融合した特殊体を閉じ込める為の空間は、同時に双魔の侵入を遮断するという特性を有する。
処刑が決まったその日の内にそういう術を施しておいたのだと語るサイラスの瞳に、計り知れない決意が宿る。
『咎人とは言え、否、だからこそ……一族の行く末を見届ける義務が私にはあるのです』
『そんなんだからじいさん処刑されンだよ』
『処刑されたのはお前もでしょう』
『じいさんと一緒にすンな』
シンクレア家の先人である事を証明するかの如く、サイラスとハル――双方の両眼は今、夕暮れ色に染まっている。その橙が宿る眼が互いに半眼となりながら、互いに軽口を叩き合っていた。セオドアが憑依されていた時の激情も、ハロルドの語った憎悪すら出現させる事無く交わされる言葉の応酬に、これまでとは異なる感情に因ってライリー達の思考は相変わらずの停滞を続ける。
周囲が置いて行かれている事に気付いたらしいハロルドの眼差しが、漸くサイラスから焦点を替えた。
『……ずっと一緒に居りゃ恨みも消える……』
洩らされたのは、小さな呟き。
同じ感情を長く保ち続ける事は難しい。憎悪は跡形も無く消失した、とは言い難いが、人だった頃と同様の悪感情は既に風化しているのだと続けるハロルドは『今は単にクソ真面目で頑固で自己犠牲の過ぎるじいさんとしか思っちゃいねェよ』と締め括り、サイラスから再度の半眼を貰っている。
「……牢獄だというのならば何故……、」
閉じ込めておく為の牢獄だというのであれば何故精霊契約を結ぶ為に、歴代シンクレア家直系の子孫に、精霊契約に臨む前に必ず咎人の間に入るという絶対条件が課せられているのか。
『あー……いつからだったか覚えてねェや……じいさんは?』
『正確な年代までは流石に……』
無意識下に零れ落ちたのであろうオスカーの声を、その思考を真っ先に拾い上げたのはハロルドだった。
『オレ様から何代後裔だったか知らねェけどよォ……オレ様達と契約を結びたいって酔狂なヤツが来たンだよ』
ハロルド曰くその〝酔狂なヤツ〟は、当時のシンクレア家当主の子。即ち次代勇者の継承者であったのだそうだ。
精霊契約の打診を受けたハロルドは、面白そうという理由で契約を了承した。
『ンで、じいさんはオレ様のお目付け役』
『シンクレア家の異端児とまで呼ばれたお前を野に放つ訳にはいかないでしょう』
苦々し気な表情と共に洩らされた言葉に、ハロルドが哄笑で以て応える。
『後裔も名前だけは聞いた事あンだろ?シンクレア家歴代最強の名を恣にしたドミニク・シンクレア……初代勇者を凌ぐとまで言われた程の実力者……ソイツだよ』
ドミニクが何代目の当主なのかまでは覚えちゃいねェがよ、と。
驚愕の腕に抱かれて、未だ沈黙の枷を外せずにいるセオドアの双眸に視線を合わせ、ハロルドが嗤う。
『当時は問題児だのと散々に蔑まれてたアイツのがオレ様なんかよりよっぽど異端児だったぜ?』
当主以外の入室が禁じられた部屋に入り、ハロルドに契約を打診する。型破りどころか掟破りのその行動に、ハロルドの裡で興味という名の食指が動いた。
二体の特殊体の契約主となり優れた精霊使いとなったドミニクは、掟に背いた以上の功績を成し結果として断罪される事も無く処刑も免れた。
『……ドミニクが世を去った後……何代か後の当主から、咎人の間に入るという条件が課されたそうです……』
シンクレア家直系の子孫の精霊契約に関して〝咎人の間に入る〟という条件が課せられたのは、ドミニクの死後に定められたしきたりなのだという。
ドミニクが契約していた精霊との契約、及び精霊術の行使。その真意、恐らくは威光だとサイラスが言葉を紡ぐ。
『確かに魅力的だよなァ……最強の精霊使いだった契約精霊の契約主になるって肩書きはよォ……』
『条件はその後しきたりとして慣習化し、現在も残されているのです……』
