表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無題  作者: 雨木うた
3/3

四神の国

朝になり、旅籠の玄武族達も動き出したようで話し声や物音がしている。シンは既に起きているようで寝床にはいなかった。ジュニは前夜眠れず過ごした為重い身体をノロノロと動かし起き上がった。部屋から一歩出ると旅籠の使用人の玄武族の若い娘が居合わせて「あら起きたのね、おはよう。お兄さんは裏庭で鍛練しているわ。ちょうど朝食の時間なの。一緒に行きましょう。」とジュニを誘った。ジュニは頷いて付いていくと広い台所に出た。そこに旅籠の使用人達の食事が準備されていてシンとジュニの分も用意されているようだ。

やがて鍛練を終えシンが現れジュニと並んで座った。そこへ大巫女であり女将のヒョジンと番頭ジンがやって来て使用人達に「この2人は今日からここで暮らすシンとジュニだ。仲良くしておやり。」と告げた。使用人達は一斉にシンとジュニを見たが、シンとジュニは黙って頭を下げた。使用人達はシンの右手の白虎族の印に気付いていたので「何か訳ありなんだろう」と思っていたようだ。ヒョジンとジンからシンとジュニの事をこれ以上聞き出せないと理解した使用人達はシンとジュニを問い質したりもせず、何事も無いように接してくれたのでシンとジュニはとても有り難かった。

シンは旅籠の男の使用人達と主に力仕事をし、ジュニは旅籠の女の使用人達と掃除や料理の下拵え等をする事になった。ジュニは女の使用人達に連れられて寝起きしていた部屋で今まで着ていた男の子用の服から女の子用の服に着替えさせられたが、いかんせん昨日まで自分を男と信じていた為にジュニの違和感は強かった。しかし着替えたジュニを見てシンは少し驚いてから「よく似合っている。」とジュニに笑顔を見せた。ジュニはシンの反応に「歩きにくいよ、兄さん。」と照れ隠しにむくれてみせたがシンは笑ってジュニの頭を撫でていた。旅籠の女の使用人でジュニの世話役になったのが朝声を掛けてきたジミンだ。歳が15歳でジュニと同年代であったのと番頭ジンの娘である事、大巫女であり旅籠の女将であるヒョジンの信頼が篤い為選ばれた。ジミンにはシンとジュニの事情を伝えてある。万が一の時にはジミンがジュニを守れるようにと考えてだ。ジミンは話を聞き最初驚いていたが、話の終わりには真剣な顔付きで「承知しました。」と頷いていた。

シンの世話役には男の使用人達の中から剣が扱え腕の立つソジンが選ばれた。ソジンはシンより5歳年上の27歳で剣術に長けていたし、このソジンはジンの甥で大巫女であり女将のヒョジンからも信頼篤い人物だった。ソジンにもシンとジュニの事情が伝えられたがソジンは落ち着いていて特に驚く事も無く静かに話を聞いていた。シンが腕が立つのは白虎族ゆえある意味当然だが、万が一の場合に備えてジュニとシンを守るべくジミンとソジンが選ばれている。大巫女ヒョジンは用心深い人物だった。

ジュニが13歳になりジミンと一緒に毎日くるくるとよく働き旅籠の使用人達からも可愛がられて穏やかに日々が過ぎていくそんなある日の事、ジュニの服に血が滲んでいた為慌てたジミンがジュニの身体を診たらジュニがお腹が痛いと訴えた為急いで大巫女ヒョジンに相談して診てもらったところ、なんとジュニに初潮がきていた事がわかった。ジュニは初めての事であり、今まで男として過ごしていた為にきちんとした知識も無く、身体から血が流れ出る事に怯えて泣いていた。ジミンとヒョジンから病気などではない、女の子はいずれ母親になるために必要な事だと一通りの説明があったがまだ不安で部屋で泣いていた。そこへシンが部屋へ戻りジュニの頭を撫で「大人になる為の準備みたいなものだから心配いらないよ。」と慰めると、ジュニはお腹の痛みはあるが不安は少し薄らいでいった。

