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要編  5 武道と図書館



   シーン5 武道と図書館


 国防大学に入校した要は班分けされ、各学年2人ずつ計8人で一班の一員になった。2段ベットの上の段と、私物を入れるロッカーが唯一の個人スペースだ。上級学年は下級学年の相談、生活習慣、各様式の指導にあたり、何事も集団生活を重んじ、規律をげんとすると教え、下級生の学習と修練が円滑えんかつおこなえるように協力する。



 特に要たち第一学年は覚えなければならないことが多々あり、今までとは異なる習慣と規則に順応しようと努力するが、当然のことながら、何かと上級生の指導を受ける事が多い。



 その中には若干、超協力的な先輩もいる。人との関わり方一つで心が腐ると恥ずかしながら、豊富な恋愛経験から知っている要は積極的に指導を度重ねて来られれば、無抵抗に、相手が思う以上に、嫌味なくらいに指示に準ずるようつとめた。



 同期で脱落しそうな仲間がいれば、要もへまをして共に指導を受ける。そうなると毎日が罰当番だ。その間、要は図書館で覚えた般若心経や、聖書の一節、童話を唱えるようになる。



 ここが僕の居場所だ。帰る場所は僕にはない。

 どうあってもやり通して、自己を確立させてやる。

 何があろうと諦めない。

 

 この手で人生を、コントロールしてみせる。

 そんな自覚の元、励む。努力する。



 痛みを知り涙を飲んで、挫けるなんて許さない。



 率先そっせんして指導を受ける一方で剣道を習い始めた。今までは生活するために働かざるを得ず、授業以外で運動する機会がなかった要は、学んだ武道精神の【常に己の生死にかかわらず、正しい決断をせよ】という教えが心にしっくりと馴染んで、至心ししんと武士道が混合されていく内に、これからの心の支えになるのではないかと予感する。



 その予感を修練して確実なものにしようと、武術の会得えとくに熱中する。強くなりたいと相手との間合いの感覚を脳と身体に刻んで切磋琢磨していく中で、考えるよりも先に相手がどう攻めてくるか、察知さっちできるようになっていった。それは要の戦いの防御を多種多様に変貌させる結果につながり、相手の意を突く動作を生んで、先手を取ることが出来るようになっていった。その過程で要は、己の身体能力の高さに気づく。




 それと並行して、図書館に通って叡智えいちを磨く。入学試験の結果は納得いくものではなかったし、きっと下から数えた方が早いだろうと思ったからだ。知力なき者は何かとしくじり、敗れる。もう遠回りはしたくなかった。これ以上の敗者にもなりたくはなかった。



 勉学での敗北はある意味、武道で負う痛手よりも効果的に自尊心を傷つける。自己信頼を崩壊させる。無知は自分を理解してもいない他者の価値観でくだされた評価で、自らを値踏みするよう躾られてしまう。それじゃダメだ。そうならない為に、何があってもブレない自信と我関われかんせずの強さか欲しかった。



 人は自分が馬鹿だと思った人を軽視し、軽んじた人の話は中途半端に聞く。逆に、自分の理解し得ない難しい言語を巧みに操る人間を賢いと認知し、難解な言葉の意味を知らなければ密かに馬鹿の烙印らくいんを自分に押す。そして、その烙印を人に押されることも簡単に許すようになってしまう。



 どう言う意味ですか?とは聞かず、

 何が言いたいのですかと問わず、

 押し黙って甘んずる。



 理解できない自分がダメなのだと思う内心を隠し、難解なんかいで、耳障りのいい言葉を操る人の声に耳をかたむけ、コントロールされていく。



 言葉は武器である。



 人を理解するためにも、

 自分を理解してもらうにも、知識は必要で、

 人生を生きやすくするためにも必須ひっすだ。



 だから要は暇を見つけては図書館に通い本を読む。ページをめくる時の指先に伝わる紙の感触も好きだった。1人の時間とスペースも欲しくもある。初めて図書館に足を踏み入れた時、豊富なジャンルの蔵書を見て、要の探究心に火がつき本の虫となった。



 日々、その日に気になった本を読み、読んで気になる事柄があればその専門書籍を読み、それと対極にある本を読んで、自分の中で対比させて中立を見極める力を養う努力する。そうしていく内に幼少期から抱いてきた疑問と不信に、自分なりの答えが出せる気がしてくる。



『何故』あの時、父は兄を可愛がったのか。『何故』父は母を殴ったのか。『何故』両親は自分を疎んじたのか。『何故』姉は黙って親の言いなりになっているのか。『何故』母は兄を溺愛したのか。『何故』兄は当たり前だと考えているのか。『何故』自死してはいけないのだろう。『何故』人は簡単に愛しているという。『何故』自己愛を人に押しつけて、恥ずかしいと思わないのか。『何故』死を恐れる。『何故』大切に出来ない。『何故』空は青いのか。『何故』人は一度腐ると根底まで腐り切り、落ちていくのか。『何故』金にこだわる。『何故』弱さから出た言葉や行動を優しいさと受け取るのだろう。『何故』強い志を持つ者を遠ざける。『何故』生きる。『何故』争う。『なぜ』愛せないのか。



 そんな漠然とした疑問の答えをより明解めいかいにする為に、要は図書館を巣とした。



 そして要は図書館で、宗弥ソウヤと出会う。




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