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要編  62 ボスとの出会い

  


 シーン62 ボスとの出会い



 迎えに来た水上飛行機にスパルタン、サヤと共に要は乗り込んだ。体力と気力は限界に近く、座席に座ってもふらつく僕を見たスパルタンは、赤いカプセルをニヤリとしながら差し出し、僕は破れかぶれで口にする。



 水上飛行機は海面スレスレを飛び、360度海が広がるばかりの空路を、およそ1時間ほど飛行して着水した。確かに、凄腕すごうでの操縦技術の持ち主ではあったが、迎えに来たロシア人であろう操縦士は、僕を身体検査している最中さいちゅう、アーミーナイフと時計をうばい取った。ナイフは理由がまだわかる。だが、時計は礼儀知らずな行為だ。この男の青い瞳は2〜3分に一度、グラグラと左右に揺れる。精神を病んでいるのか、人が嫌いなのか、何らかのPTSDなのか・・とにかく、気分の悪い男だ。対面するだけで、そういう気持ちにさせる人間は、何処どこにでもいる。



 レーダー監視をすり抜けるような低空飛行は、この空路を熟知じゅくちしている飛び方だ。それに速度も一定で終始、前を向きっぱなしだったこの男は、周囲への警戒目視もしなかった。管制官かんせいかんを買収しているのか・・どこかの国に庇護ひごされているという事なのか・・・もしくは何も考えていなのか・・余裕よゆうしゃくしゃく々でこの男が着水した地点を海の色、太陽の位置、気候から、南シナ海と推測すいそくした。



 それにしても、身体はゼリーにでもなった感覚なのに、脳はみょうえている。だが、僕ではない。体が難なく動くのは有難いが、気味が悪い。手軽に取り出したスパルタンは常用しているという事か。

 

 着水地点から20mほどの太陽の位置からすると南南西・・・突然、自分を疑わしく思う・・もう一度、太陽の位置を確認する・・・・合ってる。こんな事を再確認するなんて・・・やっぱり僕はどうかしてる。丸ごとおかしい。にもかくにも、南南西の方向20m離れた所に、コンテナ船が海上停泊かいじょうていはくしていた。


 泳ぐ。が、溺れているのか、もがいているのか、よくわからない。



 船壁から下がっている6列の縄梯子なわばしごを上がるが、体力の消耗は激しく、左ふくらはぎが痙攣けいれんしそうになるのを、だまし騙しで上がってゆく。


 動作の鈍重どんじゅうさに不安がつのる。クソ!!!忍耐力も尽きそうだ。注意していなければ足を踏み外す。馬鹿げた話しだ。こんな簡単なことにモタつくなんて・・。絶望的に僕は弱っていた。


 スパルタンの向かいに立ち、会話をしていた身なりの良い男は、全身から水滴を落とし、右鎖骨を露出させた戦闘服姿で最後に上がってきた要を見るなり、絶句ぜっくとも言えるほどに、息を飲んだ。


 それを見たスパルタンはかすかかに口角を上げ、要のことを男に説明し始める。もちろん、要を使ってボスに取り入ろうという、内情の狡猾こうかつさを押し隠してだ。

 


 スパルタンから話を聞いた男は「Hoo.Bloody .Japanese soldier. 」(残忍な日本の兵士)と(つぶや)き、要の顔を見つめて深呼吸する。そして隠しきれない好色を、要に放った。



 男の見惚れている目に、要は僕が好みらしいと苛立ち、ただの顔だと、内心をトゲのある殺気が刺したが、ここは降参のお手上げしかなく、犬歯を見せる破壊力満点であろう笑顔で「here you go.Thanking you in advance 」(どうぞ、宜しくお願いします)と挨拶した。なんて、ひどい挨拶なんだ。よろしくお願いしますって、何をだと考えれば、殺してやりたくなった。



 スパルタンが要に「The boss of this ship.」(この船のボスだ)と言う。僕が差し出した右手の指先だけを、ボスは遠慮がちにしっとりとした左手で、しっかりと握って微笑ほほえんだ。触れ合いのような印象の握手なのに、ボスの意志は露わだった。僕は厄介事やっかいごとを、また1つかかえ込んだ。



 ボスは要に一等航海士が使用する船室を与え、負傷の手当てを受けさせる。


 船医は右鎖骨下みぎさこつした銃創じゅうそうを治療しながら、腹部の打撲の方が深刻だと告げ、至近距離しきんきょりから撃たれたことで、腸が内失血を起こし、肝臓の機能不全きのうふぜんまねく恐れがあるとも言った。医療体制が脆弱ぜいじゃくな船内では、エコー検査すら無理だと説明した後、要に絶対安静だと厳命する。



 高待遇こうたいぐうで向え入れら要だったが、ボスは医師と看護師以外は面会謝絶とし、要を隔離かくりでもするかのように船員の目から隠す。要は治療に専念せんねんできると感謝したが、ボスの気持ちは180°違うものだとも承知していた。日常、観察と考察に終始する要にとって、鈍感力は努力が必要で、逆に気が立つ日々であった。



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