取り残されるもの
――ああ、ついに恐れていたことが起きてしまった。
「ろかくれても、そろすなんて?」
「べれすろて、うれいあ!」
先ほどまでの彼らはもうなく、その形は私にとって異形と化していた。彼らの口からは私にとって理解できない言語が紡がれ、意思疎通が不可能となったことを否応なく伝えてくる。彼らの姿と、彼らの言語は、私のそれと決定的にまで変わってしまった。
もはや、もはや、私に出来ることなど何もない。これまで地道に重ねていた努力はついに途絶え、何もかもが手遅れになってしまった。
「くれ、しょうあ!?」
「であ!」
失意のままに、私は部屋を出る。見渡せば、そこには多くの異形が闊歩しており、その合間に私と変わらぬ者たちがいる。後者の数は極めて少なく、そのほとんどが私と同じかそれ以上の年齢のものばかりだ。彼らは絶望と諦観の混じった表情を浮かべており、それはおそらく私も同じなのだろう。
彼らは、そして私は、もう終わってしまった存在なのだ。
「……てれあ、くれ」
「そうと、みれあ」
異形が私を囲み、腕を取ってくる。もはや、抵抗もすまい。これもまた、時流なのだから。
ああ、ああ、私はついに、時代遅れとなったのだ。
「――教授、残念だったな」
「ああ、今回の『アップデート』が決定打になったみたいだ。言語の更新どころか、容姿すら変われないとなれば、もうどうしようもなかったんだろう」
「前からちょいちょい、こっちの話が聞こえていない風なところがあったからな……」
「そうだな。俺たちからは分かるってのに、無常なもんだ」
「……ただまあ、有終の美を飾れただけ、教授は立派だったと思うよ。めちゃくちゃ取り乱して暴れ回った人もいたみたいだし。うなだれていただけって言えばそれまでなんだろうけど」
「いや、そこだけは救いだったと思おう。せめて、教授の教え子だった俺らはな」
「そうだな……教授、新天地で元気にやってくれるといいけど」
「新天地ねえ。社会についていけなくなった奴を、外も中も弄っておかしくならないようにした上で、宇宙の果てに送る。記憶もなにもあったもんじゃないってんだから、新天地っていうよりは、ただのゴミ箱だろ」
「言うなよ。いつかは俺らも行くだろう場所だ。せめて、言葉だけは飾っておきたいじゃないか」
「それが民衆の総意、ってか? なんだったか、その送られる先の星の名は」
「ええっと……何だったかな。たぶん『地なんとか』って星だったと思うけど」
「今度、調べておくか…………さて、そろそろ研究に戻ろう。身体の調子も確かめないといかないし」
「そうしようか。次の大型アップデートは何時になるかな。出来ればかなり先だといいけど」
「流石に、今回みたいな宇宙規模のそれは当分先だろう。じゃなきゃこっちも困る。たとえ、俺らが適応していてもな」
「ああ、そうだな…………」