数日経ちジュニの体調も落ち着いた頃、大巫女ヒョジンに来客があった。旅籠の客ではない。右手に玄武族の印がある中年の男性だ。ヒョジンは自分の部屋にシンとジュニを呼んで男性に引き合わせた。男性の名前はヘジン。玄武族の長でありヒョジンの歳の離れた弟だった。ヘジンはシンとジュニに会うと「白虎族の前の長の息子に会えるとは嬉しい事だ。」と笑顔をみせた。シンは覚えていなかったがヘジンとシンはシンがまだ幼い子供の頃に数回会った事があり、シンの亡き父はヘジンと友であったそうだ。以外な繋がりを聞かされシンは驚いていた。ヘジンは幼いファンヒ(ジュニ)とも会っており「姫様がご無事にお育ちになっていたとは…血が細くなったとはいえ、やはり朱雀族は王の一族ですな。」と感慨深げであった。ヘジンはヒョジンからシンとファンヒ(ジュニ)の事を知らされ急いで玄武の里から訊ねてきてくれたのだ。しかしヘジンからファンヒの右手に印が無い事を聞かれたシンは、亡き王妃が最後の力を振り絞り全ての魔力を使ってファンヒの右手の印と記憶と魔力を消した事をヘジンに伝えた。ヘジンは亡き王妃の魔力の強さに驚いていたが、王妃が亡くなって既に10年が経過している事を考え王妃の術は徐々に解けていくのではないかとの推測をその場の皆に伝えた。大巫女ヒョジンも同意していた為、今後はファンヒ(ジュニ)の右手に印がいつ表れ魔力が戻るかわからないのでよくよく注意していくようにと告げられた。ヘジンはその日は旅籠に泊まり翌日玄武の里に帰って行った。

ジュニは目まぐるしい周囲の変化に付いていくのと旅籠の仕事で精一杯であった。しかし徐々に判っていく自身の身の上に不安もあった。それはシンがこの旅籠で生活するようになってから以前よりよそよそしくなったと感じていたからだった。だがジュニにとって誰よりも頼りにし信頼しているのはシンだから、今もジュニはシンを兄さんと呼んでいるが、シンが以前と比べジュニに遠慮しているようにジュニは感じていた。ジュニはシンが自分から離れていってしまうのではないかと不安を感じていたがその事は誰にも話せなかった。不安が現実になるのが怖かったからだ。毎日同じ部屋で寝起きし一緒に過ごしていてもジュニは不安だった。そのジュニの不安にジミンが最初に気付いた。ジミンはすぐに大巫女ヒョジンに相談したが、ヒョジンからは「流れに任せるしかないね」と言われてしまいジミンは項垂れた。ジュニが可哀想だと感じていたからだった。だからジミンはシンと毎日一緒にいる従兄のソジンに相談した。ソジンからは「少しシンの様子を見てみよう」と言われソジンに任せる事にした。次の日シンはソジンからジュニの事をどう考えているのかと尋ねられ、一瞬言葉に詰まってしまった。シンにとってジュニ(ファンヒ)は仕えるべき主であり、10年間は兄弟でもあったからだ。しかしこの旅籠に助けられ過ごすうちに少しずつ気持ちに変化が表れていた。ジュニ(ファンヒ)が女の子の姿に戻り旅籠の中でくるくるとよく働き笑顔を見せている。初潮を迎え身体が大人になろうとしているジュニ(ファンヒ)が何気無く見せる表情にも女性らしさを感じるようになり、ジュニ(ファンヒ)の今までとは違う印象を感じる度にシンは以前は無かった感情を覚えるようになっていた。その感情がなんとゆう名なのかはシンにはわからなかったが、時たま自分の心に暴風にも似た感情の波が現れる事があったからだ。

シンはソジンに「ジュニは仕えるべき主であり、兄弟でもあるんだ。俺の命より大切な存在だ。」と告げた。ソジンはその事をジミンに伝えた。ジミンはジュニに「シンはジュニの事を大切に思っているから大丈夫だよ」と伝えた。ジュニは少し考えてから「わかった。心配してくれてありがとう。」と返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