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要編  63 変調

   

 シーン63 変調




 3ヵ月間、要は高熱と微熱を繰り返し、固形物を口にすれば吐くか、激しい腹痛に襲われ、高熱を出しては寝込むの繰り返しで、ねむれば決まって、アルファーの誰かが夢に現れ、何かを言っては去って行く。



 その度、ハッと目を覚しては現実と夢が倒錯とうさくし、朦朧もうろうとしながらも、ベットから起きあがろうと激しくもがき、大量の汗をかく。そして、体力を失った。




 毎日往診する医師から、そんな要の状態を知ったボスは、看護師を要の付き添いと、身の回りの世話に専任させる。



 この看護師の名は、通称つうしょうピエロ。

 口が聞けなかった。




 食事が思うようにれず、足りない栄養を高カロリーの点滴でおぎなうが、医療器具が不足した古典的な点滴に、左腕の血管は1ヵ月でつぶれ、そんな事はどうでもいいと、要は投げやりに受け止め、医師は曜日毎ひごとに、場所を変えて点滴するようになる。




 ただ、ただ、ただ毎日、ベットに横たわり、集中力にも欠け、イライラする余裕もなく、欲求も湧かずで、要は体重、体力、筋力、気力を落としていった。




 4ヶ月目に入り、微熱は出るものの、起き上がれるようになった要の事を、スパルタンはどこで知ったのか、ボスの目を盗んで船室を訪れ、室内を眺め回し「広いな。舷窓に、シャワー、トイレ、ソファー付きかよ。綺麗な顔は得だな」と言って、痩せ細りベットの上で、上半身を起こした要の顔を舐めるようにして見る。




 要は拳を握るが力が入らず、言い返そうとしたが、気力も続かず、途中で投げ出して、自身の体力低下と精神状態をスパルタンの来室で知る羽目になった。傷はえたが、奮起ふんきしない気力と乏しい体力に、どうしようもなく落ちこんだ。




 そんなある日、ベットサイドに腰掛けたピエロが“I foundation this.Will be your country?“(これをあなたに。あなたの国のカレンダーでしょう?)と書いたメモを添えて、要に日本の情景カレンダーを差し出した。




 受け取り、時間をかけて1月、2月の写真を眺め、3月の薄藤色の明け方に、左側の地平線から樺桜色の朝日が差しこみ、深紫色に染まった海に黒い鳥居が立った写真を見たところで、たまらなく、ひたすらに、日本に帰りたいと切なく、要は号泣する。




 見守っていたピエロが“Someday god will save you“(いつか神はあなたを助けます)とメモ帳に書き、それを読んで僕は泣き笑いで頷く。そして「Thank you.Bless you too.」(ありがとう。あなたにも神のご加護を)と返し、ベットから立ち上がろうとした。僕をせいしたピエロに、「l want to see the sea.」(海が見たいんだ)自分の希望を、ここに来て初めて口にしていた。たまららなく、切なく、愛おしい。忘れていた感情が心の片隅かたすみに暖かくともる。もう、一度、ここから始めよう。痩せほそったガリガリの体、モヤがかかった霧の意志、すっかり細く綺麗になった手、それ以上でも、それ以下でもない。




 うなずいたピエロが要に肩を貸し、舷窓の前に立たせる。




 海面に反射する白い太陽は、眩しく、陽光が頬を打く。目を細めて見る。海を、空を。しばらく眺め、隣に立つピエロに、「Thanks to you. I’ll rebuild from tomorrow.Let me cry with meso meso today.」(あなたに感謝します。私は明日から再建します。今日はメソメソと泣かせてほしい)と泣き笑う。日本に帰ろう。




 その夜、カレンダーをベットの左側壁に貼った。1日でも早く、自力でベットから起き上がれる様になる事と、小さくしぼんだ身体に誓う。





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