四神の国
かつて、神々と人は共にあった。
しかし人が増えるに従い次第に信仰は薄れ、神々は人から離れていった。だが四柱の神が人と交わり、その血を引く末裔達が治める国があった。
四柱の神とは、玄武、白虎、青龍、朱雀。それぞれの神の血を引くそれぞれの一族が国を支える柱となった。玄武族は国の神事を司り、白虎族は国を守る軍を司り、青龍族は政を司り、朱雀族は王家を司る。この神々の一族で嫡流の血を持つ者は右手の甲にそれぞれの一族の印を持ち、その持ち主の中から1番魔力が強い者を代々の族長に任じてきた。人々はこの四柱の神の一族に守られ平穏に暮らしていた。
しかし、この平穏を壊す出来事が起き始める。王位簒奪。神々の定めし王位を浅ましい考えによって奪う計画がたてられていた。きっかけは朱雀王家に生まれた1人娘キハだった。このキハに恋するも彼女に選ばれなかった朱雀族の傍流の男が、キハを諦めきれず王位簒奪を計画したのだ。キハを手に入れるには王位に就くしかないと考えたこの男はキハに固執した。
朱雀王家の娘キハは美しく心優しい娘で、自身の夫には相愛の玄武族の嫡流の男グァンギュを選んだ。故にグァンギュが新たな王となり、朱雀族の嫡流の娘キハが王妃となり四神の一族の協力のもと国を治めた。数年後2人の間には愛らしい娘ファンヒが生まれた。しかし王位簒奪の計画は進む。
2年後、生まれた娘ファンヒが2歳になった頃、王位簒奪は実行された。まず国を守る白虎族達に毒を盛り、王グァンギュを弑し次いで王妃キハの身柄を確保すべく反乱軍は王宮を荒らした。王妃キハは娘ファンヒを守るため最後の力を振り絞り全ての魔力を使ってファンヒに術を施した。それはファンヒの右手の甲の印を隠し魔力と記憶を消すもので、右手の印と魔力と記憶を消されたファンヒは男の子の服を着せられ、ファンヒの護衛であった白虎族嫡流の少年シンに託された。キハはシンに「追っ手から逃れる為には魔力は決して使ってはならない」と伝えてシンとファンヒを逃がしたのを見届け力尽き亡くなった。その後反乱軍は四神の一族を国の中枢から追い払い、己の意のままに動く人間達と共に国を乗っ取った。王位簒奪が成った朱雀族の傍流の男は、キハを失った悲しみに暮れていたが誰かが王にならねばならず自身が王として即位したが、民や四神の一族からは『偽王』と呼ばれ続ける事となる。まさしく『偽物』なのだから致し方ない。その間も反乱軍によるファンヒの捜索は執拗に続けられた。シンは右手の印を隠して反乱軍の追跡を掻い潜り、男の子に扮したファンヒを連れて兄弟を装い追跡を逃れた。
やがてなかなか手掛かりの掴めないファンヒの行方に反乱軍が捜索を諦め始めた頃、記憶を消されたファンヒはシンによって新たにジュニと名付けられ兄弟として深い森の中の狩り小屋に隠れ住んでいた。しかしシンもまだ12歳の少年ゆえ2人の暮らしは苦しいものであった。その後狩り場でたまたま行き合わせた人間の行商人の夫婦と出会った。子供のいなかった夫婦は2人を憐れに思い自分達と共に暮らさないかとシンに申し出た。シンは悩んだが自分1人ではジュニ(ファンヒ)を守りきれないと考え、申し出を受け入れ2人は行商人の夫婦の子供として引き取られた。行商人の夫婦は善良で2人を我が子として育てた。シンの右手の印に気付いていたが見てみぬフリをしていた。何か事情があるのだろうと思い問い質しはしなかった。シンからジュニが本当は女の子だが記憶を失くし男の子として育てていると打ち明けられた行商人の夫婦はそれでも変わらずシンとジュニを我が子として慈しみ育てた。行商人の夫婦と旅をしながら生活しジュニとなったファンヒは自身を男と信じたまま、いつしか10年の歳月が過ぎていた。