しきたりが定められたと同時にサイラスとハル、この二体の精霊が初代勇者と異端児である事は意図的で以て秘匿とされた。真実を知る者全員が口を噤み、やがて死に絶え、そうして定められたしきたりだけが残された。隠された真実に因って歪められた慣習が生まれ、それが後世に継承されたのだ、と。
『ドミニクとの契約時……咎人の間を出た瞬間から、人だった頃の私達の記憶は喪失しました……』
かつてユージーン・シンクレアと呼ばれた精霊使いだった頃、自身の契約精霊であったサイラスと共に施した精霊術。魂魄の融合を為し特殊体と成った後は、誰かと契約を結ぶ等とは考えもしていなかった、否。
『……咎人の間とは精霊と人の魂魄とが融合した特殊体の為の牢獄……故に一度入れば出る事はおろか、契約を交わす事すら不可能なのだと思っておりましたが……』
呆気ない程簡単に契約を交わしたハロルドとドミニクに、契約主を得た特殊体ならば出る事は可能だと覚ったサイラスは、ドミニクと契約を結んだ。ハロルドの発言通り、お目付け役として、だ。
それから先は、只の契約精霊として――サイラスとハルとして、ドミニクの傍らに在り続けた。そしてドミニクの死後に契約が解除された瞬間、二体は咎人の間へと強制送還されたらしい。
ハロルドが精霊として覚醒した時に意識と記憶を失い、咎人の間に入ってからその意識と記憶とが戻った事で、ある程度の予測はしていたものの。咎人の間に存在している時にだけ生前人間であった頃の意識が降りるのだと確信を得たのは、この強制送還の時だったという。
この事から、特殊体が咎人の間へと閉じ込められるのは未契約状態である事、契約主を得れば出る事が可能である事、契約の解除に因り強制送還される事、契約精霊として外に出ている時には喪失している記憶と意識が送還後は戻る事を、ユージーンとハロルドは経験から知った。
『それからは時々〝コイツ面白そうだな〟ってヤツが来たら契約してやる事にしたンだよ』
じいさんよりオレ様のが契約の回数は多いがな、と。
意識と記憶とが喪失するとは言っても、契約の解除に伴う強制送還に因り契約していた間の記憶は取り戻せる。世界の情勢を知る為にも時折契約を交わしていたのだと告げるハロルドに対し、お前の本音は退屈しのぎでしょう……、と、額に手をやってサイラスが洩らす。
『――で、後裔がお仲間引き連れてわざわざ来た理由は何だ?こんなご大層なモンまで設置しやがってよォ……』
かつて人間であった頃、異端児と呼ばれていた精霊の両眼に、興味と推察の光が灯る。
『直に見たのは初めてだが……コレ転移門だろ?しかも設置したヤツはそこの紅い坊主とよく似てた。おまけに……見るからに精霊使いじゃねェヤツがいるよな?』
ハロルドの眼差しは転移門からユンへと移り、最終的にその夕暮れめいた橙は、真っ直ぐに彼女を貫いた。
『……そうだな、例えば魔王が甦った……ってのは……ハハッ!当たりか?』
それは恐らく、根拠すら無い憶測の発言。しかし、この場に居る全員の相貌から憶測が事実と見抜いたハロルドは、初めてこの場に顕現した時のように呵々と嗤う。
『面白ェなァ……じゃあ精霊使いでもねェそこのお嬢は甦った魔王となんか関係でもあンのかよ?』
「……わかりません」
『あ?』
「わからない。だから、知りたいんです。魔王の事……貴方達の言うテオドール・シンクレアの事を」
私は、それが知りたいんです、と。
「だから……何か知っているなら教えて下さい、ハロルドさん」
今度は彼女が、ハロルドの双眸を射抜く。
『……あー、メンドくせェからハルでいい……』
真摯な瞳に宿る輝きを、胸中でどう受け止めるに至ったか。先に視線を逸らしたのは、ハロルドの方だった。
『……ってもオレ様も詳しくねェぞ、知ってンのは初代シンクレア家当主から放逐されたってコトぐれェだな……寧ろ、じいさんのが詳しいだろ?』
逸らした視線の先で、再びサイラスの姿を捉えたハロルドが言う。
