要編 52 疲れているのか・・・
シーン52 疲れているのか・・・
着任してから、幾度となく見て回っているが、本社ビルの監視カメラの位置、警備員の配置、ビル建物の形状、出入り口、その全てのセキュリティレベルは、極めて高く維持され、運用されている。初見した時、その鉄壁さに舌を巻き、国男に対して興味が湧いたのを思い出す。
自分たちが去っても、ここは大丈夫だ。
僕はふと、知りたくなって「ファイター、最近の宗弥をどう思う?」と意見を聞く。「少し痩せたな。顔色もよくないし、ところ構わずの爆睡も、鳴りを潜めてる」冴えない様子でファイターは答え、何か他に思うことがあると感じ、考えに沈むファイターの横顔を見ながら「今回、宗弥が1番、精神的にきついもんな」と返してみる。「いや、そんなんじゃない。集中していないんだ。お前もそんな時が、今作戦中にはあったがフレミングほどじゃない。今のフレミングは、何を考えてるか全く読めない」と言って、チラリと僕を見たファイターが先を続ける。「こういう言い方をすると誤解を招くが、読まれないように遮断している、そんな感じだ」厳しい口調だった。
「宗弥と話さなければと思いつつ、今日まで時間が取れずにいる」と返すと、「俺もそうだ。作戦進行中に時に追われるのはいつも事だ。だが、話さなくても心は読める。そこを言っている」とファイターは言った。宗弥が心を遮断しているか・・・。
嫌な気がした。右手でホルダーからペットボトルを取り上げ、コクコクと喉を鳴らして水を飲む。見上げた目にチョークブルーの空が映り、羽毛のような巻雲があった。
どの国で見る空も、変わりない。
だが、生まれた国、生まれた場所、環境、親の資質、そんなことで人生の差楽はすでに付いている。人は頑張れば、自分の道を見つけ出せると言うけれど、そう簡単ではない。
人は元々が、不平等なのだ。
顔も違えば、心も違う。
身長も個性も違う。
善悪の価値観でさえ、環境が違えば異なる。
日々の生活の中で、試行錯誤しながら幸せを求め、たまに落ちてくる小さな啓示に、はたと気付かされて戒めを知り、生きて行く。
漠然と、これから先の人生で何を失い、何を得るのだろうと考える。そして思う。こんなことばかりが、朝から頭に浮かぶ自分は・・どこか疲れているのか・・と。今日は陰キャラだ。まるで思春期のあの頃のように。
内耳モニターに[送る。トーキー。イエーガー、先ほど3分前に、監視病室のインターネットが、2分間ダウンしました。現在は復旧し、各機器に自己診断プログラムを走らせています。今のところ異常は見つかっていません。ですが、ネットが飛ぶなんて不自然です。外的なものがないか、これから病院内の捜索に入ります]と通信が入る。
[了。送る。イエーガー。トーキー、慎重にな。何かあったとしても、容易く手出しするな。ここは日本だが、指をふっ飛ばす程度の起爆はありうる。ターキー、どう思う?]mapのターキーにも意見を求める。[送る。ターキー。秘匿衛星を使用している我々のネットワークが、ダウンするのはやはり不自然です。自分も慎重に対応した方がいいと思います]とターキーから返答が入った。
内耳モニターで会話を聞いているファイターと、目を見合わせる。
[了。送る。イエーガー。ターキー、mapから病院に移動して、トーキーと共に探索にあたってくれ。2人とも何か発見しても、無理はするな]と指示した。
クソ、最終日にまた1つ、不安要素が増えやがった。[送る。イエーガー。本陣通信局、アルファーの病院拠点のネットが現在は復旧していますが、4分前に2分間ダウンしたと、トーキーから報告を受けました。お聞き及びだとは思いますが、本陣のスパコンにハッキングの形跡がないか、確認されたし。なお、こちらも病院内に不審物がないか、捜索に入ります]と入れ、[承知した]と本陣係官から返信が入る。
雪だるま式に不穏が増えてゆく、クソ!




