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無題  作者: 雨木うた
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四神の国

「兄さん、お帰りなさい!」森に響く少し甲高い声。隣には優しく微笑む父母の姿がある。

旅暮らしの一家の食糧調達の為に少し離れた村まで兄が馬で出掛けていたのだ。その帰りを待っていたジュニと父母は笑顔で兄シンを迎えた。父が「首尾はどうだい?」と兄に尋ねれば、兄が「上々だよ、父さん。」と答える。そこにジュニが「母さん、お腹が空いたよ!」と訴えれば母は笑って「ジュニお腹が空いたのね?すぐに食事にしましょうね。」と答える。どこから見てもどこから聞いても幸せな家族の姿だった。

しかし、家族は極力ジュニを他人と関わらせないように注意していた。今は亡き王妃に生き写しに美しく育ったジュニを誰に見咎められるかと毎日怯えながら生活していた。亡き王妃はあまり顔を知られてはいなかったが、いかんせん顔立ちがとても整っていたためジュニの顔を他人には見せないように気を付けていた。旅暮らしなのは運が良かったとさえ思っている。定住していないが故に長期間関わる人間は居ない。しかし用心に用心を重ねるように家族はジュニが街道を歩く時や人目がある時は必ず頭から顔が隠れるような頭巾をすっぽりと被らせていた。父母は行商人だが、商売の場にはシンもジュニも連れていかずに人目を避けて暮らしていた。

だからジュニにとっては大好きな兄と両親が世界の全てだった。

ジュニはもうじき13歳になる。将来何をしたいかなどは考えてはいなかったが、漠然と父のように行商人になるのだろうと思っていた。

しかし父母の商売で立ち寄ったある村でジュニは村人に顔を見られてしまう。頭巾をせずに馬の様子を見に行った為だ。ジュニを見掛けた村人は「子供は息子2人だと聞いていたが、あれは女の子では?」と不思議に思い、村でこの話を他の村人に話してしまう。

村の中でジュニの容姿が優れていると話題になり、父母に対してジュニを売らないかとまで聞きに来る者が現れた。危機を悟った父母と兄シンは、シンがジュニを連れて即刻村から離れる事にした。シンと同じくジュニも馬に乗れる。とにかく今は一刻も早くこの村を離れるべきだと父母とシンは決めた。

しかし、父母は村に残りシンとジュニがまだ村に居ると見せかける為に残る事にした。

ジュニは父母を心配して嫌がったが、ジュニに何かあれば父母が心配するからと兄シンに説得され渋々受け入れた。

深夜、シンとジュニは馬小屋に隠れていた。日付が変わり夜も更けた頃シンとジュニは馬小屋から馬を引き出し、村外れまで馬を引いて歩き、村外れを過ぎると馬に飛び乗り一気に駆けた。目指すのは少し遠い大きな街だ。人を隠すには人が多い場所がよいからだ。

シンとジュニは2日2晩馬を駆けて何とか街までたどり着いた。

シンは父母にも行き先は告げていないし、父母も教えなくてよいと言っていた。万が一村で拷問にかけられてもジュニの居場所がバレないようにする為だ。

父母の事は気掛かりではあったが、シンはジュニを守る為にも生き延びねばならない。その為には働かなくてはいけない。たどり着いたこの街で頼る人もいないがどうにかしなくてはとシンは考えていた。

一方ジュニは父母の事が心配でずっと泣いていた。シンが大丈夫だと声を掛ければ頷いて涙を拭くが、やはりまた涙が溢れてしまう。そうしているうちに街中の旅籠がある通りに2人が差し掛かった時、1人の老女から突然声を掛けられた。「今日はこの宿に泊まっていきなさい」と。

当然2人は怪しんだが、老女は更に「この宿に泊まれば打開策がみつかるだろう」と言われ、老女の右手を見たシンはそこに玄武族の印を見付け信用する事にした。

玄武族は亡き王の一族だからだ。ファンヒであるジュニも半分は玄武族の血が流れている。

シンはこの老女の素性は何となくわかったが、何故自分達に手を差し伸べるのかがわからず不安は残るが、玄武族は偽王と対立しており、ひとまず信じる事にした。

ジュニは訳が判らず不安だったが兄が大丈夫と言ったので信用する事にした。

宿の馬小屋で馬を休ませ、旅籠に入った2人は玄武族の老女が宿の女将だと名乗った為、妙に納得していた。老女は右手に印を持つ為、玄武族の嫡流だとわかる。ならば神事を司る玄武族の嫡流の女性ならば有能な巫女の可能性が高いとシンは考えていた。旅籠の女将だと名乗った老女は名をヒョジンと言った。ヒョジンはてきぱきと宿の者達を統率していた。旅籠で働く全ての者が玄武族の者であるようだ。ヒョジンからもそう説明があった。宿の一室、ヒョジンの部屋でシンと頭巾姿のジュニ、そしてヒョジンの部下の男が1人の計4人が集まっていた。

ヒョジンの部下の男は番頭で名をジンと名乗った。ジンからヒョジンが玄武族の先代巫女で現在は大巫女と呼ばれていると説明があった。シンは自分が白虎族であると右手にある印をヒョジン達に見せた。ジュニはシンから頭巾を取るよう言われて初めてヒョジン達の前で頭巾を外した。そのジュニの顔を見た大巫女ヒョジンは「キハ様…」と呟いた。

それを聞いたシンはジュニの本当の名前が「ファンヒ」である事、自分はファンヒの護衛である事、ファンヒは男の子として育てられていた事、この10年間は人間の養父母に育てて貰った事をヒョジン達に話した。

しかしジュニは全て初めて聞く話ばかりで頭が混乱していた。目の前に居る大好きな兄が兄ではなかった事、大好きな父母が他人であった事、自分が男ではなく本当は女の子だった事、名前すら自分のものではなかった事等、すぐに受け入れられる内容ではなかったからだ。

ヒョジンはジュニに「頭巾は逆に目立つからやめておいた方がいい。名前は今まで通りでいこう。万が一に備える為にも。あぁ、ジュニはこの旅籠の敷地からは出ないようにね。」とジュニとシンに告げた。シンも了承してその日は終わった。ジュニとシンは同室に通された。今夜からこの部屋で生活するのだ。シンがジュニと同室なのは護衛だからだとヒョジンはジュニに言った。

その夜、ジュニは今日の出来事が頭を占めて眠れずにまんじりと夜を過ごしていた。シンも眠れていないようだ。

2人はポツポツと話をした。

主にシンがジュニに10年前に何があったのか、何故自分達は逃げていたのか、何時男の子と偽っていたのか、何故ジュニの右手には印が無いのか、色んな話を一晩かけてシンがジュニに語って話していたら、外が次第に明るくなっていった。夜が明けたようだ。今日からはこの街で新しい生活が始まる。

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