ハロルドの意識が向いた事を契機とし、その場に集った全員がサイラスの言葉を待った。
「――一体どういうつもりかね?アルフレッド……我々の承諾も無しにシンクレア家に赴いた上、断絶していた筈の交流まで復活させるとは」
「そうだとも!シンクレア家当主からの書状にしてもだ!まずは本家である我等に報告するのが筋というものだろう!」
「……やれやれ……これだから何処の馬の骨とも知れぬ輩は困る……何がヴァレンティン家当主か……元は拾われ子の分際で……」
壇上から落とされる、三者の言葉を聞き流す。聞いたところで何の身にもならない上に、その言葉は理解する程の価値も無い。
揃いも揃って枯れ枝の如く老骨に鞭を打ってまでの発言なのかと問い質したいが、それをすると長くなる。そもそもどういうつもりも何も、向こうは此方の弁解や弁明を求めている訳ではないという事を、経験上アルフレッドは知っている。要するにこのご老体のお三方は、己が正しいという主張を免罪符に只、不平と不満とを幼子の如く喚き散らしたいだけなのだ。現に、先程から実りある言葉は一つたりとて発されない。
血筋に醜くしがみつくヴァレンティーノ家と、森の精霊によって継承が決まるヴァレンティン家とに、不本意であろうが血縁上の繋がりがあったのは初代だけ。二代目以降はそれこそ何らの繋がりも無いというのに、千年という歳月を経ても本家面とは笑わせる。最初から通す筋等無かろうに。
やれやれ、これだから愚昧で蒙昧な輩は困る。まあ、身体は疾うに老朽化して健康体とは程遠い分際で、精神はいつまで経っても溌剌としているところだけは称賛してやっても良いか、等と胸中で愚弄しつつ、それにしても、と、アルフレッドは思考を続ける。
壇上から三者が放つ不平不満は既に、あの御三家会合の後にヴァレンティーノ家に赴いた過去のアルフレッドが聞いている。どうやら一度の吐き出し程度では、鬱憤の発散には不充分だったらしい。それとも遂に己が発言を忘却する程に耄碌したか。
後者であれば嬉しいが恐らくそれはないな、と、アルフレッドは殊勝な態度を装いながら嵐が過ぎるの待つかのように、長老達の口が停止するまで沈黙を友とする事を決めた。
「……そもそも決定権は此方に有ろう、全く勝手な事をしでかしおって……」
「……それにしても他の御三家も大概ですぞ!我等を差し置きこんな若造に……!」
油でも注しているのかと思う程良く回る口から次々紡ぎ出される言葉の羅列は、一向に止まる気配を見せない。待つ選択は誤りだったかと頭の片隅に浮かべつつ、その老いた肉体にも同じ油を注すべきでは?きっとよく動けますよ?等と表情には出さずに嘲弄する。
「……我等の居らぬ会合に意味等あるものか……寧ろ我等に敬意を表し、他の御三家が此方に赴くべきであろうに……」
敬意とは!この老人達の前では鉄壁を誇るアルフレッドの相貌が、瞬間、瓦解の危機に晒された。無論、決壊等させる筈も無いが、あまりの愚かしさに湧き上がる感情を抑制するべく、アルフレッドの瞼は瞬間的に世界から視界を隔絶させる。
壇上の主張はアルフレッドに対する糾弾から、他の御三家であるシンクレア家やブラッドレイ家への罵詈雑言へと掏り替わり、今や完全に誹謗中傷と化していた。憤怒と興奮が香辛料の如く塗された悪口は、加齢による嗄声を更なる高みへと上擦らせていく。
嗄声は最早、耳を劈くかのような不快さを伴う雑音としてしか響かない。
醜悪なる不協和音はアルフレッドの身の裡の最奥、深淵に巣食う暗澹たる情感を呼び覚ます。
ああ、やはり……、と、湖面を思わせる紫水晶が、今度はゆっくりと瞬いた。
――……人間は、嫌いだ……――
アルフレッド・ヴァレンティン〈Alfrad・Valentin〉
Alfrad:妖精の助言者
髪=銀灰色/瞳=紫色/年齢=35/性別=男
長所:精霊に好かれる/短所:言葉が足りない
ウィリアムの兄。精霊使いの一族ヴァレンティン家の若き当主。




